「おはようございます…」

「うわっ!名前どーしたの?スッゴいくま!!」

「くま…ああ、ちょっと寝れなくて」

昨日は無事に自宅に帰り着いたが、全然眠れなかった。インゴさんの言葉が頭の中で何回も何回も再生されて、それで恥ずかしくなって……っあああ!!もうモヤモヤして気分が悪い!!

「あのう…クダリさんインゴさんは……?」

「インゴ、今日午後出勤!名前顔赤い…インゴとなんかあった?」

「なななっなに言ってるんですか!元はと言えばクダリさんがインゴさんに電話なんか頼むから悪いんですよ!!もう、クダリさんの馬鹿野郎ーー!私駅の様子見て来ますからっ」

「………えへ。なんか進展あったんだ!ノボリに連絡しとこーっと」


執務室を抜け出して無我夢中で走る。駅に行くなんて言ったけど特に仕事があるわけでも無いし、返って用もなく居たら邪魔になっちゃうしなぁ…。
トボトボと歩く足取りは重く口からは溜め息ばかり出る。ああ、私昼からインゴさんとどんな顔して会えばいいんだろう…。こういう時話せる相手が居たらなぁ…カミツレちゃんとかグリーンとかん?グリーン?私なんか忘れて…

(―…明日お前の職場行くから)

「そうだったあああ!!」

なに忘れてるんだよ私!!こんなに重要な事なのに!!ああああもうなんか今日仕事サボリたくなってきたわ!!最悪だよ…にしてもグリーンてば何に挑戦するんだ?ダブル?シングル?マルチ?ああもう聞いときゃ良かった。
でもまぁグリーンは多分一人で来るだろうからシングルよね…よしこうなったらノボリさんに頼んで今日はシングルへの乗車を無くして貰おう。


「駄目です」

「早いですよ!お願いします…今日だけで良いですから…」

「駄目と言ったら駄目です。それにしても何ですか、押し掛けて来たと思ったら急にシングルトレインに乗りたくないだなんて…失礼でございます」

「うう…申し訳無いとは思っているんです。だけど本当に今日は駄目なんです」

「…仕事に対して真面目な名前がそこまでして拒む理由をお聞かせ下さいまし」

「……む、昔の友人が私が此処で働いている様子を見にくるって」

「ふむ…何がいけないのですか?貴女様は毎日一生懸命、誠心誠意仕事に打ち込んでいるではありませんか」

駄目なんですよ…!グリーンが私のこの仕事を見て「ふざけんな!!何がバトルサブウェイだ!名前、カントーに帰るぞ」とかあり得そうだし。ましてやインゴさんと遭遇したら相性最悪そうだし何が起きるか…!いやもしかしたら二人で手を組んで益々私を虐めるかもしれない…どっちにしてもグリーンとは会いたくない!

「じ、じゃあせめてインゴさんだけでもシングルに乗車させるのを止めさせて頂けませんか?」

「何故インゴ様が出てくるのです…それにインゴ様は元々シングルトレイン専門ですので私にその決定権はありませんよ、名前」

「……何をコソコソとワタクシの話しをしているのですか」

少し機嫌の悪そうな声が聞こえ後ろを振り向くと眉間に皺を寄せたインゴさんが立っていた。案の定機嫌は悪そうだ。
インゴさんと目が会うと昨日の電話の言葉が頭に響く。そしたらなんだか恥ずかしくなっちゃってまともにインゴさんの顔が見れない

「おはようございます、インゴ様。いえ名前が今日は自分とインゴ様をシングルに乗せないでくれ、と」

「ああああ!!なんで言っちゃうんですか!?馬鹿なんですか!違いますインゴさん誤解です!!」

必死になりインゴさんへ事の事情を説明しようとしたのだが彼は私を一瞥した後、煙草を加えながら「ノボリ様さえよろしければワタクシは構いませんが」と…え?今なんと

「何か事情があるのなら後で聞きます。ワタクシの変わりにエメットを此方に寄越しましょう。名前の変わりはカズマサなんかでよろしいかと」

「そう…ですね、ではそう致しましょう。名前はそれでよろしいですか?」

「はッはい!是非!ありがとうございます!」

海外サブマスの二人が研修中の間は日替わりや午前午後に分けてノボリさんやクダリさんと交代でバトルに参加していた。ノボリさんが午前バトルに参加した場合は午後からはインゴさんがシングルのバトルを行っていた。
ダブルは普段ノボリさんとクダリさんのコンビなのだが今はクダリさんとエメットさんのコンビでバトルをしている。
私は基本的どちらにも参加して乗車するのだが回数的にはシングルが多い

「ではワタクシからエメットとカズマサには声を掛けておきますよ。さて、行きますよ名前」

「あ、う…はい!ノボリさんありがとうございました!今度コーヒー奢ります」

バタバタと出て行ったインゴと名前を見送りながらノボリは微笑ましそうに二人を見つめた。

「お二人共…もうお付き合いをなさっているのでしょうか…名前が泣かされてなければいいのですが」

しばらくしてノボリに宛てられたクダリからのメールに彼は気を失いつつあった。





**

「で、理由は何です。早く話しなさい」

「はっ話したいのは山々何ですけど、こんなに近かったら話せませんよ…」

駅へと続く廊下にて私はインゴさんに、壁ドンとやらをされている。さっきまではちょーっと優しかったのに!チクショウ油断した!
ジリジリと間を詰めてくるインゴさんを必死に交わしながらなんとか距離を取る

「それよりインゴさん…今日午後出勤じゃ無いんですか?」

「ええ、ですがお前の顔が見たかったので早めに出勤しました」

「…っえ、う、あの」

ストレートすぎる!!最近のインゴさんは積極的すぎて心臓に悪い。今だってこんなに近い距離でそんなこと言うもんだから私の体温は見る見るうちに上昇し顔も熱くなる。さらに追い討ちをかけるように忘れようとしていた先日の言葉が頭をよぎる

「うう、恥ずかしいから止めて下さい!」

「言ったでしょう、お前はワタクシを好きになると。そのためならどんな手段を使っても名前にワタクシが好きだと、惚れたと言わせて見せますよ」

「…っ!!」

「おや、顔が真っ赤ですね。そんなに強がってないで早く認めたら如何です?」

再びジリジリと詰め寄るインゴさんに今度こそ抵抗出来なくなり、距離を近められる。次第にインゴさんの顔が近づき唇を重ねようとした時


「名前に触ってんじゃねーよ」


駅へと続く、普段は駅員しか使わない廊下に聞き慣れた声が響いた。
生憎その声は今もっとも聞きたくない声ナンバーワンであり、嵐をよぶ前触れだった。

「グ、グリーン」


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