Quelle belle




Pirates 5





トン、とハートの海賊団の船に降り立てば、興奮気味のクルーたちの出迎えを受けた。


「スゲェ!!スゲェよセラフィナ!!」
「すごかったよ!あんな大人数一撃でさ!」
「そこそこどころじゃねェよ、ありゃ………」


そんな熱い賞賛に、彼女は少し困ったように微笑した。


「………ご苦労」


一人いつもと変わらず冷静だったのはやはりというべきかロー。


「船長驚かないんスか!?あんな凄技見ても」
「アレ見たからな。海軍に追われてる時に」
「……そうだっけ?」
「女だからとナメられたのが気に障ったんだか知らねェが、前線全部薙ぎ倒してただろうが」
「うっ……あったわ、そんなこと………」
「怪我は?」
「無いわよ。あれじゃ相手にもならなかったわ」
「………かもな」

「ってことでちょっと海入ってくる」
「はぁ?」



何がってことだ。
根本的に接続詞の使い方おかしいぞお前。



「返り血。なるべく飛ばないように気をつけてはいたんだけど気持ち悪くてしょうがない」
「………そうならそうと言え。俺の部屋のシャワー使え」
「え、いいの?」


この気候なら別に海でも平気だけど、とか言う彼女にローはため息をついた。



「素っ裸で海ン中入る気か。誰が見るか分かんねェのに」
「………あ、確かに」
「そんくらい考えろ。バカか」
「失礼な。向こうの世界じゃ普通だったの」
「あ?」


男性陣の、聞き捨てならんといった間抜けな声が揃った。



「向こうじゃ野宿が当たり前だったから。水が綺麗だったら泉だろうが川だろうが湖だろうが、水浴びするのが当たり前だったの」

「はっ!?何ソレ覗き放題じゃねェか!!楽園かよ!!」
「………お前は黙れ」



目の色を変えたシャチに、冷たいローの視線が刺さる。



「って言っても見張りはしてもらってたわ。さすがに誰が来るか分かんない所で服脱げるほど神経図太くないしね」
「……そいつは女だろうな?」
「仲間の中で女は私と姫様だけなの。姫様が戦えないのに見張りさせるわけないじゃない」
「………その見張りが見るってことは考えないわけか」

「………………あ」
「ねェのかよ!?」


ソレ絶対覗かれてんぞ。ローはため息をつき、片手で顔を覆った。


「……さっさと血ィ落としてこい」
「はーい」


とりあえず自分の部屋のシャワー室に押し込んだ後、人間三人は深いため息をついた。



「……で、いつまでここにいるつもりだ?さっさと持ち場に戻れ」


ローの一言にアタフタと自分の持ち場へと帰っていくクルー三人。





その様にまたも盛大なため息をこぼした彼だったが、頭の中に思い浮かぶのはさっきの彼女の姿。
敵の頭が殺される寸前に、彼女のことを死神と呼んだのが聞こえた。


(………言い得て妙だな)


彼が先に称したように、鎌は死神の象徴とも言われている。

自分でも知らぬ間に命が刈り取られていく……
そんな芸当が出来るのも死神と能力者くらいだろう。



(だが腑に落ちない)


彼女は悪魔の実など存在しない世界の住人だったはず。
ということは、確実に能力者ではない“ただの人間”だ。
“ただの人間”、しかも女にあんな動きが出来るものか。


元いた世界では副将軍をやっていたと、それが真実なら命を奪うことに恐怖も躊躇いも感じないというのは十二分に理解できる。
この世界は綺麗事だけで生きていけるほど美しくはないと知っているのは、他でもない彼自身だ。



(………それかこの世界のことを知らないというのは嘘か……?)


異世界から飛んできたなんて、我ながらぶっ飛んだ思考だ。
よくそんな考え思いついたもんだと感心さえする。

もし本当は彼女がこの世界の住人だとしたら。


海は広い。
自分が知らない国も、海図にない国も数え切れないほどあるはずだ。
そのうちの一つの出身だとしたら、こちらには確かめる術もない。


悪魔の実を知っていて、実は能力者だなんて………



(……いや、ないな)



それはついさっき彼女自身が証明した。
能力者なら、間違いなく海に入ってくるなんて言わない。
海に入ったが最後、沈んで骨になっていくだけだ。


それも演技で、自分がシャワー室を使えと言うことまで読んで行動したとすればとんだ名女優だ。

そんなことを悶々と考えていると。



ガチャリ。




「……………あ」
「…………………は?」




時が止まった。




「船長、何か服貸してくれない??
「………………………」
「………え、生きてる?わっ!」



彼は問答無用でシャワー室のドアを閉めた。

中で驚いたような声が上がったが不問。


部屋の扉を開け放ち、クローゼットから適当なパーカーを引っ掴む。
シャワー室の前で左右を確認し、誰もいないことを確かめてから中へ服を放り込んだ。


顔に当たったのか珍妙な声が聞こえたが、それどころじゃなかった。



部屋へトンボ帰りするとベッドに体を投げ出し、深く、深くため息をついた。





「んのバカ女………」



シャワー室から出てきた彼女はバスタオル一枚、体に巻きつけただけだった。

湯に当たったせいか白皙の肌は淡く染まり、濡れた黒髪は無造作に上げられていた。
滴る水滴と艶を帯びた唇は、可憐だとばかり思っていた彼女を妖艶にさえ見せる。

タオルの上からでも、ばっちり分かってしまうその曲線美は何とも言えない色気を纏って彼の目に突き刺さった。


………こちとら男所帯で、絶賛禁欲中なんだよ、バカが。

しっかり目に焼き付いてしまったその光景にため息をつくしかなかった。










シャワー室に半ば無理やり押し込められたはいいものの、そこにはタオル以外何もなくて着替えをどうしようか考え込んだ。


(ま、終わったら誰かに借りればいっか)



タオルさえあればとりあえず裸で出歩く必要はないし、公開水浴びより何倍もマシだ。

手早く髪と体を洗い流し、タオルを巻きつけてドアを開けた。
静かだと思ったら、そこにはロー以外のクルーはいなかった。




「………………は?」



目を見開いて固まったかと思えば、長い長い沈黙の末にそんな間抜けな声が聞こえた。

……船長とは身長差30センチくらいありそうだから絶対サイズ合わないと思う。
だがこの際仕方ない。



「船長、何か服貸してくれない?」
「………………………」


まさか目かっぴらいたまま気絶とかないよね、あるけどさ。



「……え、生きてる?わっ!」


心配になって声をかけると、突然目の前に扉が現れた。
したたか顔に当たりそうだったわ、危ない危ない。
鼻に当たると意外に痛いんだな、コレが。


(………え、このまま放置?)



嘘でしょ。


ちょっと不安になりだした時、再び扉が開いた。
と思ったら視界が何かで邪魔された。


「わぷっ!」


ガチャ、と扉が閉まる音が聞こえ、顔にクリーンヒットしたそれを掴んでみれば男物のパーカーだった。
ありがたく袖を通してみたはいいものの、


「………やっぱぶかぶか……後で船長に包帯もらっとこ」



服に着られるってこういうこと言うんだろうな。







「船長、服ありがとう」
「あァ……つかお前あれで外出るな」
「……?着てたでしょ?」
「………もういい」
「ところで包帯ある?」
「あ?怪我してんのか」
「してない。サラシがわり」
「ぶっ………」
「わっ!汚い!」
「悪りィのはお前だ!お前!」


うちのキャプテンは変な所で純らしい ((嘘つけ


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