Quelle belle




Spell 48





それからまもなく、ハートは魚人島へと上陸した。


ローが言っていた通り、頂上戦争後の魚人島はゴタゴタしているらしく、
『面倒事はごめんだ』というなんともローらしい意見で中数部分には近づかないことにした。


そうとはいえ、王下七武海という称号を得たローに挑んでくる無謀な海賊どもはいた。
ついでに金になると踏んだのか、億超えの賞金首となったセラフィナを狙う奴らも割と後を絶たなかった。

………大前提として、ローが七武海に入った時点でハートのクルーであるセラフィナも賞金首ではなくなるはずだ。
それが更新され続けたのはどうやら懸賞金をかけられる原因がまずかったせいのようで。


初っ端、彼女が麦わらの一味とCP9というか世界政府に喧嘩を売った話は、二億を超えた今では有名になりつつあるらしい。


そんでもってシャボンディではローの隣で疾風とタイ張ったのだ。
そりゃ海軍じゃなくても混乱するわな。

その事実を知ったローのご機嫌が斜めだったのは言うまでもないだろう。




「………ねぇ、セラフィナ」


海賊の襲撃時に、邪魔にならないよう彼女の陰に隠れていたレインディアが声をかける。


「この島にはね、巨大な陽樹があるらしいの」
「陽樹………?ご神木的なやつってこと?」
「そのおかげで海底1万メートルのこの島にも、地上から太陽の光が届くんですって」
「はぁ……。そういや深海で明るいのは珍しいわね」
「気にならない?」
「ディアは見たことないの?」


あの日、レインディアがセラフィナに恐怖の目を向けたあの時。
その日からセラフィナは彼女のことをディアと呼ぶようになった。

どうにも敵対されているというか、好意的とはいいがたい視線を送られている気はするのだが、結局のところ仲間を疑うのは性に合わなかったようで。

レインディアも初めてそう呼ばれた時は口をパクパクさせていたが、わりかしすぐ諦めはついたようである。



「ないに決まってるじゃない。魚人島にだって来たことはなかったわ」
「………正しくは、ここにあるのは陽樹イブの根だ。この真上はレッドライン、さらに行けば聖地マリージョアにあたると言われてるらしいな」


二人の会話を聞いていたらしいローが、欠伸を噛み殺しながら口を挟む。


「え、じゃあバカでかい木があって、それは地上に出てるってこと?」
「さあな。詳しくは分からねェが、その木が見たいなら海の森に行ってみりゃァいい」


セラフィナとロー、二人の口元に不敵な微笑が浮かぶ。
完全に危ない予感しかしない微笑に、クルーは肝を冷やしたとかいつものことだと諦めたとか。















「………お墓……?」


セラフィナが目の前で立ち止まったそこには、墓石のようなものが建っていた。
何か文字が刻んである。ローがそれを見ようとした時。


「誰じゃ!」


ブン、と風が唸った。



保護ガーディアン!!」


条件反射が一番早かったのは、彩色を取得したセラフィナだった。
目に見えない壁が、その風と彼らの間に立ちはだかる。

パリン、と音がして、風と壁が霧散した。無事に相殺されたようだ。



「………お主………」


驚いたようにセラフィナを見るその人は、青い肌をした大きな魚人だった。


「………久しぶりに見たな、海峡のジンベエ」
「いかにも、トラファルガー・ロー。その節は大変お世話になった」

「………え、知り合い?」


敵の襲撃かと思ったのに、と目を白黒させるセラフィナに、ローは小さくため息をついた。


「頂上戦争の時、瀕死の麦わら屋とコイツを治療した。ちなみにソイツは元王下七武海だ」
「お主の一行とは知らず、申し訳ない。………ここに何か御用か」
「特に目的はねェ。…………その墓石は誰のだ」


ジンベエは少し表情を曇らせた。


「………前王妃、オトヒメ様のお墓じゃ」



魚人と人間は分かり合える。
私がその架け橋となる。


そう言って、そのために尽力し命まで賭けた王妃様だったらしい。


だが、当の王妃は暗殺されたのだという。
他でもない、彼女が信じていた人間の手で。




「時たま無作法者が来るんじゃ。オトヒメ王妃は出来もしない理想を掲げた、とんでもないバカ者じゃと。そういった者たちに墓を荒らさせる訳にはいかん」



オトヒメが暗殺されてからというもの、人間の魚人に対する差別はもちろん、魚人から人間に対する差別も激化したという。

だが残念ながら、綺麗事を振りかざしてその差別を失くしてやろうなんて殊勝な真似は出来ない。


彼らは、間違っても偽善者ではない。
海賊なのだ。




「………誰の邪魔をしても、死者の眠りだけは邪魔しちゃいけない」



セラフィナの言葉に、ローも軽く首肯する。
………二人とも、ジンベエの言葉を聞き流すにはあまりにも“死”を知りすぎていた。


自分が生き残るために人を殺す、
………海賊としては当然のように聞こえるかもしれないが、何もそれだけが理由ではない。


彼らにとって、冥界は間違いなく信仰の対象だった。

神だの仏だの、得体の知れないものよりもよほど確実に。



「………ロー殿、少し話をさせてはくれんか」
「………何故俺なんだ?」
「頂上戦争での礼とその後のこと……。またお主に言っておかねばならんことがある」
「………いいわ、ロー。先に行ってる」


ジンベエがローに話しておきたいこととは、
………少なからず、ロー以外にはあまり言いたくないことなんだろう。

セラフィナにか、ディアにか、はたまたどちらにも聞かれたくないのかは分からないが、それを機敏に感じ取ったセラフィナが頷いてみせる。


「………分かった。気をつけろ」
「ええ」



ディアとセラフィナがイブの方へ歩いていくのを見守ってから、ジンベエは口を開いた。



「あの者……セラフィナ殿と申したか」
「あぁ」

「………彩色使いじゃな」



2人の間に、どこか殺伐とした雰囲気が漂った。


  List 


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -