Quelle belle




Freedom  63





「あそこが約束の南東のビーチ。15時にお前を放り出す」


鼻屋とニコ屋と俺、3人を浮かしていた三流科学者の顔がパッと明るくなった。


「あ……!逆の海岸見てみろ!あれ海軍の軍艦だろ!」


ウソップの指さす方には、島にめり込んだ軍艦があった。
綺麗にジャングルに突っ込んだそえは、船体の損傷があまりなさそうに見える。


「植物のキズがまだ新しい……」
「え?」
「あの艦はついさっきここへ到着した様ね」


望遠鏡を覗き込みながら、ニコ屋がそう言う。

………タイミングが良すぎやしねェか。
この取引に合わせたようなタイミングじゃねェか。



「船体も思ったほど損傷してはいないわ」
「あの闘魚の群れの中を進んで?!」
「海兵たちがここへ辿り着くのも時間の問題」


海軍と今やり合うのは得策ではない。

まだ一応七武海の称号は持っていることだ。
何もなしにいきなりの攻撃はないだろうが、



「悪い顔をしているわよ?」


ニコ屋の声にはっと顔を上げた。



「偶然だ。なぜ俺が海軍を動かせる…」

「ここでの取引は不当だ!中止しろ!」

「海軍が敵なのはこっちも同じだ。俺は麦わらの一味と手を組んだからな」



ローは時間を確認した。



「あと15分だ。お前ら狙撃と諜報で援護を頼む。誰が潜んでいるか分からねェ。森に異常があったらすぐに連絡を」

「ええ。分かったわ」
「ちょっと待て!海軍がいるなんて予想外だ!」
「あぁ、俺もだ」


おい。
大丈夫かそれで。


鼻屋たちが行った後、刻一刻と約束の時間は迫ってくる。


そこに。



プルプルプル。
プルプルプル。


嫌に大きく響いた、電伝虫の音。





『おい!ロー!こちらサンジ!』
「黒足屋か……工場は見つかったか」


黒足屋の、切羽詰まった声に嫌な予感が過った。



『それどころじゃねェ!よく聞け!今すぐそこを離れるんだ!」
「何言ってやがる……これからシーザーの引き渡しだ」



約束の時間まで、


後、1分。






『ドフラミンゴは七武海をやめてなんかいねェ!シーザーを返しても何の取り引きも成立しやしねェんだ!俺達は完全にハメられた!!』





「?!!理屈が分からねェ!一体…?!」





どういうことだ。
奴が七武海を辞めていない?


だったらあの新聞はなんだ。
あんなデマを流せると言うのか?


操作、出来るとでも言うのか?




