あれは私がジムバッジを求めて旅をしていた時の話し。私もあの頃は十代で若かった。
私の出身はカントーの大都会と言われるヤマブキシティ。旅を始めたのは確か12歳の時だった

子供の頃の夢はエリートトレーナー
12歳の私はその夢を叶えるべく色んな地方を旅してきた。一番最後に故郷であるカントーに帰ってこようと思っていたのでカントーは後回し。
最初に旅したのはジョウト地方。その後にシンオウ、ホウエン…今思えば本当に昔の自分の行動力には感心する。
一通り地方を回り終わって無事カントーへ帰って来たのが5年後の17歳。各ジムを回り終えて残るわ、トキワジムただ一つだった。カントーに帰って来た時にトキワのジムリーダーは何かと噂で聞いていた。

"カントーのトキワには若くて、凄いジムリーダーがいると"


各地のイケメンを見てきた私の肥えた瞳に今更イケメンだと思える奴は出てこないと思ってたし実際故郷でイケメンなんてあまり出会った事無かったので、そんな噂には興味が無かった
それに若いだろうがイケメンだろうが関係ない。トキワのジムリーダーを倒して最後のバッジをゲットしてやるんだから!

ちなみに3つの地方を旅して私の中のイケメンジムリーダーはジョウト地方のマツバさんとホウエン地方のダイゴさんだ


「残るはここのグリーンバッジのみ…!どこぞの若いイケメンジムリーダーさんか知らないけど、コテンパンにしてやるんだから!」

「…ふーん。コテンパンねぇ…」

「…?誰ですか?」


ジム入り口にて意気込む私の後ろには、髪の毛が爆発してる青年が立っていた。髪の毛は…寝癖かな…


「な、何髪の毛ばっか見てんだよ!」

「い、いや…寝癖…酷いんですね…」

「寝癖じゃねーよ!見て分かるだろうが!!」

「えぇ…そんなウニみたいな髪の毛がセットしたって言うんですかぁ!?」

「ウニじゃねぇよ!!」

頭をガシガシかきながら私の横をすり抜けて行く青年を睨むように見つめてたら「え?何?惚れた?」……何この人うぜぇ


「あの、ウニさん」

「グリーン」

「は?あの…ウニ…」

「グリーン」

「え?な、何ですか?環境問題でも訴えてるんですか?」

「違えよ!俺の名前だよ!」


ウニ頭の青年の名はグリーンと言うらしい。
なんと環境的に良い響きの名前ですね、って言ったら怒られた。褒めたつもりだったんだけどな


「お前さ、挑戦者?」

「あ、はい!そうですよ?グリーンくんもですか?」

「さぁな。ところで挑戦者さんよ」

「何ですか?」


グリーンくんはドヤ顔してフン、と鼻息を盛大につくと私に向かって人差し指を突き立ててきた


「お前、ここのジムリーダーに負けるぜ?」


その言葉だけ残すとグリーンくんはジムの中へと入っていってしまった。
私はその後ろ姿を見つめるだけでその場から一歩も動けなかった。


久しぶりに雷が落ちた

私の中であのグリーンくんの言葉が何度も何度もリピートされる。それと同時に私の中でメラメラと彼への対抗心が沸き上がってくる

彼は、強い

あの時、負けを宣言された時に身体中に雷が落ちたような感覚だった。
久しぶりだった。こんなにも誰かに負けたく無いって気持ち。腰に付けているモンスターボールも私の気持ちと同調しているのかカタカタと揺れる。

彼に勝ちたい、グリーンくんに勝ちたい

ドキドキするこの気持ちを抑えられないままトキワジムへと足を踏み入れた










**


「よぉ、きたな」

「グリーン、くん」


ジムに入っていった筈のグリーンくんをここに辿り着くまでに見かけなかったのでまさかとは思ったけど…


「そ、俺がトキワジムのジムリーダー」

「…そうなんだ」

「驚いた?名前ちゃん」

「え?は!?な、なんで名前…」

「お前の事は知ってたよ。俺の耳にもお前の噂は入ってた」

「え……」

「3つの地方を旅して、その各地でジムを制覇している女の子」

「ま、そんな噂は関係ない。…俺はお前を倒すよ」


彼は淡々と語るがその一方でとてつもないプレッシャーを放っている


「お前の連戦記録、俺が止めてやるよ。今ここで、このトキワジムで」

「私は貴方に負けない!負けたくない!」


ゴクリと生唾を飲む
久しぶりに手に汗握るバトルが出来そうだ。
彼は強い、だけど倒したい!










