南野君はわたしの隣の席だった。
席替えした当時はうきうきしたものだった、今ではあのころが懐かしい、というのも、南野君はこのクラス、いや、学年、学校、むしろ街一番かっこいい男子であると言っても過言でなかったからだ。しかも容姿端麗なうえに頭もいいし、どれくらい頭がいいかっていえばそれはもう学年一いや宇宙一の秀才、アインシュタインも超えれるレベルなんだけれど、そうそうスポーツもできるんだった。まあつまり出木杉くんをそのまま現実世界にもってきましたみたいなハイスペック人間で、みんながそんな超出木杉くんをほっとくはずがなく、生物部なのにモテモテの南野君の隣になるっていうのは盟王のテストで80点をとるくらい幸せなことであって。ちなみに生物部はどこの高校でもオタクというかマニアの集まりとして有名だが盟王も例外ではない。
まあ今では、少なくとも私の中では大したことではないのだけれど。
あれだけうつつをぬかしていた私がなぜこれほどまでに興味が失せているかといえば。そんな感じの南野君に近づくチャンス!とオクテな私が他の女子と同じようにいきり立ってアピろうとしたら、南野君が意外にもクールだったからだ。それまで抱いてきた、南野君は王子様のイメージが崩れ去って、今では大人しくて人と話すのが苦手なイケメンという扱いとなっている。つまり私のタイプじゃない。私なんかの中でこんな格付けがされていると南野君に知られたらきっと心外だと思われるだろう。ごめんねこんな失礼な隣の住人で。
しかし最近気づいたことがあるのだが、南野君の話は意外と面白い。ぶっちゃけこの名門校は、いかにも勉強が趣味ですみたいな人が半分をしめているつまらない学校なのだが(これもまた私の勝手で最低なイメージである)、南野君は例外で、とても話し方がうまいのだ。こう、ギャグセンがどうとかでなく、普通に聞いていて興味深い話をするのだ。これが王子様やら貴公子やらロミオやらと言われる所以なのか。うん、そうだと思う。


「うーん、南野君ってずるいなあ」
「いきなりひどいなあ」
「ちょっと腹割って話そうよ」
「ええ…」
「(明らかに嫌がっておる!)」
「うーん、まだ君のことあまり知らないし」
「席替えしてもう1ヶ月だよ!?選択授業も同じだよ!?」
「そうだったかな」
「もう」
「あはは、怒らないでよ」
「そうじゃなくて、ほら、南野君の欠点見つけてたんだけど」
「俺の?欠点?」
「南野君の欠点は完璧すぎて人間ばなれしてるところです」


あははそうかな、とまた笑って誤魔化されたので、「あとそうやって、人を笑っていなすところ」と付け足せば、かなわないといった感じで肩を竦められた。ナメられてる!明らかにナメられてる!悔しさに顔を歪めたら、こんどはまたあははと声をあげて爽やかに笑われた。どうしてあははと軽く笑うことができるんだろう。いろいろと不思議でしょうがない。

「南野君ってさあ、誰とも連まないよね」
「そんなの、盟王生なら珍しくないよ」
「それはみんな仲間意識がないから!つまり、なんで南野君は、人を避けるのか不思議ってこと」


うーん、と考えるそぶりの南野君は変わらず麗しいし、女子のわたしより1000倍は可愛いけれど、このひとはろくなこと思っちゃいない。いまだってきっと「本当のこと言ってあげようか」

「…え?」
「鬱陶しい人間に纏わりつかれるのは心底疲れるからだよ」


…え?
一瞬びっくりしてしまったがとうとう南野君の本性を見つけたり!って、これじゃ全然意味ないじゃん。ただ南野君と面白い話をしあえる仲になろうと頑張ったのに鬱陶しいの一言で片付けられるこの虚しさ。だって今の鬱陶しい人間って、確実にわたしじゃん。あ、悪魔だ。南野君はロミオなんかじゃなかった。ただの性悪毒舌偽善的王子様だ。にこにこ人のよさそうな笑顔の南野君の顔を思いっきりひっぱたいていいくらいの暴言をもらって私は腸が煮えくり返った。


「あはは、嘘だよ」
「…傷ついたよ…」
「それに、名字さんだったら面白いから、大歓迎だしね」



隣の席の南野君




は、やっぱり歯の浮きそうな気障すぎる台詞を言う、ただの王子様でした。あーもうこんな漫画みたいな展開で胸が高鳴る私って一体、何!

101002 もう何も言うまい
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