Quelle belle




Pirates 1





気持ちよく眠っていた彼女の耳に、騒がしい声が聞こえた。
例の珍獣一行が早々起き出しては暴れているのだろうと寝返りを打てば、何か硬いものにぶつかった。

加えて、珍獣たちの戯れにしてはどうも穏やかでない。
仲間割れ?やめてくれ。


夢うつつにそんなことを考えている間にも、喧騒は収まるどころか激しさを増していく。



………安眠妨害。


不機嫌そうにうっすら目を開けた彼女は、真上に広がった青い空にぽかんと口を開けた。

雲一つない、いや向こうにちょっとあるけど文句なしに快晴……じゃなくて。




「………私ってそんな寝相悪かったっけ……」



天幕の中で寝たはずなんだけどな。
なんで外転がり出てんのかな。
なんで空見えてんのかな。

なんて仰向けに寝転がったまま空を見上げていると。




ドォン!!




大きな爆音が聞こえ、反射的に跳ね起きた。
考えるより先に体が動き、傍に落ちていた鎌を拾い上げ空中で一回転させて手の中に収める。


「お前もアイツの仲間か!?」
「………はぁ?」


見たこともないような服を着た男が、こちらに銃口を向けて立っていた。

アイツって誰よ。
珍獣一行?いや、誰もいないんだけど。寝てる間に迷子とか笑えない。


「話が読めないわ…。どちら様?」
「海賊は悪!!誰であろうと逃しはしない!!」
「はぁ?」


海賊?誰が。私が?嘘と言え。

彼女の持っている鎌が見えなかったんだろうか、見えたのに無視したのか何なのかはいざ知らず、男は愚かにもこちらに向けて発砲してきた。



「一般人に銃向けてるかもとか思わないわけ……?」


彼女は呆れたように嘆息すると、飛んできた銃弾を軽く鎌の刀身で弾き飛ばし、一瞬で男との間合いを詰めた。



「相手が悪かったわね、“正義の味方”さん?」


男が何かを言うより先に、彼女の鎌の柄が男の鳩尾に深く入った。
一瞬で意識を失った男は、ドサリと血に倒れ伏す。


「……あちゃー…。完璧に海賊に間違われたな、アレじゃ……」


ま、正義なんて胡散臭いもの背負いたくないしいいか。
命だけは助けてやったことに感謝してほしいもんだと思いながら、ふと辺りを見回して再び首を捻った。



「………ここ、どこ………?」



目の前に広がるのは、見渡す限りの砂浜、そして海。
港には何やら変なマークのついた船があるが、……海賊船?まさか。

さっきこの男がお前“も”海賊なのかと叫んだ辺り、微妙にありえるところがまた。


全く見覚えのない景色に、はてさてこれからどうしようと軽く途方に暮れていると。




「ROOM」



またまた知らない男の声が聞こえた。
そちらへ目をやると、そこには大量の兵に追いかけられている一人の男の姿が見えた。

追いかけている側は、ついさっき彼女が意識を奪ったあの男と同じ服装をしている。


追いかけられている男の手のひらから、広がっていく薄い膜が見え、思わず幻覚かと目を疑った。



(………何あのいかにもって感じの薄い膜………)


ドームのような薄い膜が男と彼を追う大量の兵を覆う。



そして、次の瞬間。




「………は?」



目覚めてから何度間抜けな声が漏れただろう。




ドームの中で男が刀を振ると、


………兵全員の胴体が斬られた。

だがその切り口からは血も出ていない。



斬られた兵は全員生きている。





「………んなバカな」


斬られて生きてるってどんな状況。
縁起の悪い夢だ。早く覚めてくれ。

………残念ながら、夢の中に鎌を持ってこられたことはない。
銃弾弾き返したあの感触も生々しい。
男を峰打ちした感覚も生々しい。



現実か。嘘だろう。



と、ドーム外からまたも押しかけてくる大量の兵。


一体全体何やらかしたらあんな大群に追いかけ回されるんだ。
極悪人か、関わらないに越したことはない。


の、に。





「……… シャンブルズ」
「はうあっ!!」


突如として目の前に現れた、知らない男。
シルエット的に、さっきまで大群に追いかけられてた男だろうと察しはつくが、こんな一瞬で彼女の元まで来られるはずがない。

………瞬間移動とかそういうやつ?知らないよ、私。
怪しい世界はまだ開けてないです、お呼びじゃない。



そんでもって誰だ、この男。


すごい強面というかクマ気になる。あと帽子。
ふわふわしてそうっちゃしてそうだが、あまりに顔と合ってない。
どう頑張ってもカタギの人には見えない、詰まるところそれに尽きる。


男は驚いたように彼女を見ると、そのすぐ脇に倒れていた兵を一瞥し、指さした。



「コレ、お前か?」
「……お仲間でした?」
「んな訳。敵だ」
「あ、そう………」


そんな会話をしている間にも迫ってくる大量の群衆。


「チッ……おい、加勢しろ」
「……はぁ?」



ちょっと待て。

というかあの群衆何。ここはどこ。あなたは誰ですか、強面のお兄さん。
色々聞きたいことがあったが、その前に後ろから声が聞こえた。



「ハートの海賊団には女クルーはいないはずですが…!!」
「ちょうどいい、人質に使える!奴を逃がすな!!」

「えぇ……そりゃないでしょうよ………」


よく分からんが、女いないって言ってるじゃん。
仲間疑っちゃダメでしょ。

案の定強面の男はニヤリと口角を上げ悪い笑みを作った。



「乗りかかった船ってヤツだ。諦めろ」
「いつ誰が乗ったのよ。……気に食わないわ、色々」


久しぶりに女だからって甘く見られた気がする。

………やっぱムカつくわ、こういう連中。
数に物を言わせるだけの傀儡が、彼女のまともな相手になるはずもない。


右手に構えた鎌を一閃させれば、


群衆の最前列が一気に吹っ飛んだ。



………やりすぎた、コレ。
目指せ一般市民がスローガンだったのに。


案の定強面のお兄さんは目を点にしてこちらを見ている。



「………ではっ」
「使えるな、お前」
「はぁ?」

「ROOM」



ありがたくない。すごいありがたくない。
何が何だか分からない状況で強面に使える認定されても怖いだけだ。
犯罪組織に入れられるのがオチだろう、トラブルメーカーってレッテル貼られるじゃないか。

またあの得体の知れない膜が出てくる。



「な、何?」
「シャンブルズ」
「きゃあ!?」



男に腕を掴まれたと思うや否や、胃の辺りが浮いた気がした。
瞬き一回分の後、彼女は全く別に場所に立っていた。



「ベポ、出発だ」
「アイアイキャプテン!!………ところでその子誰?」



ですよね。

というか私の方が色々知りたいわ。
……第一なんでシロクマが喋ってんだ。こんなファンタジー、夢でも見たことないわ。


さっきの群衆が岸から何やら叫んでいたが、それより船が動き出す方が早かった。



  List 


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -