「クダリさん」
「名前!」

今日も駅のホームに響く透き通るようなソプラノの声がわたくしの頭を苛立たせる。今日も、来たのか。

「クダリさん!私、今日もダブルに乗ります!」
「本当?僕嬉しい!」
「ふふ、私も楽しみですよ」

今日も貴方様はクダリにベッタリ。ああクダリが憎い……だってあの笑顔はいつもクダリにしか向けられない。

「あ、ノボリ!ほら名前が来たんだよ!」
「っ……こんにちは、ノボリさん」
「ええ、こんにちは」

先程とは打って変わってわたくしの目の前になると黙り、あの笑顔は一瞬にして消えてしまうのだから。

「あ、じゃ僕行くね!名前楽しみにしてるよ!」
「え、ええ」

クダリが去って行くのを名残惜しそうに見つめる瞳。潰してしまいたい…わたくしだけを見つめて欲しい、わたくしだけを写して欲しい

「今日もクダリの気を引くためにダブルに挑戦ですか?」
「…っ!」
「毎日毎日ご苦労な事ですね。まるでストーカーのようですよ」

ああ違う違う違う違う!
わたくしが言いたいのはこんな事では無いのに

「ああなんと汚らわしい…そんな顔で毎日クダリに会いに行っていたのですか?」

違う違う違う違う
貴方様の顔は美しい。笑顔も輝いてる、本当はとても綺麗なのです

「そんな甘ったるい声など出してクダリを誘惑しようとでも?」

違う違う違う違う
人より少し高めのソプラノを出す貴方様の声を聞くだけでわたくしは幸せなのです

「本当に気に入らない」

好きです、貴方様が
愛しております。心の底から


「…ご、めんな…さ、いっ…」


ああ今日も貴方様は泣くのですね
いつになったら貴方様は笑って下さるのですか
いつになったら貴方様はクダリではなくわたくしを見てくれるのですか
いつになったら貴方様に好きと伝えられるのでしょうか