01


※最初にお断りしておきます。


この作品では、流川→大学生設定、夢主→16歳設定です。

流川はアメリカに渡らず、選抜で仙道と組んでいるというかなり都合主義な感じが否めない設定になっています。
また、夢主は病弱な美少女、全面的に愛され贔屓とのリクにお応えして執筆させていただいたものです。

医療系も多少ですが含まれますので、苦手な方は急いで戻るボタンを連打してくださいませ。


……前置きが長くなりましたが、それではどうぞ。
















ダンッ……。



いつものように公園でボールをついていると、ふと視線を感じた。


(………………)



いい気がするわけがねえ。

不機嫌な顔を隠すことなく視線を感じる方へ顔を向ければ、車の中にいる少女と目が合った。

歳は自分よりは下くらいだろうか。
遠目からでも分かる、人形のように綺麗な整った顔。


彼女は彼が自分の方を見ていることに気づくと、少し首を傾げた。



されたことがない反応に目を細めた。

彼女の乗っている車に兄らしき人が乗り込み、何言か話すと窓が閉まり、車は走っていってしまった。


(……なんだ…?)



不思議と目に焼き付いたその光景に、首をひねった。










それからあの公園には毎日通っていたがあれ以来彼女の姿を見ることはなく。


(…………アホらし……。何を気にしてんだか)


知らず彼女の姿を探している自分に心底驚いた。

言葉も交わしたこともない彼女が、どうして他人に無関心すぎるほど無関心な彼の印象に残っているのか……。
そんなこと、考えてもいまの彼に分かるはずもなく。


ガコッ……。


ダンクを豪快に決めた時、ふわりと風が巻き上がった。


「あっ………」


女の声が聞こえてそちらを見ると、一本の紙紐が飛んできた。
反射的にそれを捕まえる。

そして、髪を押さえて立っている女の方に改めて顔を向ける。


……その瞬間、よく分からない感覚に襲われた。



消えてしまいそうに細く華奢で、陽の下に出たことはあるのかと聞きたくなるほど真っ白な肌。
小さい顔は非の打ち所がないほど綺麗に整っている。


彼女は彼と彼の手に握られた紙紐を見て目を瞬かせた。


………また目の色を変えられるのかと嘆息しかけると。



彼女はふわりと笑った。



「すみません。ありがとうございます」


何の邪気も媚びも感じられない、無垢な笑顔と眼差しを向けられた。



「……この前」


この前、車の中からこっちを見てたのもお前か?


そう聞こうと思って、口を閉ざした。
確信はないし、違ったら気まずいにも程がある。


下手に気があると思われても面倒だし………

しかし、彼女は首を小さく傾げた後納得がいったように頷いた。



「あの時の方だったんですね」


顔を見られていなかったのかと思い、心底驚いた。
自分の顔に興味があったわけでもなく、実際見てもこの反応。

……ということは。



「バスケ……やってたのか?」



純粋にバスケが好きな少女なのだろうか。
そうなのだとしたら俄然株があがる。

……が。



「いえ……全く」



なんだと言うのだ。
彼の気持ちに勘付いたように彼女は苦笑した。


「生きてるな……って思うものを目で追ってしまうんです。あなたがバスケをする姿は輝いていましたから。……不快な気分にさせてしまっていたらすみません」

「生きてる……?」



気分を害したわけではないと否定するのも忘れて聞き返した。


「…………**!」

その声に彼女がはっとしたようにそちらを向く。


「……また見に来てもいいですか?」

彼女は少し名残惜しそうな顔をして、彼を振り返り見る。


「………流川楓」


突然名乗った彼に、彼女は少し目を丸くした。
そして、嬉しそうに笑った。


「** **です」


彼女の名を呼んだ男の元へ向かっていく彼女の後ろ姿を見送り、再びボールをつきだした。










あの日を境に、だいたい三日に一回ほど公園に顔を出す彼女。

彼女は彼がバスケしている間は何を言うでもなく眩しそうに目を細めて彼を見ている。
その雰囲気が不思議と心地良くて、安心して。


基本無口な彼も彼女相手にはぽつりぽつりと自分のことを話すようになっていた。
……この間は試合にギリギリで負け、悶々としていたところを彼女に慰められた。

彼女は何も言わず、何も聞かずに彼の手を取って、温かさを分けてくれた。
それが彼には思った数倍嬉しくて。



そんな日々がしばらく続いた。


(……………二週間は会ってねえな)



