「インゴお兄ちゃん」

目の前の女はワタクシの事をそう呼びます。それはこの世界では当然のこと。ワタクシと名前は血の繋がった兄弟なのだから


「お兄ちゃん聞いてる?」

「何でしょう」


ワタクシとエメットの可愛い可愛い妹。歳は2つしか離れていないのに彼女は随分と幼く見える。

「エメットお兄ちゃんは今日は夜勤なの?」

「ええ…今日は多分帰ってきませんよ」

「そっか」


名前と2人ソファーに腰掛け古い洋画を見ている。洋画の内容は若い男女の恋愛の話し。正直自分にとってはつまらないのだが、隣の彼女は目を輝かせて見ている。


「素敵だよね。私にもこんな人が現れないかなぁ…」

「………そうですね」

「でもさ、私ブラコンだからきっと兄離れ出来ないかも。今もお兄ちゃんといる方がずっと楽しい」


彼女は愉快に笑う。
兄のワタクシにとっては最高の言葉の筈なのに嬉しくない。だってそれは"兄としての自分"だったら嬉しい言葉。
ワタクシは物心ついた頃から名前の事は一人の女として見ている。
妹だなんて思いたくないし、思っていない。血の繋がりが無くなればいいと何度恨んだ事か。


「…お兄ちゃん?大丈夫?」


彼女はワタクシの気持ちなんて微塵も気づかない。彼女はワタクシを兄としてしか見ていない。
だから彼女の言葉はいつもワタクシを傷つける


「大丈夫です。ワタクシも名前からは離れませんよ」

「…お兄ちゃん?」

「ただ一つ訂正したいのはワタクシはお前の兄ではありません」

「何…言ってるの?」


座っていたソファーがギシリと音をたてる。
彼女はワタクシとの距離をとるかのようにソファーの端へと逃げていく。それを逃がさぬよう折れそうな位細い手首を掴みソファーへと押し倒した。


「やだ…なに…してるの?冗談でしょ?」

「ワタクシはお前の事を妹と思った事はありませんよ名前」

「っ…!やだやだ!やめてお兄ちゃん!」

「お兄ちゃんではありません」

「っ…あ…!」


逃げないように手首を拘束し、彼女の赤い唇を自分の唇と重ねる。
小さい身体は怯えるようにして震えている。その姿は、今のワタクシには快感にしかならないのだ。


「ずっとこうしたいと思ってました…」

「っふ…やだぁ…」

「ワタクシはお前を愛しています、一人の女として」

「やだお兄ちゃん…やめて…」

「名前を呼んで下さいまし」

「っ…ふ…やだぁ…」

「名前…」


名前は目に涙を溜めてこの不毛な行為に必死に耐えている。それがなんとも可愛くて、愛しくて彼女の全てを奪ってしまいたくなる。


「…名前、名前…」

「……い、インゴ…」


彼女は泣きながら、解放される事を祈りながら小さくワタクシの名を呼んだ


「名前愛しています。世界中の誰よりもお前だけを」


彼女の涙を舌で舐めとり、もう一度唇へとキスをする
彼女はきっとワタクシに失望しただろう。気持ち悪いと、歪んでいると。


「お兄ちゃ……インゴ、なんで、泣いてるの…?」

「…とても嬉しくて」

「……っ、インゴ……」

すると彼女は自らワタクシに口付けた。ワタクシは驚きが隠せないまま下にいる彼女を視線をやると彼女は悲しそうに苦しそうにワタクシを見つめた。


「何故、お前がその様な目をするのですか…」

「インゴが…苦しそうだから…私も、苦しい」

「名前…」

「…私も、共犯者だから…だから…泣かないで」


彼女はゆっくりとワタクシを抱き締め、ワタクシもそれに応えるように彼女に口付けた。



祈った事などないが、もし神がいるのならどうかワタクシの願いを叶えて欲しい。

神様、願わくばどうかワタクシが朽ちるその日まで彼女と共に居させて下さい




雫様 リクエスト





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