彼女の事が大好きで愛しているのに、それを口に出したり表情に出したりする事が苦手だった。

「インゴさん…?」

「…………………」


ワタクシの下で不安な表情を浮かべる名前に少しだけ罪悪感を感じた。

「痛い…!痛い、ですってば」


ギリッ、と彼女の腕を掴む手に力を込めると折れそうで恐怖さえ感じる。
だが瞳に涙を浮かべる姿を見るとどうにも興奮してしまう。
彼女のどんな表情も好きだがやはり泣き顔が一番好きだ。泣く姿にさえ愛おしさを感じる。


「ど、どうしたんですか…?あ!ちょ、駄目、駄目です!」

「嬉しいくせに。お前も素直じゃありませんね。ほら、大丈夫ですよ」

必死に抵抗してみたがそれが逆にインゴを誘う形になってしまい、名前は後悔した。

嫌がる名前をよそにインゴは嬉しそうに彼女の細い腕へと噛みついた


「―…っ!ひ、あっ!痛い、痛いインゴさ、ん!」

「嘘をつかなくても……気持ちいいのでしょう?」

ガブリ、ガブリ
歯をたてて思いっきり噛みつく。そのたびに名前の悲鳴が小さく上がるのがインゴには愛おしくて堪らない。

「……なんなんですか、もう」


名前の瞳からはうっすらと涙が零れている。それを唇でそっと含む、嗚呼好きで好きで堪らない。


「お前は、ワタクシの事をどう思っていますか?」


好きで好きで堪らないのに彼女から拒絶される事を最も恐れるインゴは遠回しに彼女の気持ちを探る。

すると名前は一瞬だけ驚いた顔をしてニコリと微笑んだ。


「Sのくせに、そう言う時だけは臆病なんですね」

「ほう……いい度胸ですね」

「誉めてるんですよ」


彼女の手がワタクシの髪をさらりと撫でる。
先程まで泣いていた瞳はすっかり乾いていた。目を細めて笑う名前が背に腕を回す。


「好きです。愛してます。インゴさんが好きです、とても」

「………ふん、当たり前です。少しだけ聞いてみただけです」

「ツンデレですね」

「お前はよっぽど泣かされたいようですね、名前?」


インゴさん、インゴさんとワタクシの名を呼ぶ名前に深い口付けをしてまた彼女を押し倒す。


彼女が好きで好きで堪らなく愛おしい彼の愛情表現は少し遠回しである。


「…ワタクシも愛しております、名前」


空気のように小さく呟いて彼は満足した顔で彼女の腕へと歯を立てた。




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