まさか自分がカレンダーを気にするようになろうとは夢にも思わなかった。
彼女に最後に会ってからもう二週間が経ってしまった。
しかし連絡先も知らなければもちろん家も知らない。

どこに行けば会えるのか、どうすればいいのかなんて分からなくて、ただひたすら公園でバスケをし続けた。


彼女がいなかった前に戻っただけの練習が、妙に味気ない。
基本誰かがいるのが嫌なタチなだけに、自分の思考にだいぶ戸惑った。


後方でザッと音がして、はっと振り返った。

……だが、そこにいたのは彼女ではなかった。



「……お前が流川か?」


男の口から出た自分の名前に目を見開く。


「だったらなんだ」
「俺は**悠有。**の兄だ」


まじまじと彼の顔を見たが、**のような儚さはどこにも見受けられない。
共通点といえば美形だということくらい。


「少し時間をもらえるか?」


そういった彼に、考えるより先に頷いた。









ベンチに腰を下ろすと同時に、彼は口を開いた。


「………話そうと思ってたのは**のことだ。察しはついてると思うけどな」


無言で先を促した。


「**は心臓の病気を患ってる。今あいつは16だ。18まで生きられるか分からない。20歳まではどう頑張っても無理だって、かなり前に宣告されたよ」

「………は………?」




言葉がとっさに出てこなかった。

信じたくなかった。

理解できなかった。


……したくなかった。



「ここのところ、アイツが外に出ちゃ楽しそうな顔をして帰ってくる。何をしてるのか聞いて出てきたのが流川って名前だった」


深窓の令嬢とでも言いたくなるような白さと細さ。
世の中の淀みを知らないが如く、純粋で無垢なあの表情はこれの暗示だったとでもいうのか。


「………会わせてくれねえか」


悠有は少し面食らったような顔をした後、ややして頷いた。








「お兄ちゃ……………え」


**は兄とともにきた突然の来訪者に目を丸くした。


「流川、さん………?」
「おー」


困惑したままの**は悠有へ視線を送るが、彼は微笑を浮かべたまま何も言わない。


「………えっ……と……お久しぶりです……?」
「おー。…なんで呼ばなかった」

「………え?」


呼ぶ。

どこに。


……病院?


