「あれ、桃井さんまだ来てないみたいですね」 「え、まじか」 体育館へと(半ば無理矢理、強制的に)連れてこられたが、体育館は静まり返っており誰もおらず、さつきの姿も見当たらなかった。なんでさつき居ないんだよ、黒子くんと二人なんて嫌だよ。 「仕方有りませんね、暫くここで待ちましょう」 「え、えー…うん…そうだね!」 「いま物凄く嫌そうな顔しましたね?」 「しっ、してないっす!めっちゃ嬉しいっす」 必死で作り笑いで誤魔化すけど黒子くんは尚も怪しむ目つきで私を睨んでくる。視線が怖いよ。ちょっと人の一人や二人殺せちゃうんじゃないすか 「じゃあ僕、先に着替えて来るんで誰か来たら呼んで下さい」 「え、ちょっ、私一人!?この広い体育館の中私を一人にするの!?」 「何ですか、そんなに僕の着替えが見たいんですか?名前さんてばスケベですね」 「違うよおお!何で黒子くんはそんな変な解釈しか出来ないの!?」 黒子くんは言いたい事だけ言うと「じゃあ僕着替えて来るんで」と一人部室へと歩いていった。 孤独感に負けて黒子くんを追いかけようとしたけど止めた。追いかけたら奴の思い通りだ…それになんか負けた気がするし 仕方なく一人ポツンと床に腰かけた 「……本当に静かすぎる」 「あれ?名前っちじゃないっスか」 「あ、黄瀬くんだ」 玄関から騒がしく体育館へ入って来たのは同じクラスの黄瀬くん。 相変わらず後ろにはファンの女の子が何人かが付いてきている。恐るべしモテ男 「名前っちどうしたんスか?体育館なんかに」 「……悪魔を倒せなかったから強制的かつ無理矢理引っ張られてきた」 「へぇ…随分な物言いですね名前さん。あ、黄瀬くんお疲れ様です」 「黒子っちお疲れっス!……名前っち?大丈夫っスか?」 「ダイジョウブダヨ」 黒子くんが後ろから首根っこをグイグイ引っ張ってくるのに必死で耐えた。痛くないよ、痛くないよ、涙なんて出てないよ 「ところで名前っちは体育館に何か用スか?今日は見たいドラマがあるんじゃ…」 「それがね……「名前さんは今日から僕等の奴隷…あ、失礼。マネージャーになるんです」……おおおい!間違え方が酷いよ!」 「え、奴隷っスか?」 黒子くんがサラリと言った一言に黄瀬くんは頬を染めた。 違うよ、違うよ黄瀬くん。私奴隷志望とかしてないから。あと顔赤くする場面間違ってるからぁ! 「奴隷は違うけど、そう言う事だから部活でもよろしく黄瀬くん!」 「はいっス!よろしくっス!ところで名前っち何で急にバスケ部に?」 黄瀬くんの問いかけにビクリと肩が揺れた。 その話題には、触れて欲しく無かったのに! 「僕も気になりますね」 ホラァ!ややこしい人入って来ちゃったよ!絶対黒子くんに言ったらシバかれるよ。死亡フラグだよ私 「バ、バスケがやりたかったから!」 「嘘つかないで下さい」 「何で即答で否定なの!?私だってバスケダイスキダヨ」 「名前っち片言になってるスよ」 「本当は食べ物とかに釣られたんじゃないですか?名前さん甘い物には目が無いですからね」 黒子くんが放つ言葉が容赦なく私に突き刺さる。下唇を噛み締めて図星とバレないように表情を隠くす。そんな私に黒子くんは目を光らせる 「名前さん本当にバスケ好きでバスケ部入ったんですか?僕が一年の頃あんなに頼んでも入ってくれなかったのに」 「……本当、だよ。多分」 「まぁ黒子っちも名前っちもそんな事どうでも良いじゃないスか!」 「黄瀬くん……」 すかさずフォローに入ってくれた黄瀬くんのお陰で黒子くんも追求するのを止めてくれた。黄瀬くんナイス!黄瀬くんまじ天使! 「それより名前っち知ってるスか?」 「何を?」 「バスケ部のマネージャーはバスケ部員に必ず従わなきゃいけないんスよ」 「………え」 「ね、黒子っち?」 パチーンとモデルウィンクを黒子くんに飛ばすと、黒子くんは何かに気づいたようにハッとし2人してアイコンタクトを取った。 「そうでしたね黄瀬くん。すっかり忘れていました」 「嘘つけぇ!お前等今絶対アイコンタクト取っただろ!見えたから!」 「違うっス。ウィンクの練習っス」二人して、しれっと当たり前のように言ってのけた。そんな事さつきから一言も聞いてないし入部届には書いてなかったけど! 「だから俺のお願い聞いて欲しいっス」 「……………やだ」 「名前さんこれは運命なんですよ。名前さんが奴隷…マネージャーになる事は」 「今奴隷って言ったよね!?黒子くんはそんなに私を奴隷にしたいの!?」 「違いますよ!寧ろ飼いたいんです」 「あ、黒子っちずるいっス!俺も名前っち飼いたいっス」 「うわあああん!入部詐欺だあああああ!」 黄瀬くんもまともな人だったのにいつの間にか黒子くんに影響されておかしくなっちゃってるよ 期待の眼差しを向け、じりじりと近づいてくる二人から逃げるも腕を掴まれてしまった。 「名前っち!部員の命令は絶対っスよ」 「観念して下さい」 「分かったよ!分かったからどっちか1人だけにしてよお」 両サイドからがっちりと腕を引っ張られ、悔しいが観念する。 二人のうちのどちらかに今からお願いを聞くことで私は解放された。 すると黒子くんと黄瀬くんはお互い火花を散らしながらジャンケンを始めた。そんなに私を奴隷にしたいか、したいのか!? そして三回勝負のジャンケンを勝したのは 「やったー!名前っち勝ったっスよ!俺勝ったっスよ!」 ニコニコスマイル全開の黄瀬くんだった。一方敗者の黒子くんは少しだけ悔しそうに黄瀬くんを睨んだ 「今日は俺のお願い、聞いて貰うっスよ」 「…お金身体以外なら何でもこい!」 「頭撫でて欲しいっス!」 「はひ?」 思いがけないお願いに間抜けな声が出た。今、なんて?頭撫でて欲しい? 黄瀬くんに疑問の眼差しを向けると黄瀬くんはにっこり笑って私の手の届く位置まで膝を曲げた。 「ほ、本当に撫でてるだけでいいの?」 「それ以外にも何かしてくれるんスか?」 「滅相も御座いません」 とりあえず周りに黄瀬ファンが居ないかを確認する。先程までたむろっていた女子達は居なくなっていた。 恐る恐る黄瀬くんのフワフワな金髪に手を乗せて軽く撫でる。ちょ!なんだよ、このキューティクルヘアー! さらふわキューティクルヘアーにこの汚らしい手を乗っけていいものかと躊躇する。 「黄瀬くん、こんなんでいいの?」 「んー勿論っスよ…」 「黄瀬くん犬みたいですね」 黄瀬くんの頭を撫でるとニコニコと笑顔を浮かべて嬉しそうに身をよじる。ちょっと何だよこの可愛い生き物は! 「まるでご褒美を貰った犬ですね」 「(大型犬みたい…)」 このあとも五分間位黄瀬くんを撫でてたけど、終わった時から黄瀬くんが犬にしか見えなくなってしまった。 黄瀬くんが嬉しそうに笑うと、その後ろにパタパタと揺れる尻尾が見えるけどきっと幻覚だ、幻覚。 |