人生は平凡なのが一番だと思う。何の当たり障りもない毎日が意外にも幸せだったりするのだ。少なくとも私にとっては、だが。


「そんなのつまらないよ」
「え?」
「人生は刺激があってこそ楽しいものだよ」
「う、うーん…」
「ていう事で、入ろうか?バスケ部」
「は…?」


平凡と言う言葉が音を立てて崩れていくような気がした。











「ね!お願い名前なら絶対出来るってば」
「ぜっ、絶対絶対出来ないから!無理無理!胃痛で死んじゃうから」


じりじりと距離を縮め机を乗り越えてさつきが私の顔へと入部届を張り付けてくる。やめて、超やめて。
彼女、桃井さつきは私の数少ない友人の中でも親友と呼べる程仲の良い存在である。
さつきは男子バスケ部のマネージャーをしていて、毎日忙しそうに走り回っている。そんな彼女をいつも私は見てるだけ。そんな私にマネージャーなんて出来るはずない。


「今はもう三年生も卒業して二年生中心の世代になって益々忙しくなったの」
「うんうん」
「しかも手が付けられない馬鹿ばっかりで!」
「う、うん…?」
「ね?だから、ね?」
「痛い、痛いよさつき!入部届めっちゃ顔に張り付いてるよ!」


さつきは絶えず私の顔に入部届を張り付けてくる。必死なのは分かるのだが、私には帰宅部として夕方のドラマを見なければいけないと言う使命がな…

「……駄目?」
「う、うーん…だって私もうバスケには関わらないって決めたし…」
「大丈夫!バスケ部みんな良い人だから」

あれ…?さっき手が付けられない程の馬鹿とか言ってませんでしたか、さつきさん。


「んんん…でも私、馬鹿だしノロマだしビビりだし人見知り激しいし」
「…………大丈夫よ」
「今、間あったよね!?あったよね!!」
「とにかく!入って!」
「凄く直球!!」


私もバスケが嫌いな訳では無いし、さつきの誘いを断る正当な理由はない。だけど少し怖いのだ。また昔みたいにバスケを大嫌いになりそうで。


「分かったわ。名前がそこまで言うなら私も一肌脱ぐよ!」
「…えっ」
「ケーキバイキングでどう?」


提案したさつきはドヤ顔で私を見つめた。ポカーンとしている私に彼女はにっこり微笑んだ。
生憎、私はそんなものに釣られる程甘くはないの…

「…引き受けようじゃないですか」
「やったあ!」

ごめんなさい。釣られました。甘いものには目が無いんです


「じゃ、さっそく今日から来てね。放課後、体育館で待ってるから!よろしくね」
「え…ちょ…さつき!?」


言いたい事だけを伝えるとさつきは教室を出て行ってしまった。
残されたのは私と目の前にあるシワが寄った入部届だけ。
改めて冷静になって入部届を見つめると溜め息しか出てこなかった。



「大丈夫かな、私」

こうしてケーキバイキングに釣られ、バスケ部入部が決まりました。

バスケ部の皆さん不純な動機でゴメンナサイ



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