え。




「あの公園じゃ、ここから見えねーだろ」

彼女と悠有は目を丸くした。


「もう一個近いとこならギリ見えんじゃねーの」


彼に心臓のことを知られたら、きっと他の人と同じように同情や哀れみの目で見られると思っていた。
……それが、今までずっとつらくて。


だから、彼が今までと全く同じように接してくれたことが本当に嬉しかった。

でも。



「そんな負担かけられませんよ…。少しの間でも、流川さんのバスケ見られて良かったです」


そう言って浮かべた彼女の微笑は壊れてしまいそうなほど儚くて、どこか無理をしているように見えた。
悠有も表情を曇らせて、目線を外した。


「負担だと思ってたら言ってねー。つかまず来てねー。今頃練習してるだろ」
「…………それは」



彼女は一瞬、痛みをこらえるように眉根を寄せた。


「それは、先が長くない私への憐れみですか………?」
「……は……?」
「もうすぐ死んでしまうから………だから少しくらい良くしてくれようと、そういうことですか?」



言う度に私の心も悲鳴をあげる。
ありがとうと言って、素直に受け止めればいい。
でも、それを許されるだけの時間は私にはなくて。

こう言って、今までも相手を突き放してきた。



「やめてください……。私はもうすぐ死ぬんです。誰も悲しんで欲しくない」


人の死が、どれほど大きなショックを与えるか私は知っている。
遺された者が本当に辛いということも。

だからこそ、悠有には申し訳ないけれどたった一人の家族である彼以外の人に悲しんで欲しくない。

それが唯一の願い。



「………そうやって、逃げてきたのか」
「え………?」
「悪いが憐れんでやるほど俺は暇じゃねえ。………本当に傷つくのが怖いのはおめー自身じゃねーのか」



目を見開いた。


未来があるから………


明日が約束されているから、


そんなことを言えるのだと、そう叫びたかった。



怒りに似た感情が湧き上がってきても、彼の言うことが正論だということを嫌と言うほど分かっているのは皮肉にも私自身で。



「………未練を残したくないと思うのは、自分勝手ですか……?」


シリーズものは本も映画も、テレビも見なかった。
音楽はクラシックしか聞かなかった。

続きが出るとき、新しいものが出るときに、


私がこの世にいるか分からないから。



好きなものがあればあるほど、近くに迫る死が怖くなる。

だから、私は。



「何にも執着したくなかった………私に時間は許されてないんです!」


涙がこぼれた。
弱いと思われるかもしれない。

それでも、未来を約束されている人に私の気持ちなんて分からない。



『分かるよ』


なんて嘘ばっか。
その言葉を聞く度に、孤独を感じるんだ。


………それなら、いっそ誰とも関わりたくない。
流川さんの言う通り。


結局、私が守りたいのは私。

涙が次から次に溢れ出て止まらない。


悠有が驚きながら、心配そうな表情でその様子を見ている。



「………俺にお前の考えてることなんて分かんねー。けど」


彼は動じることもなく続ける。



「好きなもんも作らずに生きるのと、死んでるのと何が違うかもわかんねー」


ドクン、と心臓が脈打った。


「別に責めたいわけじゃねー。お前が辛い思いしてきたのは想像できるし」



彼にとって、バスケこそ生きる目的。
バスケと三度の飯以外は睡眠に時間を費やす彼から、バスケを取ったら。



(………やべぇ…何も残んねー)


微妙に情けなくなった。
こんな大口叩ける生活してんのか?俺……。

彼女は目を丸くして彼の言葉を聞いていたが、やがて涙を拭い、顔を上げた。



「流川さん」

彼女の顔はまだ涙に濡れていたが、それでもどこか吹っ切れたような表情をしていた。



「流川さんが出てる実際の試合…見せてくれませんか?」

彼はびっくりしたように目を瞬かせたが、………目を細めて微笑した。


「おー」











「………流川」


病室を出ると、悠有に声をかけられた。


(……やべー………?)

大事な妹に散々なことを言ってしまった。
今更ながら少し冷や汗をかくと。


「………ありがとな」
「……む?」


てっきり文句言われるのかと。


「アイツ、病気が分かって以来人前で絶対に泣かなかったんだ。無理したように笑って……俺はただひたすら**を傷つけないように、壊れ物を扱うように接してきた。………踏み込めなかった」


(…………やっぱ俺、ブレーってやつ?)

高校時代、散々先輩に言われたことがふとフラッシュバック。


「**が自分から約束を言い出すこともなかった。……あいつに、“明日”は約束されてなかったからな」


未来のことを口に出すことが、どれほど勇気のいることだったか。
思い返してみれば、さりげなく公園に来た時に次いつ来るかを聞いてもはぐらかされていた。


「……っす」


軽く頭を下げて、彼の元を去った。
そして、すぐに電話をかける。


「………監督、お願いしたいことがあるんすけど」


電話の向こうで監督は驚いていたが、二つ返事で承諾してくれた。





感想など頂けるとありがたいです

*現在お礼:トラファルガー・ロー
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