「今日から海外のギアステーションからサブウェイボスのお二人が来日され、此方に研修に来られますので皆様くれぐれも失礼のないようお願い致します。」
朝の朝礼はノボリさんのこの言葉から始まった。
海外のサブウェイボス。聞いた事はあるが実際会うのは今日が初めてである。ああ、楽しみだなあ!
と思った矢先に
「名前は今日は非番です」
「な、なんでですか!?」
私が楽しみにしていたのノボリさんだって知ってるくせに!
「貴方にはサブウェイボスのお二人にこのギアステーション案内して欲しいのです」
「え…?」
「わたくしもクダリも生憎その時間はカナワタウン行きの電車が通る時刻ですので案内出来ないのですよ」
はあ…とため息をついて「本当は貴方には一番任せたくはないんですけどね」と小声で一言。
おい、聞こえてるぞコノヤロウ。
「ほ、本当に私で良いんですか!」
「ええ…それに貴方、英語も少し程度なら嗜んでいるでしょう」
「はい!迷惑かけないように頑張ります!」
ああ!嬉しい!海外のサブウェイマスターさんはどんな人かなぁ…うちの上司みたいに変態じゃなきゃいいなあ…
***
「名前…」
「ひゃひゃい!」
「はぁ…本当に大丈夫ですか?」
「だ、だだだ大丈夫です…多分」
「時間になったらちゃんと入口まで迎えに行くのですよ」
「わ、わわわかってますよぅ…」
「心配です…」
「名前頑張ってねー!」
いつもならクダリさんの天使スマイルでイチコロなのだが今日は本当に無理…緊張で…死んでしまいそう…
「何かあったらすぐ連絡して下さい」
「名前、変なことされそうになったら逃げるんだよ!」
「既にされてます…」
二人ともさり気なくお尻を揉まないで下さい。セクハラです、
時間になったので二人と別れて駅の入口へと向かった。私が部屋を出た後もしつこく後ろからノボリさんとクダリさんが声を掛けてきた…恥ずかしい…。
「あ…」
入口で今かと今かと待っていたら一台のタクシーが私の目の前で止まった…やばい本格的に緊張してきた…
タクシーのドアを開けて降りてきたのはノボリさんやクダリさんと同じ位背の高い金髪の2人組だった。
「はーやっと着いたよ!ボク疲れちゃった!」
金髪の1人、クダリさんと同じ白色のコートを着た人が背伸びをしながら降りてきた。…ん、あれ?バリバリ日本語じゃないっすか。
「邪魔です。」
金髪白色コートさんに夢中になっていたら身体が浮いた。いや違う、目の前はコンクリートだ。
おまけにお尻あたりがかなり痛い…あぁ、私蹴り飛ばされたんだ。
理解したのはコンクリートに膝を付いた時だった。
「あーもうインゴったら!ハーイ!可愛い子ちゃん、大丈夫だった?」
「何をしているのですかさっさと立ち上がり道を開けなさい、邪魔です」
2人からいっぺんに話しかけられて頭は混乱する。自己紹介もまだしてない…格好良く英語で決めようかと思ってたのに、気づいたらノボリさんと同じ黒いコートの方に蹴り飛ばされてるし…
いま泣いたら負けだ!頑張るのよ名前!
「あ、あの私本日お二人を案内させて頂きます名前です!」
勢いよく立ち上がり震えながらもなんとか言えた。どうだ!私は強いんだぞ!と思わせるために軽く睨んでやった
「あーキミがノボリとクダリが言ってた名前?可愛いね!小さいね!」
白コートさんが私をぎゅうぎゅうと抱き締めてきた。こ、これは海外なりの挨拶だよね?
「ボク、エメット。よろしくね名前ー」
「あう…え、エメットさん…よろしくお願いしま、す」
身長差があるためかエメットさんがのしかかるように抱き締めてくるので息が辛い…うっ
エメットさんのタックルまがいの抱擁に耐えていたら黒いコートの方に睨まれた!お、恐ろしい!
「エメット、邪魔です。…お前も早く駅を案内しなさい」
ベリっとエメットさんが引き剥がされて黒いコートさんが私の目の前に来た…い、威圧感はんぱない…
「あ、あの…お名前を伺ってもよろしいですか?」
「…ハァ…インゴです」
なんでため息付いたコノヤロウ。とか思ったけどとりあえず営業スマイルを崩さないように必死だった。
「で、では案内しますね…此方へどうぞ」
と私が進もうとした先にドスとキャリーバックが置かれた…ん?
「お前が持ちなさい。ワタクシは長旅で疲れましたので」
インゴさんはそれだけ言うと自分は先に歩いて行ってしまった。
「あーもーインゴったら。ボクは自分で持つよ!頑張ってね名前!」
笑顔のエメットさんもどうやら助けてはくれないらしい。
1人だけぽつんと残された私はくっそ重たいキャリーバックを引きずりながら2人を追った。
別に泣いてなんかない…