「朝からぶっさいくな顔してるねお嬢様」

ドカっと大きめのエナメルバックをぶつけられ私は盛大に地面へと転がった。
咄嗟に片手で体制を整えなければ危うく地面とキスするところだった…危ねぇ!!

「テメェ、月島ァ朝から良い度胸してんじゃんか」
「あはは…制服土だらけですよ、お嬢様?」
「お嬢様って言うなァ!!!この陰険メガネ!!」

月島蛍とは中学時代からの天敵で、私が消したくてたまらない暗黒の中学時代を知る数少ない人物である。中学時代もある事をネタに散々こき使われてきてやっと解放され、いざ高校デビューしようと思ったらこれだ…まさか同じ高校だなんて信じたくもない。

「あ、髪型変えた?似合ってないね」
「うるさい!!お前には関係ない!!てか周りに人が居るんだからあんまり話し掛けないでくれる?」
「そんなにお嬢様って知られるのが怖いんだ。高校デビューなんかしちゃって似合わないのに」

中学時代、喧嘩っ早い私は凄く荒れていた。近くにあった中学の不良グループをたった一人で壊滅させたり、襲われてる女の子助けるために大人と喧嘩したり…まぁ手っ取り早く言えば元ヤンだった。そんな私にも唯一の癒やしがあって、みんなには隠していたけどロリータファションに身を包み、化粧をしてお茶会なんかをすることが私の唯一の救いだった。
だがある日、街中で偶然にも月島と遭遇し一発で私だとバレてしまった。化粧してたのに…!その秘密を知られてからというもの月島は私の事を「お嬢様」と呼ぶようになった。
その日から私の中学校生活は最悪な奴隷人生へと変わっていった。

「だいたい高校デビューなんて、出来るわけないデショ。元が悪いんだから変われるわけないだろ」
「うっさい!!蛍ちゃんのくせによォ!!どーせ、またショートケーキばっか食ってるくせに!女々しい奴め…」
「別に?何か悪い?」
「うッ…うるさい!!兎に角もう私に関わんないでよね。私は高校デビューしてイケメンの彼氏をゲットするんだから!!」

それに、あんたと喋ると私が口悪いのバレるから!もう喋り掛けないでくれる?と付け加えてベェ、と舌を出してやった。
なんの反応も示さない月島をほっといて歩いて行こうとした時、急に腕を引かれ月島にもたれ掛かる体制となってしまった。怒りをぶつけようと後ろを振り返ると間近に月島の顔面とご対面。

「ちょ、なんのつも…」
「名前…意地なんか張っちゃって。僕が居なかったら寂しいくせに」

耳元に低い声で呟き、そのまま耳朶をパクリと食われた。
足に力が入らずそのまま転びそうになったが月島が咄嗟に腕を掴み腰に手を回す。暫く何が起きたのか分からなかったが、思い出した時には恥ずかしくて顔をあげれなかった。ていうか死にたくなった。上から見下す月島は余裕の表情で勝ち誇ったように微笑んだ

「これで悪い虫が付かなきゃいいけどね、お嬢様?」

優しく地面へと降ろされ月島は一人校舎へと去っていった。取り残された私は地面へと座りこみ未だ状況が掴めずにいたが、先程の月島の行動と言動を思い出し一人校庭の中心にて顔を赤くして頭を抱えていた。

翌日、学校へ行くと昨日の月島の行動により周りの人々が私と月島が付き合っていると思い込み、朝から祝福の声ばかり掛けられた。その後、何故か私と月島は学校公認カップルとなってしまった。

「……わ、私の輝かしい高校生活が」
「名前、今日から一緒帰る?ホラ僕ら学校公認カップルだし」
「おのれ名前!なんでお前がツッキーなんかと!」
「もう…どうにでもなってしまえ」

私の憧れていた晴れやかな高校生活も今日で終わり。苦悩な生活第2ラウンドが密かに幕開けしたのだった。