ロッカーの扉を開ければ今日もそこは紙屑の山だった。バラバラと落ちる手紙や紙切れを一枚一枚拾ってゆく。宛先は見ない。見なくても分かるから

「名前っち!」
「……黄瀬」

教室のドアからひょこっと現れた人物に溜め息をついた。黄瀬はニコニコしながら私に近づき手紙の一枚を取り、自らの唇に近づける。軽くキスをしてまた私に差し出した。いらねえよ

「今日も読んでくれたっスか?俺昨日頑張ったんスよ〜寝ないで書いたんスよ?」
「ロッカーの中にあった私の体操服が無いんだけど、知らない?」

黄瀬の話しを聞かずに質問をする。ここ1ヶ月何かがおかしいと思っていた。体操服が無くなったりロッカーに大量の手紙が入っていたり、家に無言電話が来たり…。
その犯人はまぁ、まさしく今私の目の前に居る黄瀬涼太なのだけれども。しかも私に気づかれていると知っていながら奴はこんなストーカーまがいの行動を止めない。むしろ楽しんでいる。

「名前っち、柔軟剤変えたんスか?この間と匂いが全然違ったよ?」
「黄瀬…本当やめてよ。黄瀬可笑しいよ!私じゃなくても可愛い子はいっぱいいるじゃん!!」「名前っち…」

黄瀬の目は冷め切っていた。意識の無いような、それでいてどこか楽しそうな、暗い瞳をしてる。途端に腕を掴まれ、彼の腕の中へとすっぽりと埋まってしまった。

「名前っち本当可愛い…」
「や、やだ…やめて!」
「俺、本当に名前っちのこと好きなんスよ。愛してるんスよ…」
「…んっ…むぅ」

突然唇を重ねられる。黄瀬のキスは乱暴でいてどこか優しい。腰をがっちりと腕で固定され身動きが出来ない。その間にも黄瀬の舌が私の口内へと侵入してくる。
舌をねじ込み歯列をなぞり私の舌をも絡ませる。
唇が離れたかと思えば黄瀬の手は制服の上を這い、手早くボタンを外してゆく。やばい、このままじゃ本当に、喰われる。

「ふふ、名前っちの香り…やっぱいいっスね」
「いっ…きもい!離して!」
「名前っちは女の子がいいっスか?それとも男の子?」
「な、に、言って、んの?」
「俺頑張るっスよ?名前っちが可愛い赤ちゃん生めるように」

黄瀬の頭にはきっと悪気などない、寧ろこの状況を喜んでいる。本当に新しい命を待ち望む夫婦のような会話を私に投げかけてくる。
―…駄目だ。黄瀬からはもう逃げられない。
混乱であまり機能しない脳味噌でも、この事だけは確信に思えた。

「名前っちは俺だけのものっスよね?一生離さないっスよ……俺の可愛い名前」

再び唇を重ねる。頬に流れる名前の涙にきっと黄瀬は気づかないのだ。


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