二人だけの世界を


君の瞳に映るのは僕じゃない。


彼を愛おしげに見つめる君を見ている僕の気持ちに、君が気づくことはない。


こんなに、愛しているのに。



君以外、何もいらないのに。































理事長に用があって、枢は珍しく入れ替え時間の前に校舎へ足を運んでいた。


「……いい加減補習ばっかで風紀委員業務サボったら怒るわよ?」

一番会いたいと思っている彼女の声が聞こえ、思わず動きを止めた。
しかし。


「優姫にでも言ってやれ。俺はやることはやってる」

次いで聞こえてきた彼の声に、思わず眉が顰められる。


「うっ………優姫の場合は真面目にやってても補習が否めないからしょうがない気もするけど…」
「俺も無理」
「嘘つけ学年No.2」


ペシっと軽い音が聞こえた。


「………じゃあNo.1のお前が教えてやれば?」
「一回教えようとしたわよ。……でもどこが分かんないのかが分からなくて、優姫のやる気は始終ゼロ」
「くっ…天才の辛いところってわけか」
「お黙り」


軽口の叩き合いにさえ嫉妬を覚える僕はどうかしているのだろうか。
僕に対する彼女はもっと他人行儀で余所余所しい。


「なら零が教えてやればいいじゃない」
「…………妬かないのか?」


びっくりしたように彼女の足が止まったのがこの距離でも分かった。


「優姫と俺が二人でいても、何も思わないってことか?」

少し悪戯めいた口調で言う彼に、


「………少しは気になるけど…。零はそのまま離れて行っちゃうの…?」


恥じらうように、少し躊躇いがちに答える彼女。


「好きな人のことくらい信じたくな…んっ!」


間違いなく錐生零は僕に気づいていることだろう。
嫌いな純血種の気配に、いくら隠されているとはいえハンターのお家柄、気づかないはずはない。


(…殺したいくらいに憎らしいよ…)




彼女をその腕に抱いて、愛を囁けるなど。
そして彼女からもそれを返してもらえるなど。


……まして、彼女の血を貪り、彼女の身体でさえも手に入れられるなど。


我慢の限界などとうの昔に振り切っていた。





「……こんなとこでしないでよ…」
「今の時間なら誰もいないだろ」
「……馬鹿」

「……**……」



少し切なげに響く零の声。
彼女が困ったように微笑したのが分かった。


「さすがにここはまずいでしょ?もう少しだけ待って」



二人して入っていった部屋。
そしてそう経たずに漂ってきた甘い、甘い血臭。


枢は理事長に用があったことなど忘れ、違う方向へと足を進めた。














**はぺたりと絆創膏を貼っていた。
首元にあるのは、さっきつけられた零の咬み痕。


(…………キスマーク、みたいだな)


吸血衝動に前ほどの嫌悪を覚えていない様子の彼は悪戯っぽくそう言った。
その時の瞳の艶やかさにはドキッとさせられたものだが。



自分が彼の乾きを癒せること、



それが彼女にとっては嬉しかった。
誰より好きな人だから。

どんな形であれ、彼の手助けが出来ているということが幸せだった。


仄かな痛みと熱をもった傷痕に触れる。





その時、扉が開かれた。



「………?零…?」



彼以外にここを訪ねる人はあまりいない。
優姫は補習がまだ終わっていないし、理事長も今日は協会の方へ出ていてまだ戻ってきていないはず。


………そして、浮かんだその姿に瞠目する。




「枢先輩…!?」











部屋にいる彼女を尋ねると、第一声で彼女が呼んだのは自分ではなかった。


「…零…?」


何かが僕の中で切れたのがわかった。



「…枢先輩…!?」


僕を見て瞠目する彼女の両腕を掴み、力任せにベッドに押し倒す。


「…また、錐生くんは君に傷をつけたの…?」

気づけばさっき貼ったばかりの絆創膏がぺりっと剥がされていた。


「………っ…」


反論もしなければ否定もしない彼女に、枢の瞳が苛立ったように揺れる。


「どうして…君は彼のことばかり考えるの?」
「…え…?」


突然言われたことに戸惑う彼女に、さらに畳み掛けるように問う。


「彼は君から奪うことしかしていないのに…何故彼のことを構うの?」
「………っ…奪う、だけじゃないから…」

**の瞳が、僅かな怒りを浮かべて枢を見る。



「私が助けたいのは零だから…私は零が好きだからーーっ!」



続きを奪うように枢は彼女の唇を塞ぐ。


「…んっ…!」



枢を押し退けようとするものの、男と女の差は大きい。
まして、吸血鬼と人間だ。
結果など火を見るよりも明らかだ。


「………こんなに愛しているのに…何故僕を見てくれないの…?」


狂気に似た強すぎる愛情と執着。
**は目を見開いた。



「………いっそ、君をめちゃくちゃに壊したくなるよ………」





ああ…。






彼女の




人生を




狂わせてあげようか






君の世界に僕しかいなくなるように





君が僕以外を見られないように






その思いはたちまち僕の思考を侵した。







「………愛してるよ、**………」

「………っいやぁぁぁぁ!!」





ブツリと鈍い音が聞こえる。
**の悲鳴が響く。

僕は彼女の口を片手で塞いだ。




「…………っん、ぅ…」



君の中から、“彼”の記憶を奪ってあげる。


目覚めた時に残るのは、




僕と同じ時を生きる君だけ。




彼を失った君に、僕が愛しさを教えてあげる。




僕には君しかいないから。



君にも僕しかいない世界をーー。












*ダーク枢好きや←





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*現在お礼:トラファルガー・ロー
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