冬眠中だという、飛影の体が身じろぐたび、わたしはそちらに、ちらりと目を向けるのだった。するとそれにきづいた蔵馬に微笑まれ、わたしはばつがわるそうに、のたまうように、まだくやしがるように唇をすこしだけ噛む。雰囲気を感じ取った幽助に冷やかされると、横から桑原までもが冗談めかして入ってきた。あははと曖昧に笑っても、みんな簡単に引いてはくれないから、わたしは毎度のこと、対処に迷う。

「ほんとに飛影のこと、すきなんだな、名前」
「そんなこと…………ありますね」
「おーおーノロケちゃってよぉ」
「惚気てないってば」
「名前くらいじゃないか、飛影がこんなに安心してるなんて」
「安心って、今寝てるじゃん」
「ちがいますよ、ふだんの話です」
「安心?飛影が?」

蔵馬のものいいに疑問符を頭に浮かべれば、それが彼にも伝わったようで、はあ、と軽くため息をつかれた。この男は優男に見えるがそうでなく、はたして、さすが妖狐というべきか、なかなか神経の図太い部分を持ち合わせているらしい。綺麗なバラはなんとやら、呆れ顔すら整っている南野秀一を見て、わたしは、ふん、とひとつ鼻を鳴らした。そうすると、またわたしの心の内を測ったのか、こんどはあははと爽やかに笑われた。ほんとうに美形は特だなあ、と口に出したら、彼の操る植物たちによって串刺しの刑にされそうなので、憚っておく。


「飛影は、大切なひとだから」
「大切ねえ」
「なーんでよりにもよって、飛影なんだよ、オイ」
「桑原アンタいつも一言多いのよ」
「いや、だってアイツ、戦いのことしか頭にねぇし取っつきにくいし毒舌だしよ」


桑原と幽助が立て続けに喋ると、みんなそう思っているのかと肩をすくめて、飛影に視線を戻した。静かに上下する胸あたりを確認すると、彼が生きていることをまた、あらためて実感し、安心した。ブランケットをかけ直して、彼の指先を遊びながら、私は口を開いた。


「かわいいじゃん、飛影って」
「カワイイ!?こいつが!!!??」
「絶対にそう返してくると思った、桑原」
「まあ、名前ならそうくると思いましたよ」
「もちろん、戦ってるときはかっこいいけど」
「なに?具体的にどこがいいわけ」
「天の邪鬼なところ」
「…………ああ〜」


微妙な表情で頷かれる。お前ら乙女心ひとつもわかってないよ。相変わらず蔵馬は笑ってばかりだったけれど、少しばかり苦笑に近いことが見てとれた。まあこの反応もすべて予想どおりだったわけだけれど。


「つまり飛影は、あなたにとても心を開いていますね、という話をしたかったんですよ、僕は」


ふふ、と含んだ笑いをする蔵馬にまたにこりと笑いかけて、飛影の髪をそっと撫ぜた。少しだけごわごわとした感じがする。指も骨が角張っていて、男性的なそれだった。この手は、何度となく自身の血に染まり、また幾度も敵をのしてきた。そして、わたしに安らぎをくれるものでもある。大切に大切に、彼の右手を包みあげると、ぬくもりが伝わってきた。たまにぴくりと反応する指先に、言葉にできない愛おしさを感じ、少しだけ力を込めた。既に他の話題にうつっているみんなに隠れて、彼の顔を覗きこむと、まだあどけなさが残るような顔立ちのなかに、いつもの飛影の雰囲気もそこにあった。


「だいすき」


無意識についてでた言葉と、気づいたらわたしは、彼の頬に唇を寄せていた。胸がしめつけられるような苦しさと、また甘い快さで、私は少しだけ笑みを浮かべた。





「寝込みを襲うとは、いい度胸をしているな」






と、台詞を放ったのは紛れもなく飛影で、口をぱくぱくさせてひとさし指で彼をさすと、ふん、とひとつ、鼻を鳴らされた。いたたまれなくなって、小さな声でごめんと謝罪を口にすれば、先ほどのいやな唇の歪みがさらに濃くなり、そして、ゆっくりと彼の顔がこちらに近づいてきて、きれいな肌をしているなあとか、いつから起きていたんだろうとか、そして先ほどの羞恥を感じていたら、噛みつかれるように、荒々しいキスをされた。気づいたときには、彼はベッドから起き上がっており、後ろに居た幽助と、二、三会話を交わしていた。完璧にフリーズしたわたしは、先ほどの飛影の表情が頭からはなれなくて、恥ずかしさと似て非なる、よくわからない感情に支配され、まだ飛影のぬくもりが残るベッドに、顔を沈めた。後ろからわたしを心配する蔵馬の声が聞こえて、ひらひらと手をふった。だって、あの表情と行動は、かっこよすぎだと思った。



「うふ」
「なんだよ名前きもいぞ」
「いいのよ幽助くん、今わたしの心は大海原のように深く寛大で広いのだから、そのていどの暴言で怒るわたしじゃなくてよ、あは」
「うお、槍でも降るんじゃねーか、あしたは」
「うふふ」
「名前、その顔面どうにかしてください」
「アッハハハ」
「…」



こいつらなんだか失礼なこと言ってる気がするけど今のわたしにはそんなことば気にする余裕なんてないわ!上気した頬に両手を置いてすっくと立ち上がり、飛影が出て行ったドアのほうにむかってまっしぐらに歩き出す。



「飛影ーあいしてるー!」





そのときの飛影の顔といったら狐がつままれたような形相で、なんだかそれがおもしろくて笑ってしまった。幽助のはやし立てるような声を聞いた彼は、恥ずかしさからか、また物騒な言葉を口にして、すこしだけ震えていた。さあ飛影くん、そろそろ愛の逃避行でもしましょうか。20100924
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