「ノボリ、最近よく笑うようになった」

ズズーと音をたて紙パックのいちごミルクをすする目の前の彼を一瞥する。

「はぁ?」
「名前のおかげ!ノボリ名前の話しするときいつも楽しそう!」
「…そう」
「え?なに不満?」


不満では無いが正直嬉しくない。私は笑う人が嫌いだ。
いつも笑っているこの目の前のヤツが良い例だ。クダリみたいにいっつも笑ってるヤツを見ると腹が立つ。ヘラヘラしてるヤツを見ると殴りたくなる


「笑うとクダリみたいになるから嫌だ」
「何ソレ!すっごく侵害!僕傷ついた!」
「うっさい。笑うな」
「仕方ないじゃん、元がこーゆー顔なんだから!」


クダリとは違ってヘラヘラしてない顔のノボリに私は惚れた。彼は教養もあるし紳士的で優しい。それに一番惚れたのはあの顔
彼は滅多に笑わないのだ。常に口はヘの字に曲がっているし、彼と長い事一緒にいるが本当に笑った顔を見たのは数回である


「潮時かなぁ…」
「え?何?」
「私笑う男は本当に嫌い」
「知ってるよ」
「見下された気分になる」
「それも知ってる」
「あんたの顔も嫌い」
「うるさい知ってる」
「中身は好きよ」

あっそ…と素っ気なく返したクダリを横目にライブキャスターをポチポチと操作する。メール機能を出して宛先を探す。の、の、ノボリと。

「ノボリに何言うの」
「勝手に見んな」
「ねぇってば」
「しつこい呼び出すだけ」
「呼び出して何言うの」
「何でも」
「……別れるの?」


メールを打つ手が止まる。はぁ、コイツはこんな時ばっかり勘が冴えるから面倒だな。


「そんな事言ったら、ノボリ二度と立ち直れないよ」
「別に、ノボリは傷つかなくていい。私を責めればいい」
「なにそれ」
「あ、ノボリから返信来たから行くわ」
「待って!」
「…何」
「せめて別れる事だけ言って。別れる理由は言わないで」
「ノボリが納得しないでしょ」
「でも…!」
「クダリ?名前?」


扉を開けようとしたら先に扉を開いた。少し焦った様子のノボリが立っていた。


「…早かったのね」
「ええ。名前が急な話しがあると言ったので」
「うん」
「待ってよ名前!」
「ノボリに話しがあるの」
「名前!」
「私達別れよう」


ノボリが大きく目を見開いて私を見つめる。手が震えてる。

「…冗談、でしょう?」
「私嘘はつかない」
「何故、ですか…」
「名前!駄目!お願い」


「ノボリが笑ったから」

「ノボリが笑うからノボリの事嫌いになった」


「私の顔…」
「言ったでしょ、私笑うなって」
「やめてよ!名前!最近やっとノボリは笑えるようになったんだ!」
「嫌い、嫌いよ笑う人なんて!」
「私が笑う…から…私の顔が…」
「やめて名前!ノボリ二度と笑えなくなっちゃう!」
「笑わなければいいんじゃない?」


ノボリの頬に手をあててノボリを見つめる。絶望に歪んだその顔、大好き


「ねえ、ノボリ。貴方に笑顔は似合わないわ」
「これから先二度と笑わないで」













「って言う事があってノボリが笑わなくなったって言ったらどうする?トウヤ、トウコ」

「いやいやどっからが嘘っすか」

「ノボリさんを必死に守るクダリさんまじ萌」

「トウコ、ツッコミするとこ違う」