Pirates 7
テーブルの上に並ぶ、大量の肉。
問答無用で彼女を拉致してきた男は、凄い勢いで肉を平らげていく。
その食べっぷりは気持ちいいくらい。
彼女は呆気にとられながらも、奢ってくれるというので目の前に出されたパエリアをつっついた。
………美味しい。
「酒いける口か?」
「ザルじゃないけどね。そこそこは」
肉の合間にそう言った彼は満足そうに口角を上げ、酒を二人分注文する。
「………ところであなたは誰でしょう……?」
「……ん?あァ、悪りィ悪りィ」
少し落ち着いたあたりで切り出せば、彼は人懐こい笑みを浮かべた。
「ポートガス・D・エース。白ひげ海賊団の一員だ」
「はぁ………」
「怖いか?」
「何が?」
言ってからはたと気づいた。
この人もアレだろうか。
ハートの船長みたいに能力者で有名な海賊とかいうオチ。
彼は人懐っこそうな笑顔を浮かべてはいるが、纏うオーラはどう間違っても下っ端の小物じゃない。
白ひげなんて名前は知らないが、(ちょっと可愛いかもなんて思ったが、)こちらの世界では相当強くて有名な海賊団なのかもしれない。
………そういえばハートってどの位置付けなんだろう。
「オメェは?名前なんてんだ」
「セラフィナよ」
「この島の住人か?」
「違うわ。………気も遠くなるほど遠くから来たの」
異世界から落ちてきましたなんて言った日にはどんな反応をされるか分からない。
幸いこの世界には海の広さを知っている海賊たちがわんさかいる。
海図が全てじゃないことも、自分が知らない国があることも分かっているだろう。
そう思って、ぼかして言えば何かを悟ってくれたようだった。
「………なァ、お前雇われてるか?」
「……え?」
酒を一口流し込んだエースは、ふと真剣な表情になって彼女を見る。
「お前が話したくねェことは無理には聞かねェ。……まァ、興味がねェなんて嘘でも言えねェし、いつか聞けたらとは思うけどな。その上で聞いてくれ。俺はお前が欲しい」
ここまで真っ直ぐな言葉を、今までで何回聞いたことがあるだろう。
……ないかもしれない。
「お前が持ってるソレ……女が持つにはデカいような気はするが、武器だろ」
「……鎌よ。私の相棒」
観念してそう言えば、彼は目を輝かせて身を乗り出した。
「かっけーじゃねェか!」
一言目にそう言われたのなんて初めてだった。
みんな、彼女が鎌を使うと聞けば信じられないと疑うか、冗談だと笑うだけだったから。
………だから、素直に嬉しかった。
血の滲むような努力をしてきた結果だから。
そうやって鍛えてきた、唯一無二の相棒がこの鎌だったから。
自然と顔がほころんだ。
その様を直視していたエースは口を開けて固まった。
魂魄その口から出てってますけど、大丈夫でしょうか。
押し込めた方が良かったりします?
「………連れてくぞ。断るとか言わせねェかんな。惚れた」
目を丸くした。
ここまでどストレートに来られると、何より先にびっくり。
恥ずかしいとか感じる暇もなくなる。……凄まじい。
だが行く当てが決まっていない身としては嬉しい申し出でもあった。
彼が何者だか全く分からないが、彼女自身を丸ごと受け入れてくれそうな彼と共に旅が出来るというのは何とも魅力的だ。
口を開こうとした時、
店の扉が荒々しく開いた。
二人が同時に、打たれたようにそちらを見れば、不機嫌オーラ全開の長身の男がそこにいた。
………言うまでもなく、彼は、
「………よォ、こんなところに何の用だ?トラファルガー・ロー」
エースが挑発気味に言えば、ローはただでさえ悪い人相(!)を歪めて笑った。
「俺のクルーに付き纏うのはやめてもらおうか、ポートガス・D・エース」
「………は?」
「………はい?」
エースが目を点にする。
同時にセラフィナも素っ頓狂な声を上げる。
ペンギンかシャチかベポが、前にエースに絡まれていたとかいう因縁があるんだろうか。
とか思った私はきっとバカじゃない。
ローは大きなストライドで二人が座っていた机まで来ると、セラフィナの腕を掴む。
「いつ誰が下船許可を出した。“上陸許可” は出したが “下船許可” は出してねェよ」
「それはテメェの勝手な言い分だろ」
エースがゆらっと立ち上がる。
ただならぬ気配に店の中がざわつき始める。
側から見れば、美女を挟んだイケメン二人。
これはどう考えても、どう考えても完璧な修羅場。………修羅場。
実際恋愛は(まだ)絡んでいないにしても女の取り合いには変わりない。
しかも二人とも名の知れた海賊だ。
オロオロと慌てる店主に、エスカレートしていく二人の殺気。
一触触発かと思った次の瞬間、
ペーン!!
