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Seven Colors 34





それから約一週間後。
ハートの海賊団は、シャボンディ諸島に上陸した。


「…………何、アレ………」


船から降りた彼女は、ふよふよ浮かんでいるシャボン玉を前に目を丸くしていた。


「シャボンディ諸島なんていうくらいだ。浮いてて普通だろ」
「うっ………なんか既視感……」
「………俺まで思い出しちまったじゃねェか………」


そう言うローたちが思い出すのはコーネルとの戦い。
あんな微妙な精神戦、二度とやだ。


「今日ヒューマンオークションやるらしいっすよ、キャプテン」
「ヒューマンオークション?」
「早い話が人身売買ってことだ」


セラフィナは顔を歪めた。


「まさか合法なんて言わないでしょうね」
「よく分かったな」
「…………趣味悪いわ。理解出来ない」


吐き捨てるように言った彼女に、彼は肩をすくめた。



「天竜人の考えることもやることも訳わかんねェからな。変に目つけられないように気をつけろよ」


そう言いながらも、彼の足が向かっているのはオークションの会場らしく。
不穏な空気を察したかのように、セラフィナの隣を歩いていたグライアが低く唸った。


「「止めろ、グライア!!」」
「ガウッ!!」


ペンシャチのGOサインに、テメェらの命令で動くか、アホ。
とでも言いたげに牙を剥いたグライア。

………なんだかんだ馴染んでいる辺り、変な狼である。

ちなみにベポとグライアはまだ和解していない(?)らしく、時たま向かい合ってはタイマンを張っているとかいないとか。


割と誰にでも敵意剥き出しなグライアに、呑気に笑っていたのはセラフィナだけだった。












「なぁ、アレ………」
「“死の外科医”か…………!?」
「その隣のって………」

「アイアイ!俺ベポだよ」


「「「「「お前じゃねェよ!」」」」」

「すみません…………」




偶然か必然か、今シャボンディ諸島には億越えのルーキーがわんさか集まっているらしい。

2億のローが注目されるのは当たり前といえば当たり前なのだが、どうも人々の関心はローの隣を歩くセラフィナへも向けられているようで。



「ありゃ確かに現世の天使だ………」
「あんな綺麗な天使になら魂狩られてもいいぜ、俺………」


「くっくっ………。魂狩ってほしいとよ」
「狩れるか。それ天使じゃなくて死神だから」
「似合いじゃねェか。鎌もいい味出してんぞ」
「私の相棒を死神扱いしないでいただけますかね」
「………バカか。死神はお前だ。お前」
「それは心外」



と。




「あ?テメェ………」


嫌な、とてつもなく嫌な声がした。



「…………何か用か?クソスタス屋」



ユースタス・キッド。
最悪の世代の一人だ。




「………船に女乗せてるってなァ……。俺ァ正気を疑ったぜ」



赤い頭の、ローを越すほどの高身長の男はニヒルな笑みを浮かべ、挑発するようにこちらを見下ろす。


「てめェも堕ちたな。乗せんならもっと使える奴にすりゃァ良かっただろうに」


バカ野郎。
なんでわざわざ地雷踏みに行くんだ、お前。


「そこにいる女がそうか?……はっ…所詮飾り人形か。吹けば飛んでいきそうだな」



セラフィナの温度が急降下した。
だからやべェっつってんだろ、そのセリフ。



「………それ、私に言ってる………?」



蒼い瞳が凍てつくような、怒りに満ちた鋭い光を宿しキッドを射抜く。
………その手配書なんかより数段上をいく美貌に、彼は息を呑んだ。




が。



「“クソスタス屋”さん」




ぶっと誰かが吹いた。

犯人、ロー。




「んな名前じゃねェよ!!」
「知らないわよ。で、売られた喧嘩は言い値で買いますよ」
「はぁ?」

「あーあー………よくもまぁ乗せてくれやがって………」

「ロー、鎌」



面白そうってことで渡してみた(!)。


彼女は袋を投げ捨てると、鎌をくるっと一回転させた。
それを携えて持つ姿は、

………華奢な彼女には、どう考えても似合うはずがないのに、


恐ろしいくらい、すべてがピタリと嵌っていて。



「………お前、マジの戦闘員か」
「いいでしょ?ロー」
「いいぞ。やれ」

「聞けやテメェら!!」



噴火するキッドを尻目に、ポンポン交わされる会話。
彼はガッチャンガッチャンと何やらうるさい音とともに、力を発動させた。


「………お前も能力者なの………」


彼の能力は、磁力を操り金属を思うままに動かせるというもの。
相手の武装を解くことも、また調整次第では攻撃も可能だという。

彼女の鎌ももれなくその対象で。




「けっ。諦めろよ、トラファルガーの女」
「はっ………。よく覚えておくことね、その言葉」



彼女は磁力に引き寄せられる鎌をパッと離した。
キッドは呆気にとられたような間抜け面をさらし、ローも目を見開いた。

タンっと地を蹴ると、軽く空中へ飛び上がる。


(は!?肉弾戦か!?)



