ふと目が覚めると一面の花畑けに囲まれていました。 いつの間にか寝てしまっていたようです。いつもコートの下に身に着けているシャツとスラックスだけの格好でした。 よく見れば何故か全身土まみれのようです。いけません、名前に触れる前に落とさなくてわ 「名前?」 そういえば名前は何処でしょうか。わたくしすっかり寝てしまって居たために見失ってしまいました。 「名前、名前?」 周りを見渡せば花畑の前にはわたくしと名前が住む自宅がありました。改めて自分のいる場所を確認するとそこは広い広い自宅の庭であり、名前が毎日手入れを怠らず育てた花畑でした。 「っ、いけません…!わたくしなんて事を…」 花を下敷きに寝ていたなんて…名前が大事に育てた花達ですのに。 花を一輪取ってみると花は既に枯れていました。よく見れば花畑には生き生きとした花は一輪もありません。 はて…何故でしょう。名前は毎日手入れしていましたのに。 「名前、どこに行ってしまわれたのですか?出てきて下さいまし」 わたくしの可愛い名前、わたくしの愛おしい名前、わたくしの自慢の名前。 わたくし達はお互い愛し合い結婚致しました。名前は元々わたくしの部下でよく出来る人でした。次第にわたくし達は惹かれ合い、名前はわたくしの妻となりました。 名前とわたくしはずっと一緒なのです。離れるなんてもっての他。一生二人で暮らすのです。わたくしは名前を愛しているのですから。 「名前、何処で御座いますか…わたくし、わたくし、貴女様が居ないと…」 花畑をフラフラと歩き回る。ですが名前は見つかりません。 暫く歩くとある部分から何故が花畑が崩され、掘り返されたように土だらけの場所がありました。 何かに取り憑かれたようにわたくしの足はその場所を進み始めました。 進むに連れて花畑は無惨にも荒らされ掘り返された跡が目立ちます。 地面には花びらと掘り返された土だけが覆い、少しだけ悲しくなりました。 「……名前?」 わたくしを導いた足はある大きな穴で止まりました。大きく掘り返された穴。近くには大きなスコップが落ちていた。 ――はて、何に使ったのでしょうか。 悩んだ時、自らの顎に手を当てる癖。違和感を感じた。わたくし、何故このような軍手をしているのでしょうか。 ノボリは自分の頭の中を巡らせ考える。 (―…わたくし、確か先程までここに居て…) 穴の中を覗き込むと、底は深く何かを埋めたように土が被っている。 「わたくし、ここに何を埋めたのでしょう」 穴の周りにはおびただしい数のハシリドコロが置かれていた。 ああ、たしかこの植物はわたくしの大好きな花だ。 ここには何もないのに、何故でしょう。わたくし、ここに居ると笑みが止まらないのです。 ノボリはにっこりと笑いを浮かべ、瞳からは大量の涙をこぼしていた。 「ああ、名前。どこに行ってしまわれたのですか」 ハシリドコロの花言葉 沈黙、殺したい程愛してる |