*恋愛要素ナシ 少しだけグロ注意



だだっ広い真っ白な部屋の中央に置かれた真っ白く細長い机。その端と端に彼と私が座っている。机は長く、彼との距離は遠い。声が届くか届かないかくらいの距離に彼は優雅に座っていた。真っ白な机に真っ白な部屋が彼の髪の赤を異常なまでに目立たせていた。

「食べないのか」

赤司くんが少し大きめの声で私に問う。机の上には白い皿の上に白いナニかが乗っていた。ナニかが私には理解ができずにいた。ワイングラスに入っている赤い飲み物を一口飲むと、あまり美味しいとは言えない独特な味だった。でも何処かで飲んだことのある、いや多分、嗅いだことのある何か独特の香りがした。

「お腹、減ってない」
「そうか」
「赤司くん」

小さく呟いた彼の名前は、端にいる彼には届かなかったようで返答がない。彼は私にも聞こえる大きさで「勿体無いな、すごく美味しいのに」と呟いた。そしてナイフとフォークを巧みに使い白いナニかを口に運ぶ。この白いナニかはナイフで切るときや咀嚼するときに異常な音がする。せんべいをかじるような、いやもっと固そうななにかを食べるときのバリバリとかボリボリとかそんな感じの音。

「ねぇ、名前。自分には無い力を欲しいと思った時、キミはどのように力を手に入れる?」
「…わ、からない」
「じゃあ、そうだな。大切なものをどうしても自分の手から逃したく無いときは?」
「多分、わからないけど、自分の中へと閉じ込めちゃう、かも」
「いい答えだ」

赤司くんは少し笑い、ワイングラスを口に運ぶ。赤司くんが飲み終わったワイングラスを口から離すと口にべっとりと飲み物が付着していた。もしかしてと思い自らの唇に手を当てると案の定、先程わたしも飲んだ際に付着していたらしい。
小さく手で拭うと今度は手に、ベチャリと付着した。なんだこれ、気持ち悪い。


「僕はね、寂しいんだ」
「なにが」
「僕から人が離れてゆくことが、さ」

だから良いことを思いついたんだ、と赤司くんが頬を緩ませながら語る。いっそすべて僕のものにしてしまえばいいんだ、とね。微笑んだ唇はやけに赤く生々しい。なんだか変な空気に耐えられずワイングラスを口に運ぶ。そこでようやく気づいた、これ鉄の匂いだ。何処かで嗅いだことがあるというのは、多分血が出たときに香る独特の香り。うっすら鉄の臭いと味がする血に、この飲み物は似ている。


「美味しいだろう?名前のは、たしか涼太のやつだ」
「え…な、にを、言ってる、の…」
「僕のは真太郎のだ。少し甘みがあるからすぐに分かったよ」

赤司の言葉が理解出来ず混乱した私はもう一度ワイングラスへと手を伸ばし中身の赤い飲み物を確認する。指で掬って舐めてみると口の中に鉄のような味が広がる。これ、まさか、本当に…。

「…涼太くんの、血なの?」
「そうだよ。涼太のも美味いだろう」
「じゃあ、その、皿の上の、赤司くんがいま食べたのは?」

聞かずとも理解出来てしまった。理解してしまった。私と彼の目の前に置かれている食べ物は、骨だ。

「僕のは、大輝だよ。大輝はなかなかの絶品だよ」
「名前のは確か…ああ、そうだ。テツヤのだよ。」
「……テツヤくん?」

大好きな私の愛しい彼がいま、骨の状態でディナーとして、私の目の前にいる。
吐き気が襲い、私はその場で嘔吐した。口の中からは赤い血液が出てくる。私に優しくしてくれた、涼太くんの、血。

「愛こそは捕食だよ、名前」

彼はもう取り返しがつかないところまできてしまっている。ニコリ、微笑む赤司くんに私は大きく身震いをした。

「どうかな、キセキのお味は」