ランスとネビルが戻れたのは、夕食も終わる頃だった。マダム・ポンフリーは二人の酷い有様に不機嫌そうではあったが、勿論治療は滞りなく行われた。すっかり綺麗に治った肌を撫で、ランスはお礼を言った。返ってきたのは「まったく、気を付けなさい」というお小言だったが。
 夕食は医務室で、ネビルと並んで食べた。半日もハリーの顔を見ていなくて、大広間に戻りたいのはやまやまだったが、未だにぐすぐすと鼻を啜るネビルを一人置いては行けなかった。痛みも引いているはずだが、ランスへの申し訳なさが込み上げて止まないらしい。見兼ねたマダム・ポンフリーが二人分の夕食を持ってきてくれた。医務室に泊まっても良いと言われたが、ランスは「帰ろうね」と告げた。
「僕、僕、ほ…ほんとに、いつも要領が悪くて……」
 マダム・ポンフリーに改めてお礼を言って医務室を出、生徒も先生たちの通りもない廊下を二人で歩いていた時、ネビルが再び涙を落とした。
 自分のドジで怪我をすることは、今までの人生で何も珍しくなかった。日常茶飯事。祖母が呆れてしまうくらいに。身体のどこかしらが痛くて、けれどランスを巻き込んでしまった今の方が、ずっと痛い。
 涙が止まらないくらい、心が痛い。
「──ねえ、ネビル」
 半歩先を歩いていたランスがくるりと振り返る。
「君はもう少し自信を持った方がいいね」
「自信……?」
「自分のこと、好きになることだよ。要領が悪いなんて自分のこと卑下し過ぎるのはよくない。もし次があったら、気をつけるでしょう?誰だって失敗はあるんだ。それを次に活かすことが大事だと思うし、それに……」
 ランスの手が、ネビルのそれを包む。涙に濡れるネビルにランスは優しく微笑んだ。
「僕の怪我の為に泣いてくれる優しさが、僕は好きだよ」
 さあ、行こう?と手を引かれ、ネビルは止めていた脚を進めた。申し訳なさに覚束なくなっていた足取りが、ゆっくり、だがしっかりとなる。
 好きだと言ってもらえた、その喜びが、ネビルを支えた。

「ランス!」
 寮の談話室には、ハリーもロンもまだ残っていた。駆け寄ってきたハリーに、ネビルはランスの手をぱっと放して部屋へ駆け上がって行った。「なんだあ?」とロンが目を丸める。
「僕、ちょっと心配だから見てくるよ。そのまま寝るから、二人とも話すなら程々にね」
 男子寮に続く扉の向こうにロンの背中を見送ってから、ランスとハリーはひとつのソファーに座った。あんなに酷かったおできが全て綺麗に治ってるのを見て、ハリーはほっとして深く息を吐いた。ネビルもそうだが、ハリーも優しい。もうすっかり大丈夫だよ、とランスは笑う。
 ハグリッドとのお茶はどうだった?と訊かれると、ハリーの口は捲し立てるように言葉を紡いだ。スネイプのこと、グリンゴッツのこと……そしてやっとお互いの両親のことが出てきた。
「……ランスのお母さん、スリザリンだったんだね」
「うん。僕は父さんから聴いてたから……母さんがどの寮で、どんな学生だったか。ハグリッドからも聴く機会はあったしね」
 エリアスは魔法族ではないが、ミネアに出会う前から魔法を信じていたし、出会ってからも魔法に対する子どものような好奇心は止まなかったらしい。毎日のようにホグワーツでの学校生活のことを訊き、魔法を見せて欲しいとせがんだ……子どもっぽくて恥ずかしいけどね、と言いながらも、エリアスは在りし日のことを鮮明に話してくれた。クリスマスの度に来てくれるハグリッドもそうだった。
 スリザリンという寮が、他の寮からどういう印象を持たれているか……それが事実なのかは、ランスもよく知っている。しかし、そのスリザリンに属しながらも純血主義ではなく、誰からも愛され……そしてハリーの両親とも仲が良かったという母が、ランスには、誇りだ。
「……がっかりした?」
「まさか!それは……ランスは、がっかりしなかった?お母さんと同じ寮がよかったんじゃ…組分け帽子に頼まなかったの?」
 ハリーの、どことなく不安げな問いに、ランスはにっこりと笑って答えた。
「僕はハリーと一緒がいいって言ったんだよ」



きみが宝物になる
151007/へそ様より拝借



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