僕は彼女の事を愛してる。大好き。壊れちゃいそうな位本当に本当に大好き。だけどいつも彼女には僕の愛が伝わらない

「ノボリさん」

「何でしょう、名前」

「先日の書類の件でお話が。お時間ありますか?」


仕事熱心な名前は今日もノボリに付きっきり。僕の部下のくせに。

名前は本来ダブルトレイン配属の僕の部下。僕自ら名前を推薦してあげた。
なのに名前ってばいつも書類の確認はノボリの所に行く。僕がいるのに


「ではこれで。ありがとうございました」

「いえ、貴女は仕事熱心で助かりますよ」

「あ、ありがとうございます」

ノボリに誉められて、頭撫でられて、なんでそんな嬉しそうな顔してるわけ?僕だっていっぱいしてあげられるのに。

クダリは少し離れた場所から今までの光景を見て溜め息をついた。実につまらない。
そこで思いついたのは悪戯心。クダリは名前が部屋を出て行ったのを横目でチラリと確認しその後を追った。


「名前」

「っ…!クダリさん?」

「やだな、そんなに驚かないでよ」人気のない道を歩く名前の後ろを音も無くつけてきたクダリは声もかけずに名前の手を引いた。
名前は期待通りの驚いた顔をして身長差のあるクダリを見上げた、ああ…堪らない。


「…何か用ですか?」

「別に。ただちょっと君にイラついただけ」


ニコニコまるで怒りを隠すかのように仮面のような笑顔を向けるクダリに名前は恐怖さえ感じる。

「…私にイラつくのは勝手ですがたまにはノボリさんみたいにシャキッと仕事してくださいよ、クダリさんだってダブルトレインを任されてるんですか………」


名前が言い終わる前に言葉は遮られた。
パァンと軽く響いた音に驚くのは自分しかいない。叩かれた、クダリさんに。

壁際に追い込まれ、逃げられないようにクダリさんの腕が両脇を塞いだ。

「…ノボリ、ノボリ、ノボリノボリノボリノボリノボリノボリ!!ずっとノボリしか言わない!何で僕に頼ってくれないの!?ねぇなんで!僕ってそんなに頼りないの…っ」

「………ちがっ」

「ねぇ、名前。」

「…っんぅ!?」


いきなりクダリさんから唇を重ねられた。息が出来なくて、苦しくて、乱暴なキス。
舌をねじ込ませ、じっくりと堪能しようやく唇が離れていった。


「…っはぁ…はぁ…違い、ます」


それも束の間、名前は酸素を求め荒く息を吸う。そして何か必死に伝えようとクダリのシャツを弱々しく掴んだ。ふわり、名前はクダリを抱き締めた。

「…っ!なに、してるの」

「私が、憧れてるのは、クダリさんですよ」

「…え」


彼は分かってない。私がどんなに彼を好きかを。クダリさん直々に私を部下に選んでくれた時どんなに嬉しかった事か。
ずっと憧れだった人がこんなにも近くなって、彼を避ける事が多くなった。
だって下手な事して彼に嫌われでもしたら私、生きていけないもの。


「……貴方が、私の上司です。尊敬できる人です。私にはクダリさんが一番なんです」

「…っ!名前っ…」


ごめんね、と小さく謝るクダリが弱々しく名前の腰へと腕を回した。


「キミが、好きなの」

「…く、だりさ…」

「だけど好きすぎて上手くいかない。話しかけたいけどきっと名前を傷つける言葉しか出てこなくて、それに名前はノボリにしか頼らないから僕必要無いのかなって、思って…」


ポツリ、ポツリと小さく呟く。どうやら本当のクダリさんは不器用で感情が上手くコントロール出来ないらしい。


「じゃ、私と同じですね」

「え…」

「私も素直にクダリさんの事、好きって言えなくて遠回りして、こんな形だけどちゃんと言えました」

「好きですよクダリさん」

「う、ん。好き。僕も名前の事、大好き。……さっきはごめんね」

「いいえ、お互い様です」


きっと彼も私も素直じゃない。私達の恋は似たもの同士、不器用どうしの遠回りの恋なのだ。




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