ペロリ
彼の赤い舌が覗くだけで震える。怖い。嫌だ。気持ち悪い。
舌なめずりして愛おしいそう彼はうっすらと笑みをこぼす。


「ご…ごめんなさい」

「いえ謝らなくて結構です。お前だってこの後はどうなるか分かっているでしょう?」

「……っ!」

椅子に座るインゴさんが私を見下ろす。
インゴさんの顔なんて見ることは許されない。顔を上げればきっと彼の長い脚は私を蹴り上げるのだ。そんなの怖くて出来ないもの。


「お前が悪いのです。分かっていますね?」

「でも、私、ノボリさんに計画書を見て貰おうとしただけで…」

「ほう、口答えですか」

「…あ、え…ご、ごめ、ごめんなさ、い」


立ち上がったインゴさんを咄嗟に見上げてしまった。まずいと思った瞬間にインゴさんの長い脚が私の肩に置かれ、そのまま突き飛ばすように蹴り上げられた。ああほら言ったでしょう。

後ろへ倒れ込む私に跨がりブレザーのボタンを引きちぎった。
そしてインゴさんは自分のネクタイを取り私の手首をきつく拘束する。痛い、また傷が出来る。

インゴさんはいつも私が抵抗出来ぬよう拘束する。この前はロープでその前は手錠。手首の傷は増えるばかりで一向に治る気配はない。


「や、だ…ごめん、なさい、ごめ、んな、さい…いや、いや、ごめんなさい」

「黙りなさい、うるさい女ですね」

「い……ぁ……」


首に舌が這い、ぞわりと背筋が凍る。逃げない、と。逃げないと。
弱い物が強い物に食われるとはまさに今のような状況だろうか。

インゴさんの唇はサーモンピンクの可愛いらしい健康的な色なのに、その口の中から見えるテラテラと光真っ赤な舌はまさに蛇のようだ。

ぼんやりとインゴさんの行動をまるで他人事のように見つめると頬をぶたれた。とうとう口の端が切れてしまい血が出てきた。


「何を考えているのですか?ワタクシに集中しなさい」

「……っ、…」

「せっかくワタクシが貴重な時間を割いて、お前ごときのクズに付き合ってあげているのですよ?感謝しなさい」


誰も頼んでなんかいない。そんな事思いながらも決して口には出せない。
胸倉を掴まれて唇を無理矢理奪われる。必死で口を紡いでいても蛇のような長い舌が簡単に口内へと侵入してくる。
必死で逃げる舌を捕まえられてしまえば後はもう彼が満足いくまで吸いつくされるのだ。


「…っ、く…んふ…」

「相変わらずヘタクソなキスですね。フン…そのまま窒息死でもしてしまえば良いのに」

「…っぷはぁ…はぁ…ぁ…」

「…ああ、でもお前にワタクシのキスで殺すのはちょっと贅沢過ぎますね」

誰がお前のキスで死ぬもんか

私はインゴさんが嫌いでインゴさんも私が嫌い。それならほっといてくれてもいいのに。はやく殺しちゃえば良いのに。


「お前なんてクズ、大嫌いですよ名前」


嫌い、と言葉を放つ彼の表情は怖いくらいに笑顔なんだ。


「いつかお前からワタクシを欲しがるようになりますよ」


私も早く彼の目の前から消えてやりたい。




natsuki様リクエスト



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