**



「ゲンガー戦闘不能!よってジムリーダーグリーンの勝ち!」


審判の声が私とグリーンしかいない会場に響き渡った


「ありがとうゲンガー。良く頑張ったね」


ゲンガーをボールに戻すと私はその場に膝をついた


「ま…けた。負けた…」

「惜しかったな。ま、これが実力の差だ」

私に手を差し伸べたグリーンくんの誇らしげな顔が凄く憎い。仕方なく手を借りてフラフラになりながらも、なんとか立ち上がる


「悔しいか?」

「…そ、んなの!当たり前だよ…!」


下を向いて俯く。涙を堪えるのが必死で、今の顔は絶対にグリーンくんに見られたくない


「お前に一つ忠告しといてやる」

「…な、に」

「お前は人に甘すぎるんだよ。その甘えはいつか自分も周りをも滅ぼすぜ」

「っ!?」


意味が分からず、グリーンくんの顔を見上げる。あ、顔見られちゃった


「お前よく今まで負けなしで勝てたな」

「ど、いう…意味…?」

「そのまんまの意味。お前肝心な所で相手を気にする。だからポケモンにも指示出来なくなって負ける、そういう事」

「お前、ポケモンバトルだけじゃなくて人間関係でもそうだろ?」

「…ちがっ…」

「違わねーよ。人にも甘いだろ、お前。誰でも信用して誰でも好きになる、そんなタイプ」


自分じゃ気づかなくて、それより今は負けた事の方が悔しくってその言葉は私の頭には残らなかった


「ま、またいつでもジム戦は待ってるからよ名前ちゃん」

「……ぜっ、絶対次は勝ちます!」






それから私は毎日のようにトキワジムに通ったけれど、一度も勝てる事は無かった。
どんなに修行してもどんなに相手の弱点を攻めても最後の最後に私は負ける。私の毎日は殆どがジム通いだった

この時にはすっかり旅に出た当初の目的である、エリートトレーナーという夢はほぼ叶えたような物だったので、これからの人生をどう生きようか迷っていた時期でもあった。
そんな時、私の運命を変える出来事があった



「グリーン!グリーン!グリーン!」

「何だよ、うるせぇな!今日もジム戦か?」

「違う!私、イッシュに行く!」

「………は?」

「この間、家族旅行でイッシュに行ったの!私、鉄道員を目指すわ!」

「いや待て待て。話しを短縮しすぎて意味分からねぇよ」

「イッシュにねバトルサブウェイって言うポケモンバトルの施設があるの!そこで働けば毎日バトルが出来るのよ!」

「ふーん……で、いつイッシュには行くんだよ」

「明日!」

「は………?」

「明日、カントーを発つ!」


先日家族に誘われて行った旅行先のイッシュで私は運命的な出会いをしてしまった。イッシュのライモンシティの地下にあるバトルサブウェイ。
遊園地に行ってしまった家族をよそに暇潰しと思いバトルサブウェイに挑戦したのが私の運命を変えたのだ。
見たことのないイッシュのポケモン、強い乗客者、駅員、そして"サブウェイマスター"

サブウェイマスターの2人に挑戦して私の世界は広がった。私が目指すべきはバッジを全部集める事でも、グリーンに勝つことでもない。
自分自身が納得する生き方を私はしたいのだ。


「なんで…そんな急なんだよ…!」

「いやぁ、色々と地方に回って挨拶済ませて来たら時間無くて…」

「俺のジムバッジはどうするんだよ」

「また挑戦には行くよ?強くなって絶対にグリーンを倒すよ!」

「…………て…のか…」

「グリーン?」

「俺をっ…置いていくのかよ!!お前もっ!!」


胸倉を思いっきり掴まれて、グリーンの顔がすぐ近くに感じられる距離になった
彼は悲しそうな顔して、でも時折怒りに満ちた顔をしている。
大きくため息をつくと、グリーンは唇を噛み締めて諦めたように私から手を離した。


「…………あっちでも元気でな」

「グ、リーン…」

「明日の出発は何時だ?」

「…9時にはカントーを発つよ」

「また顔見せるわ……今日はこの用件だけだろ?……じゃあな」


それだけ言い残すとグリーンは私の顔を見ずにジムの奥へと下がってしまった。彼があんなに悲しそうなのも、怒ったのも私は今日初めて見た









「じゃ、気をつけるのよ」

父や母、それに今まで出逢った多くの人が私に別れを告げに来てくれた
イッシュに行けばもう殆どカントーには帰って来れないだろう

「みんなありがとう。私、ちゃんと勉強してバトルの腕も磨いてバトルサブウェイに就職出来るように頑張る!」

私の第二の人生の始まりだ。夢を叶えてみせる…、自分の納得のいく未来を自分自身でつくってみせる!


