押し倒された床は冷たく、部屋の空気は凍りつくような雰囲気を醸し出していた

「つまらない」

彼は一言、そう吐き捨てた。真っ直ぐに突き刺すような視線を私に向けて。腕は固定され逃げられず、彼と目を合わさぬよう必死に顔を背ける事しか出来ない。


「なんであんな奴がいいかな」

「……った、い…よ」

「ん、なに?」

「……痛いよ、赤司くん」


赤司は床に名前を押し倒し彼女の上に馬乗りになるような体勢をとっている。
上から下にいる彼女を見下す、というのは赤司にとって何よりの興奮材料である。現に下にいる名前は涙を流し怯えるように赤司を見上げている。その恐怖は、その涙は赤司にとっては自分を興奮させてくれる煽りにすぎない。

そっと手を伸ばし名前の頬に触れる。ビクリと肩が大きく揺れたのを見て赤司はクスリ、と笑った。


「…涼太が良かった?」

「……っ!ちがっ…」

「間違ってないだろう」

赤司くんの手が私の首筋に触れた。人差し指の指先で私の首筋をなぞるとそのまま絆創膏が貼ってある位置を指で押した。

身体中から冷や汗が出てきて、全身からまずい、というオーラを漂わせた名前を横目に赤司は笑った。


「どうしたの、コレ」


赤司くんと目が合う。
ああ、駄目だ、逃げなきゃ。頭では分かっている筈なのに身体は言うことを聞かない。ピクリとも動かない。力を振り絞れば逃げられる筈なのに


「……っう!」

「そんなに"コレ"僕に隠したかったの?」


ベリッと勢い良く剥がされた絆創膏の下から赤い斑点が見えた。私の好きな人が付けてくれた、愛の印。
ああ、バレてしまった。分かってた筈なのに、赤司くんには嘘はつけないと。


「ご…ごめ、ん、なさ…」

「何で謝るの?」


赤司は名前の頬を撫で、徐々に彼女の綺麗な顔へと自分の顔を近づけた。名前の目から流れていた涙が頬を伝う、赤司はそれを器用に舐めとった。

そしてそのまま眼球を舐めようと試みたが、自分の身の危険を感じた名前が素早く目を閉じてしまった為、赤司の舌が眼球を捕らえるは無かった。


「だって君は僕のモノじゃないか」

「……え?」

「君がどう足掻いたって僕からは逃げられない」

「…っ!」

「君が涼太と両想いだって、結局最後に君が選ぶのは僕さ」


赤司が名前を優しく抱き締めた。彼の手はこんなにも優しいのに、彼自身はなぜこんなにも歪んでいるのだろうか。


「早く僕の所まで墜ちておいで」


これから先、私が誰かを愛そうと誰かを好きになろうとそれはきっと彼によって阻止されてしまうのだろう。
そうして最後は彼の所に戻ってきてしまうのだ。でもきっとそんな事も全部彼の中では計算なのだ。



(―…ああ、いっそ殺してくれれば楽なのに)



彼しか愛せないこの世界で私はいつもそれを願う。