「舐めろ」


私の目の前に突き出してきた彼の指からは血が出ていた。
私に言っているのだろうか、とオドオドと対応に困っていると彼は機嫌悪そうにため息をついた。

「ここには名前と僕しか居ないんだけど」

「…っ…ご、めんなさい」

「ん、早く」


謝罪の言葉も軽く流し彼はまた私に指を向けた。出血した血は指に垂れてきている、結構傷が深かったのだろう。


「…な、なんで?絆創膏、あるよ」

「いや良い。名前が怪我させたんだから名前が消毒してよ」

「っ…」

小さく反抗してみたがそれは呆気なく拒否されてしまった。
彼に怪我をさせてしまったのは確かに私だ。カミソリを蓋なしに放置してしまっていた私の不注意だ。


「で、も汚い、から…」

「口答えはいいから、さっさとしろ」


必死に抵抗しようとする私にイライラしてきたのか赤司くんの口調が強まる。怖い。

赤司くんはいつもそうだ。こうやって私の嫌がる事、平気でしてくる。だけど赤司くんが言うことはいつも正論だし何より威圧感に耐えられずいつも負けてしまう。
今だって私はこんなに嫌がってるのに赤司くんは楽しそう。


「早く」

「……っ……」


差し出された指を、意を決して自分の唇へと近づけたら赤司くんの指自ら私の口の中へと入ってきた。
咄嗟に頭を引こうと思ったが、赤司くんが後頭部に手を回し逃げられないようにした。


「…んぐ…っ!」

「噛んだら殺す。綺麗に舐めとれ」

「っふ、…」


命令口調の赤司くんは凄く怖い。歯をたてれば本当に殺されてしまいそうだ。私は小さく舌をだし血が出ている指を舐めた。
その瞬間に口内には鉄の味が広がった。お世辞にも美味しいとは思えない。むしろ不味い。

目に溜まっている涙が今にもこぼれそう。でも我慢しないと、きっと泣いたら怒られちゃうから。

「ん…ちゅ…ふ…」

「…ねぇ、美味しい?」

そんな質問…答えなんて分かってるくせに。彼は面白そうに私が血を舐めとる姿を見る。

「誰かが入って来たらどうしようか?今の名前の姿を見たらみんな引くだろうな」


そうだ。ここはバスケ部の部室で扉の向こうには居残りで練習している黄瀬君と青峰君、黒子君がいる。
バッシュが体育館を蹴る音や彼等の笑い声が時折部室にも聞こえてくる。

私だってこんな姿を見られるのは嫌だ。でもきっと赤司くんはこんな事も計算のうちなのだろう。私を煽るために。


「もういいよ」

「…っはぁ…」



私の口から指がスッと引き抜かれた。口内の鉄の味は少しだけ薄れかかっていた


「名前、ご褒美あげるよ」


赤司くんはそう言うと私の首に吸い付いた。一瞬痛みに顔を歪めたがこの行為にも、もう慣れてしまった。今日もまた一つ私の首に愛のない赤いキスマークが増えた。今日で何個目だろう。

彼はいつも私で遊んだ後、仕上げにはこの行為をする。まるで小さい子が自分の玩具を取られぬよう名前を書くみたいに。彼は私が彼の所有物であるかを周りに見せつける為につけるのだ。


「僕に逆らわない、調教しがいのある子は好きだよ名前」


そんな言葉はお世辞にもならないよ、赤司くん