んなわけ。




la faucille de la mort死の鎌!!」





彼女が叫んだ瞬間、キッドは目を疑った。

彼に引きつけられていた鎌が、彼女の声に応えるようにふっと彼の元を離れ、彼女の手元に収まったのだ。


(嘘だろ………!?)


なぜ自分の能力から逃れられる。
この女、能力者なのか。

次の瞬間、



「ってェな!!はっ!?」


後頭部に衝撃を受けた。
鎌の柄の部分で強か打たれたらしい。


ストッと音がして、そちらを見れば、

………鎌を肩に担いだ彼女が、不敵な笑みを浮かべていた。



「あぁ………いっそ、狩ってあげても良かったわね。その首」


ゾクリと背筋に痺れが走った。



「残念。私の相棒を好き勝手される謂れはないの。……例え能力者でも、ね」


その蒼に浮かぶ、ゾクゾクするほどの好戦的な光。
………この女、欲しい。






と、その時。




ズガァァァァン…………!!!




凄まじい音がして、三人ははっとしてそちらへ走った。



「…………は?」


ちょうどオークションで人魚が賭けられていたらしい。
のだが、そこに文字通り突撃したらしい一人の男というか少年というか。


「…………マジか…………?」


天竜人は案の定顔を真っ赤にして怒鳴っている。
すぐに海軍が駆けつけてくるのも嫌という程見えるわけで。


「…………チッ…蹴散らしてやるか」
「おい、トラファルガー」
「あ?」
「そこの女、くれ」


「「は?」」



セラフィナとローの声が重なった。


「バカ言ってんじゃねェよ。コケにしてたの誰だ」
「能力者か?」

「一般市民です」


「「それはない」」



失礼な。
何も二人揃って否定しなくてもいいじゃないか。



「………そういや、噂の海軍大佐知ってるか?」
「いや、知らねェが」
「まさかの三週間でヒラから大佐に昇格したっていう」
「…………はぁ?三週間だと?」
「あァ。通り名は“疾風はやての”────」



ドゴォン…………!


大砲が放たれた音がした。
…………が、見ればさっき突撃した男がみょーんと腕を伸ばしてそれを受け止めていた。

なんつーやつだ。
それアリかよ。



「はっ………ROOM」


ローも能力を発動させ、海兵の体を薙ぎ払う。
それと同時に海兵の一人の頭部と飛んできた大砲の位置をすげ替える。



「…………ここはいいぜ。行けよ」
「何を、」
「来るんだよ。奴…………“疾風”が」
「なんなんだ、ソイツは」
「俺にもよく分かんねェ。だが能力者じゃないくせにやたら強いらしい」
「能力者じゃないなら、」



敵じゃない。
そう言おうとした時。



「アイツだ」


キッドの指さした先を見て、顔色を変えたのはセラフィナだった。




「な、んで…………」




何故、彼がそこにいるの。

海軍大佐の、彼の目も大きく見開かれた。



彼の手には見慣れた大刀。




「ハ、ク…………?」



向こうの世界にいるはずの彼が、なんで。



こちらに大刀を片手に迫ってくる彼を見て、セラフィナは鎌を構え、キッドとローを押さえた。



「セラフィナ!?」
「行って。…………私以外、彼の相手は出来ない」



耳を疑った。


あのユースタス・キッドも危険視するほどの奴と、

互角に戦えるとでも言いたいのか。



「先に戻って。……大丈夫、絶対死なないから」


その自信はどこから来たんだ。
そうローが問う前に、彼女は彼に向かって走り出した。


彼が、大刀を振りかぶる。





「っおい!」





キッドが叫ぶ。


彼女が飛び上がる。








ガキィィン…………!!




凄まじい音とともに、刀身が激しく火花を散らした。





「う、そだろ…………?」



そこにいた人たちは、一様に目を疑った。

あの大刀を受け止められる非能力者は、今まで誰一人としていなかった。
能力者ですら、生半可な者では叶わないと噂されているのだ。


為す術もなく何人もを吹き飛ばす………
だからこそ、彼は恐れられた。異例の出世をした。


その名は、





“疾風のハク”






もう一度切り結んだ時、彼は小さく呟いた。



「無事か」



彼女は軽く首肯し飛び離れる。


彼の本気の大刀を受け止めるのは久しぶりだ。
慣れていたはずの彼女でさえ手が痺れる。


大刀が風を切り裂き、唸り声をあげて襲いかかる。


彼女は地を蹴って飛び上がり、その刀身の上へと乗った。
そしてそれを踏み台にもう一段階上へ飛び上がる。




そして、鎌を振りかぶる…………





「迎えに行く。帰るぞ」



大刀を構えた彼の言葉に、目を見開いた。



同時に後ろから海兵たちが切りかかってくるのを気配で感じる。

ハクに向けていた鎌の方向を変え、一閃させた、






ザクッ………




「………っく、あっ…………!」




左肩に、ハクの大刀が突き刺さる。
代わりに後ろにいた海兵が吹っ飛ぶ。



「ROOM!」



聞き慣れた声が聞こえた、


そう思った次の瞬間には目の前の景色が変わった。


ふらついた体を支えてくれたのは、良く知った船長の腕だった。
何か彼らが叫んでいたのは聞こえたが、内容までは入ってこなかった。


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