Quelle belle




Pirates 4





その後ローに上着を投げつけて凄い勢いでシャチたちの元へ戻ってきたセラフィナ。

ただならぬ様子に二人がぎょっとしたが、その後ろにいる我らが船長の姿に納得した。



喉の奥で笑っている彼。
心なしか青ざめて彼と距離を取ろうとする彼女。


………なんかヤバいモンでも見たな、こりゃ。



「くっくっ……そう驚くことか?」


俺は医者だ。同時に海賊だ。
そう言う彼は未だ喉の奥で笑い続けている。

これで爆笑でもしていてくれれば少しは健全なんだろうが、どうにも笑い方が悪の親玉だ。


「何が楽しくて奪った心臓机に並べて大合唱よ……!悪趣味にも程があるわ!」


………ちょっと待て。
心臓机に並べて大合唱って何ソノ気持ち悪いけど楽しいオチ。


「え、キャプテンそんな遊び好きだったの?」


((やめろベポ───!!))



それ以上言うんじゃない。

いや似合うけど。
似合うけど。
とてつもなく似合うけどそれってどうなの、海賊だけどさ。



「いつ俺がそんな愉快なことをした。生憎そんな趣味はねェな」



((嘘つけ───!!!))



シャチとペンギンは顔を見合わせて突っ伏した。


愉快って言ってんじゃねェか。
もうフラグ立ってんじゃねェか。
実は部屋で隠れてやってたりしないのか。

何よりセラフィナの言うキャプテン像があまりにしっくり来すぎたことに絶望した。



「今さっきしてたじゃない。誰だか分かんない心臓なんてよく保管しておけるわね。私だったら気持ち悪くて絶対無理よ」
「………ちょっと待て。お前誰だか分かってたら平気なのか?」



((そこかよキャプテン!!))


ツッコミどころ色々違うだろ。
シャチとペンギンが目を剥いて二人の応酬を待っていると。



「あのね…。医者でもない一般人にはあれがカエルだろうがウサギだろうが分かんないの。人質に心臓取ってくるならせめて身元保証くらいはしといてほしいわ……」


((嘘だろ───!?!?))


何、心臓の身元保証って。
それしてどうすんの。


「………仕方ねェな……。じゃあ名前でも書いてやろうか」


だから違うんだって。
ツッコミ役不在でそのままドンドコ突き進むなよ。
せめて船長かセラフィナ、どっちか止まれ。
立ち止まれ。

心臓に名前って何そのシュールな展開。



「あ、いいんじゃない?」


ダメだこりゃ。
クルー二人は成仏した。

船長は一人面白くて仕方がないというように笑っていた。



「変な女だな」
「一般市民目指してる身としては嬉しくないわね」
「………寝言は寝て言え。お前のどこをどう切り取ったら一般市民だ」
「どこからどう見ても一般市民でしょうが。どっかの誰かさんみたいに悪魔のナントカに手染めたわけでもあるまいし」
「手染めたとか言うな。こっちじゃ普通だ」

「………な、なぁ、セラフィナ」



その声に振り返れば、撃沈していたペンギンが上半身を起こして彼女の方を見ていた。



「お前……戦えるのか?」
「そこそこは。こっちの世界でどこまで通用するかは甚だ疑問だけど」

「俺と勝負してみるか?」



ローにそう言われ、彼女はさすがにげんなりした。


「嫌よ。私の鎌は人間相手が専売特許なんです。何が悲しくて悪魔の相手なんてしなきゃいけないの」
「オイ。俺は悪魔じゃねェ。悪魔の実を食ったれっきとした人間だ」
「よく言うわ。悪魔と手組まれた時点で勝負にならないのなんて見えてるじゃない」
「よく言うぜ。死神みてェな鎌持ってるくせして」
「し、死神!?失礼な!」


ポンポン交わされる会話にペンシャチが目を白黒させ、ベポはキョトンとし、ローは応酬を楽しんでいるようで口元に弧を描いている。


………が、その時。




「っ!?」


ぐらりと船が揺れた。
和やか(?)だった船内に、途端に張り詰めた空気が漂い出す。



「セラフィナ、大丈夫………」
「……ほんとにあるのね、襲撃って」



シャチの(一応)当然の心配もよそに、セラフィナはやれやれと肩を竦めてみせた。
彼女は口の端を軽く吊り上げると、あの鎌を手に取った。



「参考までに、相手の頭って賞金首?」
「いや……賞金首だとしても大したことはねェな。高額な奴じゃねェ」
「じゃあ一人で十分ね。……乗船料の代わりよ。やってきてあげる」
「………は?オイ!!」


そう言うや否や、彼女は鎌を手にしたまま走り出した。
砲弾がこちらに向かって放たれるのが見える。


ついさっき人間相手の専売特許とか抜かしてたよな、お前。
今お前が相手にしようとしてんの砲弾だ、気付いてるか。バカが。



「RO──」



ガキィン!!



彼がROOMを展開するより一瞬早く響いた音に、全員があんぐり口を開けた。


鎌のアーチに見事砲弾を捉えた彼女は、無造作に鎌を振り下ろした。
方向を変えた砲弾はまっすぐ敵の船へ向かっていき、



ズガァン!!




