Quelle belle




Freedom 60





その頃、SADの所ではスモーカーの協力のもと、ローが心臓を取り返していた。


「これで借りはナシだ。さっさとケリをつけろ!」
「そんなに海賊に借りを作るのが嫌か」
「海兵の恥だ。部下に合わせる顔もねェ」


ローは能力で帽子を出現させると、目元を隠すようにそれを被った。



「これで終わりだ、ヴェルゴさん……」
「やっと思い出したか。あるべき上下関係を……クソガキ……」
「そう思ってろって事だ。いつまでもそのイスに座ってられると思うな」


ヴェルゴを睨み据えた。




「聞こえてんだろ?ジョーカー!」


一瞬の静寂の後、
………響いたのは、不気味な笑い声だった。



『フッフッフッフッ……』

「ヴェルゴはもう終わりだ。お前は最も重要な部下を失う。シーザーは麦わら屋が仕留める。つまりSADも全て失う。この最悪の未来を予測できなかったのはお前の過信だ!いつもの様に高笑いしながら、次の手でも考えてろ!」


ローは挑発するように口角を上げる。


「だが、おれ達はお前の笑みが長く続くほど予想通りには動かない」

『フッフッフッフッ!イキがってくれるじゃねェか小僧!大丈夫かァ?!目の前のヴェルゴをキレさせてやしねェか?!』



誰より憎い、アイツの声が感情を逆撫でする。
それが奴の思惑だと分かってはいても、どうしたって冷静ではいられなくなる。


『昔……!覚えてるか?!どうなった?!お前ヴェルゴをブチギレさせて一体どうなった?!トラウマだろう?!消えるはずもねェ……ヴェルゴに対する恐怖!』


ヴェルゴの体が黒くなっていく。
全身に覇気を纏っている。



ゴン………
ゴン………



ヴェルゴが床を叩く度に、床に亀裂が入っては地を揺らす。
凄まじいほどの、武装色の覇気。



『お前のブッた斬り能力でもこいつの覇気は全てを防ぐ!』



ローはROOMを出現させた。



『立場、実力共にお前はヴェルゴに敵わねェ!!』




静寂が、流れた。
全てのものが、静まった。




ジョーカーの笑い声でさえ、全てが止んだ。





………ローの斬撃は、ヴェルゴを真っ二つに斬った。

それだけでなく、SADも、研究室までをも斬り裂いた。




「頂上戦争から2年……誰が何を動かした?」



ローの声だけが静かに響く。





「お前は平静を守っただけ。白ひげは時代にケジメをつけただけ。海軍本部は新戦力を整えた。大物たちも仕掛けなかった。まるで準備をするかの様に……!あの戦争は序章に過ぎない」



ヴェルゴが床へと倒れ伏す。




「お前がいつも言ってたな、手に負えねェうねりと共に…豪傑共の新時代がやってくる!」




もう止まれない。

突き進むしか、ない。



それを作ったのは、俺たち新世代だ。





「…………歯車を壊したぞ、もう誰も引き返せねェ!!」
















「ゾロたち!!無事だったの!?」
「やられてたまるか。さっさとここ出るぞ!」
「当たり前でしょ!……待って、アンタたち」


ナミがゾロとサンジが揃っているのを見て、固い表情をした。


「セラフィナは……?一緒にいるはずだってトラ男くんから聞いたけど」
「………トラ男に話す。会うことにゃァ会った」
「どういう、」


「麦わら屋!」
「お?トラ男!ケムリン!そっちに居たのか!!」
「シーザーはどこだ?!」



ルフィとローの声が聞こえ、彼らは揃ってそちらを振り返った。


「ああ……あの扉ごとあっちの方へぶっ飛ばした!どこまで飛んでいったかな」
「おいお前!約束は誘拐だろ!」


マジでなんなんだコイツは。
ドフラミンゴは欺けても、こっちまで欺かれちゃ笑えない。



「でもあんなやつもう捕まえんのもイヤだ!おれ!」
「イヤでもそういう計画だ!もし逃げられたらどうしてくれる!」
「いーじゃん!別にあんなの!」
「気分で作戦を変えんじゃねェよ!お前を信用するんじゃなかった!さっさと追うぞ!!」


ローたちが引っ張ってきた、元来SAD用だったモロッコ。
海兵たちも一味と一緒になって、子供たちが乗り込むのを手伝う。



「全員揃ったか!?」
「まだチョッパーとブルックが!」

「ねぇどうしましょうキンエモンさん!どうしましょう!?」


ブルックが抱えているのは、毒ガスにやられたらしい侍、錦えもん。
奇妙なオブジェと化しているが、今はそれより何より悪いが脱出が先だ。


「急げー!!逃げるぞ野郎どもォー!!!」


ルフィのその声と共に、トロッコは走り出した。












「………おい、ゾロ屋」


トロッコの中でもてんやわんやと賑やかな連中を尻目に、ローは彼女と同じ方向にいたはずのゾロに話しかけた。



「………セラフィナのことか」
「そうだ」
「どういうことだ」

「………は?」



セラフィナはどうしたのか。
あの時一緒になって逃げていたんだから、ゾロたちといるのが当然と思っていたが、現にこのトロッコの上に彼女はいない。

ゾロは眉を寄せると、不満そうにこちらを見た。



「建物の目の前までは一緒だった。……だが入ろうって時に、アイツは自分を外に残して鍵かけろっつったんだよ」
「………は………?」



理解が、出来なかった。



「あの毒ガスの中にか!?」
「だから分かんねェっつってんだろ。んなことする理由でもあんのか」
「あるわけねェだろ。死ぬぞ」



お前は今どこにいる?
どこで、何をしている?

