「名前おはようございます」

「お、おはようございますインゴさん。あとエメットさん」

「おはよー、ふああ、インゴォ…ボクまだ眠い」


あの嵐のような出来事から数日。インゴさんが以前より真面目になった。
朝、駅のホームの掃除には必ず参加しなかったインゴさんがエメットさんを引き連れて早朝から出勤している。今日の午後あたりギアステに槍が降りそうだな。


「名前そこの床のゴミを舐めとりなさい」

「いやいやいや!おかしいでしょ!?舐め取りませんよ!ゴミは拾うんですよ!」

「チッ、役立たずな犬ですね」


前言撤回。真面目になってません。早朝出勤は偶然でした。神様、ギアステに槍は降らせなくて良いから目の前のこの金髪上司に槍を降らせて下さい。

インゴさんとは嵐のような出来事から気まずくなるかと思ったけど、そんなシリアスになる雰囲気は皆無で少しだけ安心した。

「(やっぱりこの関係が一番だよね…)」

インゴさんの後ろ姿を見つめる、大分このギアステにも慣れたようでノボリさんやクダリさん以外の人とも会話をしている姿を度々見かけるようになった。
その姿を見て私は少しだけホッとする。研修に期限があるとは言え思い出は作って帰って貰いたい。…研修が終わったら、そしたら…そしたら私もインゴさんの中ではきっと日本での思い出の一部になる。
自分で考えていながら、胸の奥が何故だかモヤモヤしてきた。でもそんなモヤモヤはノボリさんの場内アナウンスによる掃除終了と同時に頭の中から消えてしまった。






**


「あ、それカミツレちゃんじゃないですか」

「カミツレ?誰ですかそのヒレカツみたいな名前は」

「…カミツレちゃんと全国のカミツレちゃんファンに謝って下さい」

「冗談です。知っていますよ、ライモンシティのジムリーダーの方でしょう。それでこのカミツレがどうしたと言うのですか…」


午前の勤務が割と早めに終わったので休憩室で長めのお昼を過ごそうかと思っていたらそこには先客のインゴさんが居た。
思うんだが、休憩時間のインゴさん遭遇率が異常な気がする。

まぁ、そこから今の話題になったのはインゴさんが読んでいた雑誌の表紙がカミツレちゃんだった事から始まった。


「本当はもっと早くインゴさんに言わなきゃならなかったんですけど、カミツレちゃんなんですよ!私が休日に会う予定だった人」

「はい…?」

「インゴさんが勘違いしたせいでそこから嵐のような出来事になっちゃいましたけどっ!」


そうだ…元はそこから始まった。久しぶりの休日をインゴさんに誘われたが先約がある、と断ったらインゴさんが勘違いして…あの嵐のような事件が起こってしまった。

インゴさんは「ほぉ、そうでしたか」と一言。え?それだけなの?
謝罪なんか期待してなかったけど案の定、謝罪は無かった。分かってたけどね!


「そうですかこの女と…」

「カミツレちゃん凄く美人で綺麗な人なんですよ!」

「…ワタクシはどんな他の犬よりも自分の飼っている犬が一番、だと思っていますがね」

「…は?」

「さてワタクシはお前みたいに暇では無いのでこれで失礼致します。では明日、楽しんで」

「は、はぁ…ありがとうございます。頑張って下さい…」


インゴさんなんで急に犬の話ししたんだろう。それに意外だったなぁ、インゴさんて犬飼ってたんだ…。そんなに可愛い愛犬なのかな…今度見せて貰おう。
それにしてもインゴさんに言われるまですっかり忘れていたが、明日は久しぶりの休日だ。


(明日は久しぶりにカミツレちゃんに会えるし!楽しまないと!)

そう思うと午後からの仕事も頑張れそうだ。










**



「え、仕事の延長?」

『そうなのよ、待たせてごめんね。まだジムから出れ無くって…』

「ジムなら近いから私が直接ジムに向かうよ!」

『そう?本当にごめんね。着きそうになったらまた連絡してくれる?ジムの子に部屋を案内させるわ』

「うん、分かった!仕事は大丈夫?」

『なんとかね…』

「何の仕事なの?」

『それが…今地方のジムリーダーが何人か視察に来ててそれの相手をしなくちゃいけないのよ』

「へーそうなんだ…」

『そう言えばさっき名前の故郷のジムリーダーもいたような…あっ!っ、ごめんね、呼ばれたらしいわ。それじゃ、また電話頂戴ね名前!』


ツーツーツーツー

勢い良く電話が切られ、ライブキャスターの待ち受け画面が表示された。

久しぶりの休日を貰った私はライブキャスター片手に佇んでいた。本日の予定は12時にカミツレちゃんと合流してランチしながら行きたい所を考えるという凄くシンプルな物だった。だがあくまで予定。
現在の時刻は12時30分。カミツレちゃんから電話が来たのはその2分前だった。なんでも急に仕事が入ってきたらしくジムから出れない状況らしい。

こんな事は何回も体験しているから慣れたものだ。カミツレちゃんと遊ぶ予定を立てると何故かいつもどちらかに仕事や用事が入ってしまう。


「とりあえず、ジムは近いし歩いて行くかな」


本日の待ち合わせはバトルサブウェイ入口
まぁ、基本的地下鉄のみんなは行きと帰りとお昼くらいしか外には出ないので別に目撃される必要もない。それにカミツレちゃんがジムから来るのは分かっていたから、ジムから近い場所を選んだ。結局揃わなかったけどね

…それはそうと今日の街中はやけに女の人が多いな
ジムへの道を歩いていると、すれ違う人はみんな女の人ばかり。小さい子から大人の人まで
そして何人かの子は団扇やペンライトを持っている。


「(今日何かあったかな…?何かのアイドルが来るとか?)」


最近では団扇やペンライトを持ち歩いてる人を見ても動じなくなった。
カミツレちゃんのファッションショーを見に行った時もこんな感じの人がいっぱいいたし、なによりノボリさんやクダリさんのファンで見慣れてしまった。


『本当に格好良かったぁ…』

『だよね!まさかイッシュで見れるなんて…わざわざカントーやジョウトに行く手間が省けたわぁ』


カントー?ジョウト?
カントーから誰か来ているのだろうか。横を通り過ぎていく女性達からまさか自分の故郷の話しが出るとは思わず、失礼ながら少し盗み聞きしてしまった


『あのシンオウからの人も格好良かったけど…』

『そうねーでもやっぱり…』


『『グリーン様が一番素敵よね!!』』


「ぶふっ」


女の子2人が口を合わせて出した名前に思わず吹き出してしまった。
吹き出してごめんなさい。だから、そんな可哀想な人を見る目で私を見ないでください

女の子達は露骨に嫌そうな顔をして私の横を歩き去ってしまった


「(それにしても、なんでグリーンがこっちに来てるんだろう…)」


グリーンは故郷の知り合いだが、アイツには嫌な思い出しかないから出来れば会いたくないなぁ…

歩きながら考え事してたらもうライモンジムの目の前に着いていた………はずなんだけど


「なに、これ…」


本来ライモンジムの入口が見えるであろう場所に女の子達の人集りが出来ていて入口すら見えない


「まさか…ね…」


自分の頭の中で考えていた最悪の予想が今まさに的中しそうで怖かった




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -