※男主/HGSSの主人公はコトネ





 噂だけが頼りだった。一緒に故郷を出発した幼馴染の行方は、もう一人の幼馴染とどんなに情報を集めても確かなものなんて無くて。カントー地方のチャンピオンになったレッドは、グリーンを倒して頂点に立ったあいつは、その座を放り出して忽然と姿を消してしまったのだ。
 トキワシティのジムリーダーになったグリーンはよくジムを放置して僕に会いに来る。2人とも大事なことを投げ出し過ぎだと思う僕の感性は間違っていないだろう。現にジムは閉めておくしかないし、ナナミさんだって困った弟だと肩を竦める他ない。レッドの場合は……迷惑どころか、心配を掛けてばりだ。
 最後に連絡をとったのは四天王に挑戦してくる、と素っ気ない一言を伝えられた時。僕はまだチャンピオンロードに向かう途中で、グリーンはもう既に四天王を倒した頃だったんじゃないかと思う。早いな、流石だな、と僕の方が興奮して声を荒げて、頑張ってねと告げた。返ってきた声は心なしか普段より楽しげだったと思う。レッドは強い相手と戦うのが好きだから。
 結果として、一足先にチャンピオンになっていたグリーンを倒してレッドはカントーのチャンピオンになった。そこまでは良い。諸手を挙げて祝おうじゃないか。そりゃあ負けたことに悔しさを噛み締めるグリーンを見るのは少し辛いものがあったけど、グリーンだってもう子どもじゃない。それを糧に前進することを覚えて、遂にはジムリーダーになった。幼馴染としても鼻が高いってもんだろ?レッドだって同じだ。ただ問題なのは、それからまったくもって何一つとして連絡が無く、此方から連絡をしようにも相手が応えないところだ。ワタルさんの話だと殿堂入りを果たしてすぐにリザードンに乗って何処かへ飛んで行ってしまったらしい。止める間も無い、むしろまさかそんな行動に出るとは思いもしなかったんだろう。僕だって、グリーンも、唖然としたくらいだ。昔から突拍子も言ったりしたり、何を考えてるか解らなくなるくらい自由な人間ではあったけれど予想の範疇を超えている。おばさんは「便りがないのは良い便りって言うでしょう?」と言って気丈に笑って見せるけど、誰よりも心配してるのは明らかだ。何か少しでもあいつの行方の手がかりがあるんじゃないかとレッドの部屋に行くといつも綺麗に掃除されていて、それが余計に寂しさを掻き立てる。いつでも…今すぐにでも帰って来て、と音無き声が聞こえるような気がして。

 グリーンがジムを放って各地を巡るのは、決してそうとは認めようとはしないだろうけど、レッドを捜す為だ。小さい頃から事ある毎にレッドに対してライバル意識を持っているグリーンだけど、彼にとっても大事な幼馴染であることに変わりはない。僕も捜し回っていると知っているから、何か情報があれば知らせてくれるしその逆もよくある。
そうしている内に三年の月日が流れ……あれほどに必死になって捜した件の人物が今、僕の目の前にいる。

「それで、シロガネ山に行ったら迷ってしまって…そこでレッドさんに出会ったんです。いきなり勝負を挑まれて驚いたけど何とか勝って、話を聴いてたらグリーンさんの知り合いで、しかも長い間家に帰ってないって言ったから説得して連れてきました!」
 にこやかな笑顔でそう言い切った彼女はコトネちゃんというらしい。明るくて溌剌とした子だな…押し負けて話をして連れてこられた、といったところだろう。向かい側に座るレッドは少し疲れた顔をしている。
「ありがとうねコトネちゃん、やっとこの子の顔が見られたわ」
 柔らかな笑みを浮かべておばさんがレッドの頭を撫でる。レッドはばつが悪そうに「…やめてよ、」と小さく言い返すけどあんまり効果はなさそうだ。前に母さんが、親にとってはいくつになっても子どもは子どもって言ってたけど本当にその通りなんだな。大人びたレッドをこんな風に扱えるのはおばさんだけだろう。心からホッとした表情に僕も思わず頬が緩んでしまう。
 けれどグリーンだけは、むすっとしたままサイコソーダを飲んでいる。刺すような視線はレッドに注がれたままだ。それに気付いたレッドが無表情で口を開いた。
「なに、グリーン」
「別に?」
「だったらそんなに睨まないでくれる?」
「睨んでねーよ、自意識過剰ってやつじゃねーの?」
 不穏な空気が部屋を取り巻く。昔はよく見ていた光景におばさんは「あらあら」と苦笑しながらキッチンに向かった。僕も見慣れたものだけど初めて遭遇するコトネちゃんはどうしたら良いのかときょろきょろ視線を彷徨わせている。
「止めろよ2人とも、コトネちゃん困ってるだろ」
「突っかかってきたのはレッドの方」
「先に睨んできていちゃもんまでつけてるのはグリーンでしょ」
「はあ?」
「何、やる?」
「だから止めろって言ってんだろ」
 ボールを出して今にも一戦を交えようとする2人の頭に拳骨を落とす。コトネちゃんが茫然としてしまうような鈍い音も、びりびりと伝わってくる痺れも、悶えて机に突っ伏す2人を見るのも、久し振りのことだ。それでも昔と何も変わらない。お互いに年をとって少しずつ立ち位置が変わってしまっても。
 きっとこれから先も、この関係は変わらないままでいて欲しい。
「仲、いいんですね」
 僕の耳元に顔を寄せてぽそりと呟かれたコトネちゃんの一言に、僕は満面の笑みを浮かべて肯定の声を返した。









僕らの進化論

(言っとくけど僕も怒ってるからね、レッド)
(え、)
(説教されちまえ、馬鹿レッド)
(うるさいウニ頭)


















青春に時間制限なんて、無いよ
13/04/21