『説明は後だ!その島から早く逃げろ!!急げ!!』



ピンク色の羽が、翻った。
ローは、舌打ちした。




「どうしろってんだ!」



………約束の、時間。




「今の連絡、聞いたわ」


上半身だけのニコ屋が、地面から咲く。



「おい!お前の本体と鼻屋はどこにいる?!今のが事実なら交渉は不成立だ!」
「不成立とはどういうことだ!じゃあ俺の引き渡しはどうなる?!」


うるさいとばかりに奴の首根っこを引っ掴めば、途端に大人しくなった。


「ニコ屋!鼻屋を呼べ!この島からすぐに脱出するぞ!」
「それが私たち、今地下に居るの!」
「地下?!」


嘘だろう。
八方塞がりかよ。


「ちょっとトラブルに巻き込まれて……でも二人とも無事よ。援護はできないけど、脱出するなら先に行って。約束の港には後で必ず向かうわ」

「そうか、分かっ……!」



ぞくりと、肌が粟だった。
ドフラミンゴが、真上にいる。



「武運を」
「おめェらもな」


ドフラミンゴが地面に降り立つ。
ジャングルからは海軍が現れる。



「お前にしちゃあ上出来じゃねェか!まさか海軍大将がお出ましとはァ………おいロー!七武海をやめたおれにしたら怖くてたまらねェよ!」

「嘘をつけ!!」


とんでもない茶番だ、ふざけるな。



「世界政府の力を使ってわずか10人余りの俺達を騙す為だけに、世界中を欺いたってのか?!!」


ありえない。
そう思いたいのに、思えない。



「大きなマジックショー程……意外に簡単なところに種はあるもんだ、ロー」


奴の顔に、余裕そうな笑みが浮かんでいる。
………何もかもが、俺の神経を逆撫でする。



「そんなバカなことをする筈がないと思う固定観念が人間の盲点を生む」

「お前は海賊だ!例え七武海であろうとそんな権限がある筈ねェ!こんなバカな真似をもし出来る奴がいるとするなら……この世じゃ天竜人くらいのもんだ!!」



自分の言葉を反芻して、

………ゾクリとした。




「………お前………まさか?!」
「フッフッフッ……もっと根深い話しさ、ロー!とにかくお前を殺したかった!!」



そうこうしているうちに、海軍大将まで出てきやがった。
………不味い。この状況は、完全に想定外だ。



「フッフッフッ………お前か……世界徴兵で海軍大将に特任された藤虎。噂はよく聞いている……。緑牛と共に実力は折り紙つきの化け物だとな」

「こらどうも恐れ入りやす……」

「フン………とぼけた野郎だぜ!」



姿を現したのは、海軍の新戦力。
大将、藤虎。



「まだ軍の新参者のあたくしにはしかし……あんたの行動は理解し兼ねますね。はっきりと裏を取れちゃいねェが、七武海としてちょいとルール違反をなさってるって情報も入ってやす………」


盲目だと聞くが、………その身から放たれるオーラは大将の座に相応しく、冷や汗が流れる。



「そちらさんがさっきからおっしゃるジョーカーってのは……あだ名かなにかで……?」

「フッフッフッ!俺を調べたきゃあ、それなりの覚悟で周到に裏を取って物を言うんだな!それで?海軍は今回のローの処分をどう決めた!」

「報じられた麦わらの一味の件。記事通り同盟なら黒。彼らが……ローさん、アンタの部下になったのなら……白だ。返答によっちゃ……あっしらの仕事はあんたさんと麦わら一味の逮捕ってことになりやす」



完全に、裏目に出た。
白猟屋をけしかけた、俺の目論見外れだ。

嘘をつけば終いだと騒いでいる海兵の声が耳に届くが、状況はそう簡単じゃァねェ。



「麦わらと俺に上下関係はない!記事通り同盟だ!!」


ドフラミンゴが可笑しくてたまらないと言ったように、大声で笑い出した。


「フッフッフッ!不器用な男だ、おめェは!」
「では、称号剥奪で……ニュースはそれで済めばいいが………」



ふと、頭上に影がさす。
見上げて、



………目を疑った。


血の気が引いた。






「嘘だろ………」



降ってきたのは、





隕石。




急いでROOMを張って隕石を切り刻む。

ドフラミンゴと藤虎もそれぞれ能力で切り刻んだようで、地響きがある程度収まった後残されていたのは3人の足場だけだった。



「目が見えるかどうかの次元じゃねェな……」


これは、真っ向勝負する方がバカだ。
ROOMを張り、シャンブルズを繰り返してドフラミンゴと藤虎の猛追から逃げ回った。


船に残っているはずのナミ屋に連絡してみても、電伝虫が応答することはない。
………事態は、悪化の一途をたどっている。



「フッフッフ!!おい、ロー。随分大事にしてるらしい死天使はどうした?」


はっとして後ろを振り返った瞬間、藤虎の攻撃が飛んできて吹っ飛ばされた。
慌てて受け身を取って起き上がり、もう一度ナミ屋に電話をかけた。



「いいか、今すぐグリーンビットに船をまわせ!お前らにシーザーを預ける!」


………心肺機能の限界が、近づいている。

ここでシーザーを奪われたら全てが水の泡だと分かっているのに、思うように動かなくなってきた体に舌打ちする。



「無駄だぞ、ロー!」



糸が飛んでくるのを察して、咄嗟に屈めば目標を失ったそれは木を真っ二つに切り裂いた。
ROOMを展開しようとしたが、

………消耗が激しすぎたのだろう、広げられない。




「今、誰を呼んだ?!フッフッフッ、早くシーザーの心臓を返せ!お前がここで踏ん張る事も無意味……。お前の相棒の麦わらはもう俺の仕掛けたエサに食らいついている。コロシアムの剣闘会に、今出場中だ!」

「……っ麦わら屋………!!」

「各地から海を越えて強豪たちが集まる無法者の殺し合い。負ければ即地獄行きだ!あのコロシアムから奴はもう出て来れやしねェよ!同盟は終わりだ、ロー!」



鬼哭を構え、振り上げようとした、瞬間。



「ローさんは捕まえさせていただきやした」



体が一気に重くなった。
起き上がれないほどの重力が、地面を凹ませるほどのそれが、今俺の上にかかっている。


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