「山口君ちょっと良いかな」
昼休みの教室、昼御飯も食べ終わり窓から射し込む陽射しでほんの少しの日光浴を楽しんでいた時のことだった。俺に話しかけてきたのはクラスでも1、2位を争う程の人気ぶりを誇る女子で実は俺も「可愛いよなぁ」と思っていた子だ。今日はラッキーな日だ

「なっ、なに?」
「あの…月島くんは?」
「ツッキーなら今自販機行ったよ!飲み物買いに!」
「そっか…あのね山口くん」
「う、うん」

少し頬を赤らめて手を前に組む仕草は実に可愛らしく、女子らしい。一方で俺は緊張感が頂点を迎えており自らの心臓の音が聞こえてしまうのでは無いかと思うくらい心臓は鳴り止まない。

(こ、告白とかだったらどうしようかな〜)
「あのね、月島くんの好みのタイプとか知ってたら教えて欲しいんだけど…」
「……え?」
「月島くんまだ彼女居ないよね?山口くんいつも月島くんといるしなんか知ってたらで良いんだけど…」

ああ、やっぱりか。少しでも期待した俺が馬鹿だったよ。期待していた心は一気に現実へと戻された。目の前にいる彼女は恥ずかしそうに答えを待っている、まさに恋する乙女である。
入学して数ヶ月こんな機会に遭遇したのは初めてではない。可愛い子や美人の子が話しかけてきたときは大抵ツッキーのことを聞かれる。彼女はいるのとか、タイプの女性は、とか。そんなの自分で聞けば良いのに…と思ったがもう慣れてしまえばそれさえも感じなくなってきた。そして今日もいつも通り、今までみんなに言ってきた通りに彼女に答える

「ごめんね、ツッキーとはそういう話ししないんだ!俺も分かんない…でも彼女は居ないと思う」
「そっか…ありがとう」

彼女は残念そうに女子のグループへと戻っていった。その後ろ姿は心なしか寂しげに見えたが、俺も本当の事しか言ってないので仕方がない。ツッキーはそんな浮ついた話しには興味が無いらしく可愛い子がいても「興味ない」とか「知らない」の一点張りで好きな子どころか、好きなタイプだって分からない。勿体ないよなぁ…モテるのにさ!

「ぷっ…!」

小さく押さえ気味の笑い声が聞こえ目線を上げれば前の席で肩を震わせながら笑いを我慢する名字さんの姿があった。
彼女はツッキー曰わく「烏野一不可解な女」らしい。彼女が前の席になってから言葉を交わしたことは一度も無い。彼女は他の女子達とは違い一人で行動することが多い。
周りからは美人なのに性格がおかしい、とまで言われていたような気がする。

「山口くんって本当に損な性格よね」
「いっいきなりなんだよ」
「月島なんかと一緒に居なきゃ良いのに。みんな月島のことばかり貴方に聞いて失礼だよね」
「いや…俺は別に…」
「山口くんの方がとても魅力的なのに」

フ、と笑う彼女に思わず視線を奪われる。なんというか…凄く綺麗だ。可愛いとかそんな感じじゃなくて触れたら壊れそうなそんな感じ。ていうか今名字さんなんて言った?俺が魅力的?え…どういう意味で?

「私、地味専なの」
「ジミセン?」
「地味専門。目立つ人よりその影でひっそりしているような地味な人が好きなの」
「は、はぁ」
「だから私山口くんのこと好き」

褒められているのか、けなされているのか分からない言葉に素直に喜べなかった。それに名字さん今俺のこと好きって…え?あれ?好き?好き!!??え名字さん今俺に好きって言ったよね!

「そ、それはどういう意味で?」
「うーん…性的な意味で!」
「ハアア!!??」
「私、山口くんのこと好き。どんなに地味な男の子よりも目立たない山口くんがいい」

どういう反応をして良いか分からず、取り敢えず「ありがとう」と言ってみた。彼女はにっこりと笑いまた前の席へと身体を戻した。
ツッキーの言うとおり彼女は「烏野一不可解な女の子」である。

でも、たった今、名字さんは俺のなかで「烏野一可愛い人」に昇格したところだ。