ねぇママ、あれは?あれは、いったい何の星?

あれはね、ベガっていうのよ。

その隣は?

アルタイルかな。デネブかも。

ええ、どっちなの?

ママ、あんまり天体に詳しくないから…パパに聞いて?

はーい。





わたしは幸せな生活を送っていた。魔法省に闇祓いとして勤める、優しくて男前な旦那がいたし、可愛い娘だっていた。わたしももう大人なのだから不思議じゃない。ハリーやハーマイオニーと比べやや早婚だったが、わたしは満足感でいっぱいだった。
いま、その娘といっしょに、室内用のプラネタリウムを鑑賞して、ソファーに深く身を沈めた。娘がドアを閉める。暗い部屋でひとり天井を見つめ、さまざまな星を追った。杖を一振りすると、横に星座の名前があらわれた。
蟹座。ペガスス座。オリオン座。おおいぬ座。
ぴたりとわたしの視線が、おおいぬ座でとまった。おおいぬ座、シリウス。シリウスを見ると、かならずシリウス・ブラックを連想させてしまう。シリウス。5年ほど前に死んだ。シリウス。わたしは久しぶりにそのシリウスという字面を見て、ぼんやりと考えた。初めて会ったのは、確か、シリウスの家だ。なんとなくあの目つきが気になったのを覚えている。シリウス。
敵意むきだしの目で見てきた。彼はブラック家と闇が嫌いだった。暗闇も嫌いだったし夜も嫌いだったし、ひとりも嫌いだったし、なにより闇の魔法が嫌いだった。嫌い、というより、きっと恐怖や苦手意識もはらんでいた。さまざまな思いをかかえ、彼は闇が嫌いだと言った。シリウス。
人一倍光に飢えていた。彼は求めていた。太陽、かけがえのない仲間、屈託のない笑顔、損得を考えない関係、そして光。果てしない光。シリウス。
光を求めすぎたシリウス。途中で、闇の落とし穴にひっかかったシリウス。わたしは悲しかったしむなしかった。闇に飲まれたことが?ついに裏切ったことが?彼が居なくなったことが?
シリウス。誰も追いつけなかった。彼は早かった。だから先にいってしまった。気が早いシリウスはそのまま光になったのだ。死のヴェールの向こうにあるのは、虚無ではないのだ。光が登り天に差し、そのままあの星になる。おおいぬ座はシリウスそのものだった。誰よりも輝いていたシリウスはそのまま星になったのだ。だからわたしも星になりたい。今度こそ彼の近くで共に輝いていたい。たまにふっと思う瞬間がある。誰にも話したことはない。だからこれは、わたしだけの、ひみつだ。
101007 再掲
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