「七夕に誕生日って素敵だよねぇ」

なんとなく呟かれた名前の一言に緑間は目を丸くした。緑間の隣にいた高尾は緑間の表情を見て笑うのを堪える。

「くくっ…それって真ちゃんのこと言ってんのかよ」
「そうだよ!だって素敵じゃん…一年に一度しか会えない織り姫と彦星が巡り会う日に誕生日だなんて」
「…別に関係ないのだよ」
「いやなんも関係は無いけどさ…なんか良いじゃんか」

7月7日
今日は真ちゃん…もとい緑間真太郎の誕生日である。そして世間は世に言う七夕という日。
高尾と前々から今日に向けて予定をたてていた。普段から無愛想な真ちゃんが泣くくらいに嬉しい誕生日にしてやろう、と。

計画を実行すべく、部活がオフで早く帰ろうとする緑間を引き留めて軽い雑談を楽しんでいた。


「それよりもうこんな時間なのだよ。帰るぞ」
「え…今何時?」
「7時5分だ」
「やばい!高尾アレ出してアレ!」
「おっけー!名前はクラッカー準備」
「分かってるよぉ!準備万端!」
「お、おいお前等…」
「高尾ロウソク!早く、早く」
「だーもーっ!分かってるっつの」
「真ちゃん!今何分!?あ、秒数まで教えて」「7時6分30秒なのだよ…」
「よし!ほら真ちゃん座って座って」
「お、おい」
「電気消すぜ!」

机の真ん中に四角い箱を置き目の前に真ちゃんを座らせる。
高尾と私の手には既にクラッカーが準備済みである。高尾が電気を消して戻ってくる…あと5秒……

「4、3、2、1……ハッピーバースデー!真ちゃん!」
「名前、いくぜ!」
「おっけー!」
「な、お前等っ…!」

パンッパンッ
高尾と私の手から放たれたクラッカーは勢い良く音を立て中身の紙吹雪が真ちゃんへと降りかかった。
音にびっくりしたのか目を丸くする真ちゃんに不覚にも笑ってしまう。

「…ぷ、あははっ!真ちゃんなにその顔〜もうちょっと驚いてくれても良いんじゃないの」
「ったく本当だぜ!頼りになる相棒と可愛い彼女が祝ってやってんだぜ〜!?今日ぐらいデレろよな真ちゃん」
「………っ!なっ何なのだよ!ふん、こんなの少し驚いただけだ。別に嬉しくともなんともない!」
「もー相変わらずツンデレなんだから」

そういった真ちゃんの顔、真っ赤だし目が少しだけ潤んでるし。
私と高尾も席に付き、真ちゃんに目の前にある四角い箱の蓋を開けて見せた。

「…………」
「ノーリアクション?」
「可愛いっしょ?お店の人に頼んで真ちゃんの似顔絵書いて貰ったんだよ」
「似てるでしょ?」
「………似てない」
「素直じゃねーな…よしじゃあロウソク立てるから、名前ライターは?」


高尾にライターを手渡し私もロウソクをケーキに立ててゆく。
ケーキの真ん中には真ちゃんの似顔絵とお誕生日おめでとうの文字。それを囲むようにロウソクを立てライターで火を灯す。

もう一度電気を消して、誕生日の歌を歌った。正直これは本当に恥ずかしかった。自分は音痴で、高尾はやけに上手いし


「ハッピーバースデーディア、真ちゃーん」
「ハッピーバースデートゥーユー」
「さぁ!」
「真ちゃん!」
「「ロウソクを消して」」

高尾と練習したハモリを入れて、真ちゃんへとバースデーケーキを近づけた。真ちゃんは諦めた様子で小さく溜め息をついた後、大きく息を吹きかけた。


「うおー!大成功!どお?どお?真ちゃん嬉しかったっしょ?」
「……なっ、泣いてなどいないのだよ」
「自分で墓穴踏んじゃったよ…」

うっすらと浮かんでいる涙に、高尾と私は大満足だ。
真ちゃんが泣くほど嬉しい誕生日にしたかったから、これはまさに大成功と言ってもいい。
高尾と顔を見合わせて少しだけ微笑んだ。

「んじゃ感動してる真ちゃんにもう一つプレゼント」
「何だこれは…?」
「見れば分かるでしょ!短冊だよ!今日は真ちゃんの誕生日だし七夕だし!」

差し出された黄緑色の短冊を緑間はまじまじと見つめる。

「別に、願い事など無いのだよ。こんなものに頼る必要はない」
「そんな事言わないで書いてよ!」

真ちゃんを説得しようとした時に教室のドアが開き担任の先生が顔を覗かせた。
「お前達何やってんだ、もう下校時間も部活時間も過ぎてるぞ。ほら帰れ」

強制的に教室から追い出されてしまった。




「もー最悪だよ。せっかくギリギリまで居座ってやろうと思ってたのに…」
「だよなー、まぁ仕方ねぇって」
「…あ、真ちゃんと高尾今日リアカーじゃないの?」
「急いで出たから取るのを忘れたのだよ」
「ふーん。あ、真ちゃん家ついたよ」

計画が大成功といかなかったのが少し心残りだが真ちゃんが喜んでくれて泣いた姿が見れたので、とりあえずは良しとしとこう。

緑間家まで真ちゃんを送り届け、自宅へ入ろうとした真ちゃんを呼び止めた。

「これさっきの渡しそびれたやつ。私と高尾からのプレゼントだから」
「……なんだ?」

名前は小さな笹を取り出し緑間へと渡す。飾りものに出来そうなサイズの笹に、緑色のリボンと短冊が二枚だけ飾られていた。

「あ、短冊は家に入ってから見てよね!恥ずかしいから」
「じゃあ、良い誕生日を過ごせよ〜」
「ああ………き、今日は…あ、ありがとう…なのだよ」

その言葉に名前と高尾は顔を見合わせて嬉しそうに笑った。
2人が手を振りながら帰って行くのを見送り自分も自宅へと入る。
家に帰ると両親が豪華な料理を用意しており、改めて自分が今日、誕生日だという事を自覚した。

「あら真太郎、その笹はどうしたの?」
「ああ、さっき友人からもらって…」
「あらあら素敵ねー。花瓶にさしてあげるから、飾っておきなさい」

母から花瓶に入った笹を受け取る。
花瓶は必要だろうかと思いながら、それを自室へと運ぶ。机の上に置き笹に目をやる。

「(…………短冊)」

ピンクとオレンジの短冊を手に取り、書いてある文字に目を通した。

「……なっ!!」










「ねぇ、高尾ー。真ちゃん喜んでくれたかな?」
「ははっ!今頃きっと泣いて喜んでるぜ」






(真ちゃん誕生日おめでとう!愛してるよー!真ちゃんと結婚出来ますように! 名前)

(緑間ー!てか真ちゃんー!俺も愛してるよ!今年は緑間と秀徳と共に全国優勝出来ますように! 相棒の高尾)



2012 7.7
Midorima Happy Birthday