「あっは!ヒドイ顔だねインゴ」

ニヤニヤと笑ってソファーにふんぞり返っているエメットを一瞥して、思いっきり足のつま先を踏んでやる。痛い!と叫んでソファーから立ち上がったエメットを蹴り飛ばしにソファーを占領した。

「名前、目が赤かったなぁ」

「とうとう泣かしちゃったの?」

「本当にインゴってばオンナノコの扱いがなってないなぁ〜」

ベラベラと喋り散らしているエメットを無視して帽子を取りソファーへと横になる。額に手を当てて目を閉じれば思い出してくるのは名前の泣き顔。そしてあの言葉。

"嫌い!インゴさんなんて大嫌い!"


何が、いけなかったのでしょうか…
どこで間違ったのでしょうか?今まで付き合ったオンナはキスをしてやれば喜んで何度もねだってきたのに

それなのに違った
名前は違った。首輪もキスも嫌がった。大切に扱ってきたつもりだった、愛情を注いだつもりだった。


「インゴは愛情表現ヘタすぎ!てゆーかインゴの愛重すぎ」

「…何が悪かったのでしょうか。今までのオンナはキスをすれば喜びました。」

「名前、今までのオンナノコと違う。大体首輪とか何なの!?インゴ頭おかしすぎ!」

「…は?何故ですか」

「首輪とか本当ありえないから!」


何故ありえないのでしょう。エメット、お前の頭がありえません。
今まで付き合ったオンナは皆、首輪を付けてやったり鞭で叩いてやったら喜んだのですがねぇ…









「名前…口から精えk…ヨーグルト垂れてますよ」

「………」

「うっわ!名前が僕等の下ネタに対して何にも反応しない!ツッコミをいれない!珍しい」

「………」

「お、恐ろしい!」


ノボリさんとクダリさんが両隣でギャーギャーと騒いでいるがそれすらも耳に入らない。
…インゴさんから逃げた後、駅のホームで泣いてた私に気づいたクダリさんが私を担いで執務室まで連れてきてくれた。
担いでいる間、クダリさんはずっと背中をさすって「大丈夫だよ」って慰めてくれた。…クダリさんってばこんな時は真面目で冗談も何も言ってくれないから、涙が止まらなかった。

執務室にはノボリさんも居て私とクダリさんが入ってきたらギョッって感じでいつもより倍以上目を見開いて驚いてた。ノボリさん目デカすぎ…
ノボリさんもクダリさんも何も聞かない。ノボリさんはタオルで優しく涙を拭き取ってくれて、クダリさんはなんか分かんないけどヨーグルトくれた。パッケージに大きく『ぼくの』って書いてあるのを見て微笑ましくて、少しだけ元気貰った。


「あ、の…」

「どうしました?」

「聞かないんですか…その、泣いてた理由…」

「聞いて欲しいの?」

「……いえ」

「言わずとも大方想像はつきますので」

「え、?」

「インゴの事でしょ?」

頭をポンポンと撫でてくれるクダリさんの手が凄く優しい。だけどクダリさんもノボリさんもどこか寂しげな顔して私を見つめるから、2人の事直視出来なかった。


「…妹を嫁に出す心境ってこんな感じかなぁ…ね、ノボリ?」

「ええ…ですが嫁には行かせません」

「いや、何の話しですか?」

「ねぇ、名前。この間さ僕が何か言いかけた時あったじゃない」

「…ええ、カズマサからの連絡で中断してしまった時ですよね?」

「そうそう!」

「…クダリ、良いのですか?インゴ様は…」

「もー良いの!名前を泣かせた仕返し!それにインゴだったらいつまでたっても伝わらないもん」

「まぁ、そうですね…」

2人の会話についていけずにオロオロと2人の顔を交互に見ることしか出来ずにいると、急にノボリさんとクダリさんの手が私の手を包み込んだ。

「名前…」

「な、何ですかっ!2人共…急に真剣な顔して〜あはは…は…」

「名前、わたくし達がいまから話す事はすべて真実です」

「名前、君に良い話しをしてあげる」

「………え」












「ん、」

「おや、おはようございますインゴ様」

「インゴおっはー」

はた、と不意に目を覚ますとノボリ様とクダリ様がワタクシの顔をまじまじと見つめていた。
…ソファーに横になったまま寝てしまっていたのか。それより、ノボリ様とクダリ様が持っている油性ペンは何に使う予定だったのでしょう…?


「おしい!もう少しでインゴの顔に落書き出来たのに」

「ええ、残念でしたね」

「何のことでしょう…?それより、何か用ですかお二人自ら訪ねて来るなんて」

「うん、ちょっとインゴに良い話し持って来てあげた」

「ワタクシ、ですか?」

「ええ」


ノボリ様とクダリ様はデスクに備え付けてある椅子を持ってきてワタクシの前に座る。
クダリ様は先程からニヤニヤとよからぬ事でも考えているかのような笑みを浮かべる。それに対してノボリ様は顔を下に向けて少し申し訳ないような顔を浮かべていた。


「インゴ、名前の事泣かしたでしょ」

「…ええ否定はしません。でも何故それを?」

「泣いてる名前を見つけたの、僕だもん」

「…そうですか」

「それでね、インゴに仕返ししに来た」

「…………は?」

「大丈夫です。手はあげませんので」

当たり前だ。
まぁ、殴られたら殴り返しますがね。


「インゴ、名前のこと好きだよね?」

「………」

「わたくしもクダリも名前の事が大好きで御座います」

「妹みたいで、可愛いかった。優しくてバトルも強くて、少しドジでまぬけな名前」

「………」

「そして、恋愛に対してどこまでも鈍い」

「…何が、言いたいのでしょうか」


この2人の言動はワタクシをイライラさせる。何なんだ、名前がドジだとかまぬけだとかそんな事…分かっている。ワタクシは名前をずっと見てきた…
研修としてここに来る前から…見てきたのだ


「インゴが名前を好きな事は前から知ってたよ」

「頻繁に日本に訪れていましたしね」

「だから僕とノボリは精一杯のお節介、してあげた」

「最初にインゴ様とエメット様を迎えに行かせたのもわたくし達が仕組んだ事です」

「…何となくですがわかっていました」

「だよねぇ…!だけどさインゴ、泣かせたら駄目だよ」

「ええ…それにインゴ様、失礼ながらインゴ様の愛情表現は少しながら伝わりにくいかと…」

「…そうなのですか?」

ノボリ様はまた申し訳そうに頭を下げた。クダリ様は依然としてニヤニヤニヤニヤ……エメットに似ていて余計に腹が立つ


「ね、インゴ。今から僕インゴに仕返しする」

「…どうぞ。殴ったら殴り返しますからね」

「ですから殴りませんってば!」


クダリ様はワタクシに近づいて来て胸倉を掴んだ。ノボリ様は後ろで悲鳴をあげている。
何なのだとクダリ様の目を真っ直ぐと捕らえるとニヤニヤしていたクダリ様の顔が急に真剣になる



「インゴの気持ちは僕が変わりに伝えてあげた」

「…………は、」

「名前はもう気づいたよ、インゴの気持ち」

「…な、にを」

「インゴが名前を好きってこと名前に話した」

「これが、僕等最後のお節介で優しい仕返し」


どこが優しい仕返しだ
全然優しくなんてない…それに、世界一余計なお節介だ



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