「お、おい!モーターがやられたぞ!!」


焦ったような敵の声を聞いて呆然とするハートの海賊団。


「………なんつー強運だよ………」
「………いや、運じゃねェ」

実力だ。
ローの言葉に、ペンギンとシャチが更に目を見開く。


こちらの船に乗り込もうとしたのだろう、船体を近づけてきた敵の目の前に、降り立ったセラフィナ。



「女……?」
「“死の外科医”の船に女はいなかったんじゃなかったか……?」
「オイ、それはそうと上玉じゃねェか。いい戦利品になるぜ…?」


下卑た笑みを浮かべながらこちらへ向かってくる男たちに眉をひそめる。


(………いかにも悪者ですって感じね)


下級海賊そのものな雰囲気を漂わせるコイツら。
………大体こういうのは小物と決まっているが、果たして。


「………ねぇ、船長」
「あ?つか戻ってこい」
「コレクションにするまでもないでしょ?」


その言葉の意図を読み取った彼は、ふっと口元を歪め笑った。



「あァ。………雑魚に用はねェ」
「何だとォ!?」

「あーあー……小物の常套、よくここまでなぞってくれるわね……」



いきりたってこちらに入ってこようとした男たちを鎌一振りで全滅させる。
ローは、ギリギリ自分の船にはかかっていない返り血と、無残に転がった死体を見て目を軽くみはった。



(………こんな綺麗に人斬ることなんて出来んのか?)



無造作に鎌を振り下ろした彼女。
それだけならまだ分かるのだが、5、6転がるその死体は間違いなく一発必死の急所を斬られ絶命している。


ある者は袈裟懸けに斬りつけられ、
ある者は頸動脈をスッパリ斬られ、
極めつけは鎌の先端で突き刺したんだか知らないがあやまたず心臓に穴が空いていた。


これでは苦しむ暇もなく逝っただろう。




「さーて、と……」



彼女は軽い身のこなしでひょいと向こうの船に渡る。
悠然と進んでいく姿に敵は一瞬戸惑う。


その麗しい容姿に似つかわしくない、彼女の手にある鎌に目を点にする。
明らか色々おかしいだろうとは思えど、実際に目の前で仲間が一瞬で殺されたのだ。

ローが近寄っていったとはいえ、彼がやったと思うには彼女の鎌についた赤い血の説明がつかない。


困惑しながらも、とりあえず海賊たちは各々の武器を手に身構える。
彼女が足を止めれば、すぐさま360度周りを取り囲む敵。



「セラフィナ!無茶だ!」


シャチとペンギンの声が聞こえる。
アイアイ、という声が聞こえるあたり、ベポも来ようとしているのだろう。



「………大丈夫、来ないで」


その声に隣の船の喧騒がぴたりと止む。



「随分余裕だなァ、嬢ちゃん」


ニヤニヤと笑いながら奥で高みの見物を決め込んでいるのが頭だろうか。



「物騒なモンしまえよ。イイ女は可愛がってやるぜ……?」




彼女は鎌を担いだまま、顔を上げ、

………冷笑した。





「お前の寵愛を望む女なんていないって気づいた方がいいんじゃない?」



誰か吹き出したでしょ、今。
チラッと目だけ動かせば、ローが口元を覆っていた。

………お前か。


案の定頭は顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。



「殺れ!!海賊を侮辱したらどうなるのか教えてやる!!」



なんて陳腐な常套句。彼女はため息をついた。
一斉にかかってきた周りの海賊。
隣の船から彼女の名を呼ぶ声が聞こえる。

彼女はろくに鎌も構えないまま、微笑を浮かべて自分にかかってくる海賊たちを見ていた。



と、思えば。



次の瞬間、風が舞った。


凍りついてしまったのではないかと思うほど、ゆっくりと時が流れる。




そして。






バタバタ……いや、ゴロゴロと言った方がいいのかもしれない。

彼女を囲んでいた海賊たちが、見事に全員真っ二つに割れる。


ものも言わず絶命したその塊の中心に立っていたのは、白い頬に多少の返り血を浴びたセラフィナ。
彼女はその山を抜けると、ゆっくり頭の方へ歩き出す。




「く………来るな!!」



ガタガタと震える頭は一歩、二歩と後ずさる。
長剣を引き抜いて、威嚇にもならないだろうにこちらへ向けてくる。


「お、お前はなんなんだ!?」
「何って、ただの人間よ。純粋な、ね」


海賊を斬って捨てる前と、全く変わらない表情に足取り。
あまりに平然とした彼女の姿に、遂に男のボルテージが振り切れた。


「う……わあああああ!!!!」


気が狂ったように、遮二無二切りかかってくる男。

彼女はそれを難なく鎌で受け止めた。


そして軽く横に流せば、鎌のアーチに沿って流れた剣は勢い余って男の手を抜け出した。
ポチャン、と間抜けな音は男の耳に聞こえただろうか。



彼女はいっそ完璧な笑みを浮かべ、死刑宣告を言い渡した。




「海賊を侮辱したら」




どうなるのか、教えてくれるんじゃなかったの?





「し、死神───っ!!」



無造作に薙ぎ払った鎌。
ものも言わず倒れ伏した男。



「………死神なんて失礼ね」


彼女は不愉快そうに眉をしかめると、血塗れになったその船を後にした。


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