穏やかさが、欲しかったのだろう。
 刺々しい空気が喉に絡みついて息をするのさえ苦しかったあの世界から逃げ出して、求めたものはきっとそういう名前で呼ばれる。
「瑞希、タオル!」
「…ん」
 結果として僕はそれを手に入れることが出来たのか。答えはノーだ。いや……そう言ってしまうと語弊を生むかもしれない。僕は決して、取り巻く今が嫌いでは無かった。騒がしくて忙しなくて、穏やかと呼ぶには少々難しいけれど、心地よさはある。
 この男、円堂守。サッカー部の主将を務める彼は超がつく程のサッカー馬鹿で、たまたまリフティングをしているところを見られて、サッカー部に引きずり込まれてしまった。断ろうと思ったし、実際に実行した。サッカーは出来ない。健康体とは言い難い体では激しい運動は出来ないのだ。それでも円堂の勧誘は予想以上にしつこく……僕が折れた。無論、サッカーが出来ない事実は変わり様がないからマネージャーという形ではあるけれど。
「瑞希ー、僕にもタオルちょーだい」
「自分でとりなよ…そこにあるだろ?」
「俺も!」
 いつしか、弱小だった雷門サッカー部にはたくさんの仲間が集まった。
 何故か仕事を増やそうとする松野、いきなり背後からぶつかってくる一之瀬に無言で手を差し出してくる鬼道さんと豪炎寺……お前らも松野と一緒か。
「瑞希君も大変ね」
「木野…」
「先輩、私も手伝いますよー!」
「ありがとな、音無」
 両手に抱えたタオルを部員に手際よく渡していく木野と、僕のを手伝ってくれる音無。2人とも同じマネージャーであり良き同級生と後輩だ。
「あ、なあ瑞希!あとでリフティング対決しようぜ!」
「……気が向いたらね」

 これは確かな幸せだと、そう思ったことが間違いだったのかもしれない。
 何もかもが狂う。僕を纏う、その総てが。






ひっそりと音を立てた終焉



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