「王よ、おふざけも大概にして下さい」

これはきっといつもの王のおふざけに違いない。そう心の中で何回も復唱した。そして平然を装うかのように王としての扱いで彼を拒んだ。
わずか数センチの距離にある逞しい胸板に手を置いて少し距離を取る。その行動にシンドバッドは眉間に皺を寄せた。壁に追い詰めた彼女はあたかも平然を装っている。その余裕な態度がシンドバッドを更に苛立たせた。

「名前二人の時はその口調を止めろと言っているだろう」
「…何を仰います王よ。わたくしは貴方様の部下です。王こそ早くわたくしを解放して下さい」
「止めろ、名前。これは命令だ」

随分乱暴な命令だ。そう溜め息混じりで呟いた。だが以前状況は変わらずシンドバッドは名前を壁へと追い詰めたまま動かない。息が詰まりそうになる空間に音は全く無く、どことなく誰かに見られてはないかと不安になる。シンドバッドの指が優しく唇を撫でた。彼がキスする前に必ずする癖である。

「駄目、です」
「名前…」
「シンは、ずるい、です」

平然を装っていた態度が今にも崩れそうになる。シンがあんなに寂しそうな声で私を呼ぶから。
名前はもう一度シンドバッドの胸板を強く押した。距離を、距離を取らねばこの空気に流されてしまう。彼はきっとこんな空気になることを狙っていたのだろう。下に俯き彼と目を合わせないようにした。合わせたが最後、きっと互いの唇は重なる。それだけは避けたかった。

「やめて、下さい。シン…私の気持ちは、分かっているでしょう?」
「ああ、充分に理解しているつもりさ。だがそれで俺が引き下がるとでも思ったか?」

両腕を掴まれ壁へと押さえつけられる。今度こそ逃げられない。

「シ、ンやめて…」
「すまないな名前。生憎俺は人の物程欲しくなってしまう性なんだ」
「っ…ジャーファル…」
「残念だったな、名前。ジャーファルは外交へと行っていて此処には居ないぞ」

さぁ、諦めて身を委ねてしまいなさい。まるでシンドバッドの目はそう語っているようだ。両腕を解放されると同時に腰を掴まれ密着する状態となった。時が止まるようなゆっくりとした時間だった。名前もすべてを諦めシンドバッドへとその身を委ねた。

やっと、手に入れた