Freedom 64
ドフラミンゴは、藤虎が俺を押さえつけていることで安心しているのかなんなのか知らないが、急に自分の過去を語り始めた。
………奴はかつて、天竜人だったという。
天竜人だからというだけで威張り散らし、人々をまるで家畜以下のように扱うことを嫌った数少ない稀有な天竜人。
それこそが、ドフラミンゴの両親だった。
天竜人ではなく、ただの人間として生きると、
そう言ってしまったが故に、起こった悲劇。
それが、奴をここまで歪めたのかと、………その正体がやっと分かった。
だが、だからと言って同情しようなんて欠片も思わない。
実の家族を、コイツは殺したのだから。
実の弟、俺の恩人の、
ドンキホーテ・ロシナンテを。
俺の逮捕を目的とする藤虎と、殺すことを目的とするドフラミンゴ。
二人の間にはどこか殺伐とした雰囲気が漂っている。
………体力さえ回復すりゃァ、こっちのモンだ。
ぐっと拳を握りしめた、
時。
「………冗談きついわ、ありえないっ………!!」
耳を疑った。
藤虎とドフラミンゴが、揃って空を見上げる。
文字通り、降ってきたのは、
「死天使、セラフィナか!?」
ガキィン………!!
「………ほんとどこに落としてくれてんのよ、最悪かっ……!!!」
その言葉にローが目を見開くと同時に、
ドフラミンゴの糸と、彼女の鎌が硬質な音を立ててぶつかり合う。
その一瞬、藤虎の重力が緩んだ。
「シャンブルズ!!」
咄嗟にROOMを展開し、異名である天使をパロったのかなんなのか、とんでもない登場をかました彼女もろとも回収する。
「お前はどこから降ってくるんだ、いったい!!」
「私に言うな!落とされた先があそこだったのよ、信じらんない!!」
詳しい事情は後で聞くことにして、とりあえずサニー号まで戻ることに集中する。
「治癒」
「おい、」
「シャンブルズで私運んで。………あのピンクのは任せて」
「………ピンクのってな」
あの桃鳥のことだろうな。
全く気が抜ける女だ。
「ついでに先に謝っとくわ。ピアス片方、形見に置いてきちゃった」
「はぁ?どこにだ。………つかお前どこ消えてたんだ」
「ちょっと向こうの世界まで」
「はぁ?」
「ハクに強制連行されたはいいんだけど、能力者は受付不可だったみたいで私だけ飛ばされたみたいね。そんでもって落ちたらバトル真っ最中。いい迷惑にも程がある」
おかげでとんだ目に合ったわ。
なんて呑気(と言えるのだろうか)な会話をしていると。
ドフラミンゴの糸が飛んでくる。
それを鎌と彩色を駆使して防ぐ彼女に、ドフラミンゴが面白そうな笑みを浮かべた。
「フッフッフ……!!面白いじゃねェか、死天使よォ」
「全くもってありがた迷惑ね」
面白さ求めてないわ。
なんて見当違いなことを抜かす彼女に脱力する。
………全く、いい精神安定剤なことこの上ない。
彼女一人いるだけで、こんなにも気が楽になるものかと自分が一番驚いた。
サニー号にシーザーを送り飛ばし、ルフィとゾロ、ウソップにロビンを抜いた麦わらの一味を先に出航させた。
「麦わらの一味を半分逃して何の意味がある……。もう半分はドレスローザに居る。あいつらを全員人質にすりゃシーザーなんてすぐに返しに来る!」
「そうやってナメきって大火傷した奴らが数知れずいるんじゃねェのか…?」
奴のこめかみに青筋が立つ。
………全く、挑発の才能に恵まれた男だ。(お前が言えるか、セラフィナ)
「残念だが、俺達と麦わら一味との海賊同盟はここまでだ」
「あァ?!!」
「手を組んだ時から、あいつらを利用してスマイルの製造を止める事だけが俺の狙いだった!もしこの戦いで俺がお前を討てなくても、スマイルを失ったお前はその後カイドウに消される」
「成る程……刺し違える覚悟か……」
「お前が死んだ後の世界の混乱も見てみてェが……俺には13年前のケジメをつける方が重要だ!ジョーカー!」
「お前のやっていることはただの逆恨みだ、ロー!可哀想じゃねェか、お前の逆恨みに付き合わされる死天使もよォ!」
「恨みじゃねェ………おれはあの人の本懐を遂げる為、生きてきたんだよ!!」
糸が凄いスピードで飛んでくる。
ローとセラフィナ、両方を狙った攻撃に、セラフィナは咄嗟にローから飛び離れた。
彼女はドフラミンゴがどんな能力を持っているのかも、どれだけの強さを誇っているのかもはっきりとは知らない。
だが現状2対1である以上、挟撃を考えない馬鹿は話にならない。
「フッフッフ!!最高の女じゃねェか、気に入った!!」
ドフラミンゴは、能力者でもないセラフィナには大した注意も払っていなかったのだろう。
2億5000万という高額がかけられているとはいえ、まだまだ新世界では低い方だ。
「弾糸」
「ぐあああ!!」
「っ、治癒!」
「やめろ、セラフィナ!!」
心臓の近くを貫かれたように見えたので、咄嗟に彩色を使ってしまったがさすがというべきか、彼はギリギリ急所は外していた。
距離が遠いからか、いつもの倍以上体力の消費が激しい。
糸に貫かれたローの腕と足が、だんだんと修復されていくのを見てドフラミンゴは目を見開いた。
「………お前、能力者か!?」
「失礼ね、ただの人間よ」
カナヅチじゃないのよ、お生憎様。
ローといると挑発スキルまで身につくらしい。
いいんだか悪いんだか分かったもんじゃない。
彼女に興味を惹かれたのか、侮れない相手と踏んだのかは知らないが、一度攻撃を食らわせたローはそっちのけで、奴はセラフィナへと標的を変更した。
かろうじてその糸から逃げ回る彼女とて、空から降ってきたかと思えば彩色を乱用していたのだ、体力が無くならないわけもない。
鎌に絡みついた糸を振り落とそうとした瞬間、横から襲ってきた糸に受け身を取りきれなかった。
それは体を貫通させるために放たれた糸ではなかったらしいが、無防備な胴を薙ぎ払われ、鉄柱に叩きつけられた。
「っい、た………」
口の端が、切れた。
ドォン………!!
「!!」
ドフラミンゴから、覇王色の覇気が放たれる。
ズドォン………!!
「っ!?」
それに呼応するように広がった、もう一つの強烈な覇気。
ぐらりとドフラミンゴの胴体が傾ぐ。
目を見開いたセラフィナの上体から、ふらりと力が失われる。
「セラフィナ!!」
「………なんだ、今のは………」
ドフラミンゴの顔から、笑みが消えた。
「お前か、………この女か」
ローにも、何が起こったかなんて分からなかった。
確かだったのは、
今の覇気の応酬が、ドフラミンゴとセラフィナの間で行われたということだけ。
セラフィナに駆け寄ろうとした、
………冷静さを失っていた俺の体が、奴の糸に寄って巻き上げられる。
空が見えたと思った瞬間、
地面に叩きつけられた。
「図に乗りすぎだ、ガキが……。だがいい土産を連れてきたことだけは褒めてやる」
土産とは、
なんだ。
分かってしまうような、
わかりたくないような。
それを最後に、意識は闇に閉ざされた。
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