体育館はすでに人の熱気でむんむんしていた。夏の湿気た、肌にはりついてくるような暑さに近い、わりと不快な気候だ。秋休み前の終業式という、ちゃんとした集会なのに、生徒がそこらへんにうろついている。ざわつきが収まるようすはなく、席に座っても、そこかしこから笑い声や叫び声が聞こえてくる。そんな喧騒のなか、わたしはひとり席に着き、静かにメールを打っていた。四方八方を男子に囲まれて、喋り相手も居なかったからである。出席番号順でクラスごとに一列に整列するときのこの状況はもう3回目ほどで、前期が終わっても、前後の男子とは仲睦まじく無駄話を交わすほど、仲良くならなかった。
ほどなくして集会がはじまれば、ざわついていた生徒たちが徐々に落ち着いて、号令がかかると、体育館は校長の演説する声しか聞こえなくなった。相変わらず、この学校の目指すべき方針だとかの話と、いくつかの道徳的な話などをされ、10分ほどでそれは終わった。つまらなかった。
ふと視線を外せば、ずっと左の方では、参考書を読む3年生が目に入った。隣のクラスの男子は、ほとんどが眠りこけている。中弛みしているなあと横目で見ていたら、左斜め前に、ひときわ目をひく金髪が目に入った。たしか、忍足くんとかいうひとだ。詳しくは知らないけれど、選択授業がひとつだけかぶっていた気がする。今日は白のワイシャツの上に、白のセーターを羽織っていた。いやカーディガンかも。正面じゃなきゃわからない。それにしても金髪で白のトップスって、すごい膨張色だなあ。ベルトは指定のものでなく、けっこう茶色がかったおしゃれベルト。生徒指導の先生がながたらしい話をしているのも聞かず、忍足くんを凝視してしまった。よくみたらちょっとかっこいいかも。後ろ姿。暇つぶしになるかと思い、わたしは彼の観察をはじめることとした。中弛みしてるのは忍足くんも例外じゃないようで、かくんかくん船を漕ぐみたいに、頭が上下していた。規則的に沈んだと思えば、まだ墜ちきっていないのか、すんでのところで正しい姿勢に戻る。きをつけ、礼、の号令の声がいささか大きいせいで、忍足くんがバランスをくずした。こっけいだ。隣の席の女の
子と知り合いらしく、クスクスと笑いあっていた。忍足くんは浅くパイプ椅子に座り直して、今度はしっかりと話を聞く体制にはいったみたいだ。横顔は確認できなかった。そういえばこの人と、何度かすれ違ったことがある気がするなあ。あ、頭かいた。PTA会長の短い話が終わったあとは、恒例の表彰式だ。生徒会役員が、中総合などで賞をとった人たちを呼ぶ。陸上部、バスケ部、バド部、硬式テニス部、等々。忍足くんはガタッと席を立ったかと思うと、傍らに置いてあったらしい学ランを着て、すたすた前に歩いていった。やっぱり運動部か。なんとなくバスケ部っぽいな。ダンクシュートとかなんなくこなしてそうだし。スラムダンク好きそうだし。つかお腹すいた、早く集会終わんないかな。わたしも部活行きたいしな。ほどなくして、生徒会長と校長と顧問が入賞者を前に立たせて、表彰状と、時にはメダルやトロフィーを渡していく。あ、あれ白石だ。遠くから見てもテニス部はイケメンばっかりなのがよくわかる。サッカー部と張れるくらいかっこいいからな。みんなモデルやっててもおかしくない容姿って、もうテニスやってる場合じゃないよ、君たち。あれ?
ていうか白石の隣に居るのってアレじゃね、忍足くんじゃね?マジで?テニス部なの?知らなかったし。残念ながら遠すぎてやっぱり顔は確認できないけど多分イケメン。十中八九イケメン。だってテニス部だし、あと私の勘がそう言ってる。白石のやろうあんなかっこいい人間をわたしに紹介しないだなんて薄情なやつだな。忍足謙也、以下同文。とかいって、校長ちゃんと読んでよ。忍足くんだよ?なに時間短縮図ってんの。ていうかこの時期このひとたち全国大会行ってるんでない?白石が近畿大会のトロフィーを高く掲げ、忍足くんは嬉しそうに笑っていた。遠目だから顔のつくりはやっぱり不明。たぶん笑ってた、と思う。ていうか眠くなってきた。相変わらず一氏はバンダナ巻いててうざい。校則違反だと思う。誰か注意しろっつうの。
とかなんとか言ってるうちに、あたりはシーンと静まっていた。生活指導の先生が話してる。もうすぐ集会が終わる。あ、模試の申し込みしなきゃいけないんだった。めんどくさ。起立、気をつけ、礼、の号令で、みんな踵を返して出口に向かった。ガヤガヤ、元に戻った周りのうるささの中立ち上がり、ぱちんと携帯電話の蝶番をひらく。みんなが踵を返して出口に流れ込む。時間を確認してから前を向いたら、すげーイケメンがこっち向いてた。うわ目合った!俄然テンションあがる!金髪な上白のカーデってすごい膨張色だなあ背高いなあ部活何やってんだろ、バスケかな、なんかバスケっぽい。……あれ?これ、あれじゃん、忍足くんじゃない?膨張色でテニス部の忍足くんじゃない?うそ、想像の1万倍はかっこいい。ニコッ。…え、なに?なにこのひと?今笑った?うそまじで?こりゃモテるわきっと。ズギュウウウウンって効果音がつきそうなくらいわたしはときめいた。時が止まって、そしてまたゆっくりと動き出す。あの犬みたいに人懐っこい笑顔、筋の通った鼻、ああかっこいい!忍足くんが馬鹿笑いしている声で我にかえり、私は近くに居た女の子といっしょに教室ま
で戻った。そのあと白石に忍足くんの素晴らしさについて語り、紹介してもらったのは言うまでもない。
20101230
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