恋未満
自分の髪が好きじゃなかった。
他の人からは綺麗だと言われたこの銀髪も、黒髪が多い中に混じればただの異端でしかなくて。
生まれつきだと言っても信じてもらえずに、染めた疑惑をかけられるのも辟易していた。
元々中高一貫だったが、高校でこの学園に転入した。
桜が舞い散るこの季節…
ベタに綺麗などと言うのも少し癪な気がして。
生徒たちが騒ぐ声が聞こえて、そちらを見るとやたら美形な集団が門をくぐってきたところだった。
その中には派手な、しかし綺麗な金髪の人もいて。
ただただ新鮮だった。
(……いっそ、金髪なら良かったのに)
外国には普通にいるという金髪人口はどう考えても銀髪人口より多い。
目立たないように生きていたいのに…
そう思って目を逸らし、歩き出そうとした時、不意に風が吹いた。
「…った……?」
くっと何かに引っ張られるような感覚に襲われて、驚いて後ろを見た。
………そこに立っていた男の子に、不覚にも息を忘れて見入った。
サラサラの銀髪に整った顔。
首筋には何かの刺青があり、お世辞にも愛想がいいとはいえない表情と目つきだったが、不思議と怖いなんて思わなかった。
彼も驚いたようにこちらを見て、ついで自分の胸元に目線を落とした。
彼女のなびいた長い銀髪が、どうした偶然か彼の第二ボタンに絡まっていた。
「あ…すみません」
躊躇なく髪を切ろうと鋏を探し出す彼女より彼の方が早かった。
ピッとボタンを弾いてしまった。
「…悪かった」
そうとだけ言うと、美形の集団のところへ向かう彼。
名前も知らないあの人に、見惚れたのは私だけの秘密。
嫌いだった銀髪を綺麗だと思えたのも、彼のおかげ。
(自分と同じ銀髪の人だっただけ)
(恋じゃない。まだ。)
(そう思っていたのはどっちだろうか)
これは、恋未満。
*何を思ったんだか。ワンライ的なアレです。