間抜けな音が響き渡った。
「「………は?」」
睨み合っていた危険人物二人が揃って頭を抑え、間抜けな声を上げる。
「じゃあ、先に捕まえた方の船に乗るわ」
二人の頭をはたいた彼女はひらりと身を翻すと店から飛び出した。
目の色を変えた海賊二人が追いかけようとしたが、
「お支払いお願いしまーす!」
なんて呑気な彼女の声にエースは舌打ちして財布を漁った。
「悪りィな」
「テメェ!!待てやゴルァ!!」
何も飲み食いしてないローはエースを鼻で笑って彼女を追いかけた。
エースは金額を数えるのもめんどくさいと、札束を放り投げ、つむじ風を起こしてすっ飛んでった。
実際の食事代より余程多い金に、店主がうはうはだったのは言うまでもない。
「………しまった」
彼女は走りながらそう呟いた。
エースがどんな強者だか知らないが、ローの能力を使えば足の速さなんてお構いなしに言葉通り瞬殺で捕まってしまう。
後ろをチラッと振り返れば、ちょうどローが瞬間移動してきた時だった。
「あちゃー……」
ごめん、エース。
とんでもないハンデあげちゃったみたい。
他意はないよ、悪気もないよ。
「待てやテメェ──!!!」
怒涛の勢いでエースがすっ飛んできた。
………なんか炎見えるんだけどな。
気のせいかな。
なるべくローが瞬間移動しづらそうな道を選んで走っていけば、緑が豊からしいこの島の至る所にあった森へと突入する羽目になった。
縦横無尽には知っても、さすがは海賊と言うべきか、なかなか撒けない。
「あ──!!」
「テメェ引火すんじゃねェよ!!山火事起こす気か!!」
ちょっと待て。
引火って何。
山火事って何。
………気にせずにいられる?
無理に決まってんでしょ。
後ろを振り返った瞬間、目に入ったのは近くの木に着火しているエース。
「………うそー……」
呆気にとられた次の瞬間、誰かの腕に捕らわれた。
「………あ」
「………ハァ……体力、使わせんじゃねェよ………」
「あああああ!!」
やはりというべきか、ローに捕まった。
「最初から言ってんじゃねェか。諦めろ、火拳屋」
「クッソ………ムカつくなお前!!」
だがこの勝負は、元々彼女が言い出したことでもある。
認めないわけにはいかず、エースは歯ぎしりしながらも負けを認めたようだった。
「俺から逃げようなんざ、バカなこと考えるんじゃねェよ」
「………とりあえずこの島までって話だったじゃん」
「残念だったな。一生お前には下船許可出してやんねェよ」
「え、それは困る………」
「………」
「やーい。フラれてやんの」
「………バラされたいか。そうか。バラすぞ」
「けっ。今度会ったら絶対拉致るかんな」
「ほざけ」
(おいエース!!お前肉に全部金使ったんか!?)
(………あ、悪りィ。全部投げてきちまった)
(ふざけんなぁぁぁぁ!!)
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