例えばこの世界が僕と君の二人だけだとしたらどうする?
夕暮れの陽射しが差し込む部室の中で彼は突然そう質問した。黙って下から彼を見上げてみれば陽射しによって反射された赤い髪が気持ち悪い程に綺麗だった。赤司は答えを待ち望むかのように期待の眼差しを私に向ける。
だけど生憎私にはその質問には答えられない。何故ならそんな世界はどうやっても創り出せないから。それに存在もしない妄想を語るなど赤司らしくない。

「生憎私は非現実的な世界には興味が無いから答えられない。それに赤司が一番嫌いでしょ、そんなありもしない妄想の話し」
「そうだね。だがそこが楽しいじゃないか。妄想だからこそ色々な意見が聞けるだろう?」

だから君の意見が聞きたいな。そう諭す赤司に名前は嫌そうに眉を潜めた。赤司と二人の世界?アリエナイ、馬鹿馬鹿しい。そんなの子孫を残すことも無く地球は世界は滅亡する。うん、我ながら良い回答だわ
だがその回答に赤司は顔を歪ませる。納得いかない、といった表情だろうか。彼は私の腕を取り「君は冷たい人だな」と呟く。手が?いやそれとも心がだろうか

「赤司、何度も言うけど私は貴方といる世界は想像できない。」
「僕と君が世界で二人だけになったとしてもかい?」
「そうね、貴方との間に愛は生まれそうにないわ」

赤司に握られていた手を振り払い、冷たくあしらう。でも赤司はそんな事でさえも嬉しそうに微笑むのだ。早く此処から居なくなりたい。書き掛けの部活動記録を閉じて名前は早急に此処を立ち去ろうとする。だがドアの前に赤司が立ちはだかり逃げる事は失敗となった。

「赤司…いい加減にして。彼を待たせているの」
「アイツと僕はそんなにも違うかい?」
「違うわ。赤司に無いものを大輝は持ってる。私はそこに惚れたの。お願いだから私の事は諦めて」

赤司が私に恋愛的感情を持っていてくれる事は嬉しい。だが私には恋人がいる。私の中ではどう足掻いても赤司征十郎に青峰大輝は越えられない。昔、私がそう告げた事があった。だが赤司は何度もめげずに告白紛いの言葉だったり手紙を送りつけた。私は正直赤司が怖い。こんなにも一つのものに執着する赤司は見たことがないからだろう。

「僕は手に入らないものほど欲する。だからどんな形であれそれは手に入れる」
「……赤司いい加減に」
「残念だよ、名前。君が今回の質問で僕と二人で生き続けると答えてくれなかったから…もうこの方法しか無いんだ」

赤司はブツブツとぼやきながらポケットから何かを取り出した。それは光に反射して見えない。恐ろしくなった名前は一歩一歩と赤司と距離を取るが彼の腕が私を捕まえた。
赤司はにこりと薄気味悪く笑うのだ。これでもう名前は僕のものだね。惚れ惚れした様子で頭を撫で頬を撫でスルスルと掌が下へ下へと降りてゆく。最後に到達したのは喉の部分で。愛おしそうな表情で赤司が私を見つめる。赤司の瞳に輝いた色は無く、暗く濁ったような色をしていた。
間近で赤司の顔を見てああ、赤司ってこんな顔してたんだと思う。

私の目に最後に写ったのは彼の振りかざした銀色と真っ赤な血飛沫だった。



赤い断末魔