………何を思っている?



そんな会話をしている間にも、やれD棟が爆発しただの、やれ石が降ってきただのてんやわんやのモロッコ一行は、一向に落ち着く気配がない。



「………誰か風を起こせる者はいねェか?出口にもガスが待ち受けてるハズだ」
「えー?!そんな特殊能力者簡単にいるかよ!」
「あ、私できるけど」
「いんのかよ!!」


ナミが手を上げれば、なんとも忙しい海兵らのツッコミが入った。


(………生きてねェと承知しねェからな、セラフィナ………!!)





出口が見えた。

ナミが風を作り出そうとした。





その、時。








「“風龍”!!」



「きゃあ!?」
「「「おわっ!?」」」



ナミのものではない、ぶわりと生まれた突風がガスを吹き飛ばし、トロッコを煽る。
咄嗟にローが能力を使ったおかげで不時着は免れたが、一歩間違えば大惨事だ。



「本気でまだ外にいんのか!?」



ゾロ屋の声で我に返った。

同時に、




ガキィン!!



凄まじい音が聞こえ、僅かに残っていた全ての毒ガスが霧散した。




「っおい、セラフィナ!!」




そこで戦っていたのは、セラフィナ。

………そして、




疾風。




「ハクか!?お前も呼ばれたのか!?」
「ハク中将!!」


スモーカーとたしぎが驚きの声を上げた。
海兵たちが歓声を上げる。




「ちゅ、中将!?しかもハクって、もしかして………」

「呼ばれてねぇよ」



ふわりと彼の手のひらに生まれた、風。
悠然とそれを踊らせる彼の顔に、一筋ほどの焦りも見られはしない。



「海軍様の指示じゃねぇ。………俺の独断だ」
「え………?」


「ROOM!!」



(コイツは危険だ………!!)


疾風が何を考えているのかも、彼の目的が何なのかも、何一つ確かなことは分からない。
ただ本能的に察したのは、

疾風がセラフィナの傍にいるというこの状況、


これこそ最も忌避すべき状況だったのだということだけ。


咄嗟にROOMを展開した、
………が。



「やめとけ。無駄だ」
「無理よ、ロー!」



目を見開いた。


ROOMを広げても、彼ら二人を包む“保護”の膜はROOMの中に入らなかったのだ。
保護の膜の中、

………それは、疾風が作り出した、


“疾風の”治外法権だった。



その中には、例えローのような能力者でも影響を及ぼすことはできない。




「………どういう、ことだ!?」
「なら斬りゃいいんじゃねェの、かっ!?」


ゾロが駆け出す。



「鬼斬り!!」
「待って、ゾロ!!」

「風舞」



ゾロの足元を狙って、竜巻が発生する。



破滅 相殺カウンター・バランス!!」



その竜巻を、一段階進歩した彩色で無効化したセラフィナ。

………今、彼と互角にやりあえるのは、




彩色を使える、彼女一人だけだった。





「風雷迅!!」
最後の審判ファイナル・ジャッジ!!」



風と鎌が凄まじい音を立ててぶつかる。
衝撃波が地を砕き、空を揺らす。


「おい、カゼ男!!」
「………俺か、ゴム男」


ルフィのまさかのネーミングに、ハクが一瞬珍妙な顔をした。



「そうだ!俺らは先行かなきゃなんねェんだ!邪魔すんな!!」


ドン、と覇王色が広がった。




「っ、バカ!!こっちまで食らうじゃ、」




ドォォン………!!




「っ!?」



バタリとルフィが倒れた。
ゾロとローも、なんとか持ちこたえたものの膝をついた。

ナミやウソップは失神している。



彼の一番近くにいた、セラフィナの体が傾ぐ。




………それを狙ったように、抱きとめたハク。




「………は、やて………!!」



彼はローの方を一瞥し、薄く笑った。



「ROO──」
「返してもらうぜ。ありがとうよ、覇王色・・・



ROOMが二人を包む前に、彼らは風となって消えた。




「セラフィナ!!」





手も、声も届かない。




何故あの時、別行動を許した?


あの時彼女を引き止めていれば、ヴェルゴには二人もろとも捕まったかもしれないが疾風の相手はしなくてよかったかもしれない。


彼女以外が相手にならないことを知っていたからこそ、
………その自分でさえどれだけ張り合えるか分からなかったからこそ、彼女は自分以外に矛先が向かないよう一人で止めていたのだ。




………だが、そんな疾風の目的ははなからセラフィナ一人だった。




何故、手を離した。

オペオペの実は移動に便利だと、


………大切な奴を人質に取られても取り返せる能力だと、



そういったのは誰だ。

そう信じて疑わなかったのは誰だ。





「ふざ、けんな………!!」




手の中に残されたのは、奴への憎しみだけだった。

………そんな自分に、絶望した。






「……アイツの目……金色に光ってなかったか……?」

スモーカーの声に、サンジとゾロが小さく頷いた。


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