山口くん家の賢二くんはある女性に絶賛片想い中である。

「賢二くんさぁ…もうちょっと学習しなよ」
「何がだ。俺は間違ったことなんかしてねーよ。あの女が鈍いだけだ」

お隣に住む山口くん家の賢二くんとは幼なじみで随分と長い付き合いになる。お金も美貌も権力もすべて持っている彼にも手に入れられないものがあるらしい。それはまさに恋心というヤツで…まさかあんなにプライドの高い賢二くんが人に惚れて、こんなにも頭を悩ませる日が来るなんて考えもしなかった。

「…水谷さんだっけ。あの人いつもいる男の人が彼氏じゃないの?」
「まだ、付き合ってねーよ」
「それじゃあこれから付き合うのかもね。ご愁傷様、賢二くん」
「テメェどっちの味方だよ」
「どっちの味方でも無いよ。だってそれは賢二くんと水谷さんと水谷さんの彼氏さんの問題でしょう?」

ばっさりと切り捨てた私に賢二くんは溜め息をついた。止めてくれ、溜め息つきたいのはこっちの方だ。毎回呼び出されるたびに水谷さんの話しを聞かされて、改善策なんて考えたって結局は賢二くんの変なプライドによって上手くいかないの繰り返しだ。もっと素直になればいいのに…なーんて。思ってもないけどね

「水谷さんのさ……あ、やっぱり良いや止めとく」
「なんだよ水谷サンが何だって?言いかけて止めんなよ」
「大したことじゃない。人を好きになるのに理由なんていらないって思い出しただけ」

"水谷さんのどこが良かったの"なんてこの場に居ない水谷さんにあまりに失礼だと思ったし、聞いたところで傷つくのは自分だけなので止めた。いつも私は彼女と自分を比較してしまう。
以前私と賢二くんが一緒に居るときに水谷さんに遭遇した事があった。顔立ちは綺麗だったし、性格はなんかクールビューティみたいな感じで私とは正反対だと感じた。

そして彼女と私の一番違うところは、賢二くんの接し方だった。端から見ればいつも通りだったのかもしれないけれど、でも私はすぐに気が付いた。逆ナンや今まで遊びで付き合っていた子とはまるで違う態度、私には向けられない好意の眼差し。賢二くんは水谷さんのことがとても好きなんだと理解した

「賢二くんにはもう少し周りを見てみることをオススメするよ」
「周りにはいねーんだよ。水谷さんみたいな人」
「嘘つき。水谷さんみたいな人が居ても、水谷さん本人が良いくせに」
「……うるせ」

彼はたまに素直すぎて私を傷つける。私の方が彼と昔から一緒なのに…私の方が彼を良く知っているのに…私の方が彼を幸せにしてあげられるのに。近いようで遠い彼との距離が私にはとても辛い。
賢二くん、私という人間は賢二くんが思っている程良い人間じゃないんだよ?こうやって水谷さんの話しを聞かされる度に居ない水谷さんに嫉妬して、心のどっかで早く賢二くんが振られれば良いのにって思ってる。悪い人間なんだから

「こんなに良い女が近くに居るっていうのにね」

彼に聞こえないよう、そっと呟いた。でもね賢二くん、私は諦めの悪い女だからさいつか絶対キミを振り向かせてみせるよ

「見てろよ、バーカ」