「(…グリーン、来なかったな)」


辺りを見渡しても彼の特徴的なウニ頭はどこにも見られなかった…
私は彼を幻滅させてしまったのだろうか。バッジ集めを途中で投げ出す最低な奴だと思っただろうか。


「じゃ、行くね」


ボールの中からムクホークを出し背中に乗り、みんなに最後の別れを告げる。さよならカントー。私の始まりのすべてをくれた故郷
さよなら、最後まで勝てなかったトキワのジムリーダー


ムクホークの背中に乗り空へと旅立った。


だんだん人が見えなくなり名残惜しいカントーの街中を見ながら飛行していたら後ろから声が聞こえてきた


「っ…お…!…い!」

「…え、何あれ」


ピジョットに乗った誰かが私を追いかけてくる
ああ、あのウニ頭は間違いない…


「グリーンっ!」

「おい!っ待てよこのブスっ!」

「なっ、見送りにも来なかったくせに何よ!」

「うるせー!人前じゃ言えなかったんだよ」

「……何をよ?」


するとグリーンはポケットの中からモンスターボールを取り出し私へと投げた。


「これ、何?」

「ヒトカゲだ。お前、炎タイプ殆ど持ってないって言ってただろ……だからやる」

「うっそー!ありがとう!すっごく嬉しいよ、ありがとうグリーン」

「……俺は待ってるから」

「えっ?」

「お前が俺からバッジを奪えるまで待っといてやる」

「……グリーン」

「だからお前も強くなれ。何かに負けそうになったら帰ってこい、いつでもジム戦やってやる」


涙が出そうだった。
負け続けているくせに、それを放棄して逃げる私に彼は待っててくれると言うのだ


「ぐりぃぃん!あ、りがと…っうぅ…」

「お、お前っ…泣くなよ!もっとブサイクになるぞ!」

「ゔっうるさいっ!だっ、だってグリーン…がぁ…」


彼は私の隣に来ると、そっと涙を拭ってくれた。
ありがとう、と言えば照れたように顔を背けて「うっせ…ブサイク…」……今日だけは暴言を許してやる

「じゃ、私…行くね」

「ん…頑張れよ」

「私強くなって必ずグリーンを倒すから!」

「おう、いつでも返り討ちにしてやる」


グリーンと離れ私は再びカントーの空へと飛び立った


「名前ーー!!」

「なぁーにぃー!?」



グリーンは大きな声で私を呼ぶ。彼と私の距離はもう既に大きく開いていて声がよく聞き取れない


「俺ー!ずっとお前のことー!」


「"     "」




彼の最後の言葉は私には届かなかった。












**


「っはぁーめんどくせえなぁ…」

「左に同じく」

「まぁまぁ二人共…せっかくの機会じゃないか」

俺は今、イッシュに来ている。観光も兼ねてイッシュのジムの視察に行ってこい、と言う上司からの命令で

勿論俺はイッシュに来るのは今日が初めてだ。
各自別れてジムへ視察に行くのだが何故か俺らは元々このライモンジムに割り当てられていた

俺の他にもデンジやマツバさん、なんかがライモンジムへと割り当てられていた


「しかも視察だけじゃなかったのかよ!?何で公開バトルまでするんだよ!」

「あら、仕方ないじゃない上からの御命令だもの」


ここのジムリーダー、カミツレはジムリーダー兼モデルとして有名らしく公開バトルにはとんでもない数の観客が来た

カミツレとデンジは元々知り合いだったらしく何度かモデルの手伝いをするようカミツレに頼まれたらしい。
まぁ、俺も全くコイツを知らないって訳ではなかった。名前からの手紙にはよくコイツの名前が出てきていた


「(ま、手紙も最初のうちだけで今は全然寄越さねえもんな…アイツ)」

「私だって早く終わらせたいわよ。今日は久しぶりに友人と遊ぶ約束があったのに」

「……は?」

「そうそう!グリーンくんてカントー出身よね?私の友人もなの」

「…そのカントー出身の友人と今日会うのか?」

「ええ、彼女も忙しくてなかなか時間取れないから久しぶりなの」

「…変な事聞くがそいつの名前は?」

「…名前よ?あら、もしかして知り合い?今ジムに向かってるのよ。後で紹介するわ」


紹介なんていらねぇ。それに知り合いどころじゃねぇよ…因縁の相手だ

イッシュに来たついでに会おうかと思ったがまさかあっちから来てるとは今日は運がいいな


「ああ、是非会ってみたい。紹介してくれ」



久々にワクワクしてきたぜ





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