前略。あなたは僕と相反するいまいましいグリフィンドール(というと、あなたはまた怒りますか?しかしそれで僕に気を向けてくれるならそれもいいかもしれません)の生徒であったけれど、間違いなく僕に影響を与えた存在だった。だからあなたが卒業するだなんて、そんなこと信じられるはずがありません。
僕だけでなく、あなたはみんなに慕われていた存在であったと存じています。不甲斐ない兄や、その兄の級友、ゴーストやしもべ妖精までもが、悲しんでいると思います。これは誇張や過言などではなく、真実を僕は言っています。もしいま、あなたがこの文を読んでいるなら、そう書いておきましょう。こんなに本音を語るという僕を、あなたは知らないだろうから。
ところであなたは知っていますか?ヘリオス神の話を。なあに、昔の人々が創った寓話に過ぎません。ヘリオスというのは、神話によると、光をくれる者らしいのです。いえ、いえ、ルーモスの呪文などではなく、太陽の光です。朝日や、微睡む昼のぽかぽかした日差し、午後の木漏れ日、夕焼けは彼が運んでいるらしいのです。馬車に乗ってね。そして日が落ちるころにはその光を回収して、自分の宮殿へ戻ります。あなたは僕の世界に、ゆいいつ射し込んでいた光だった。いつも地下牢のような寮で生活し、闇の道を歩むであろう僕の、最後の希望であったかもしれません。
だからあなたが居なくなったそのあとは、ぬかるんだ畦道を壊すみたいにゆっくりと、しかし着実に歩むこととなるでしょう。最後の砦となるあなたは、そんな僕を、ただの一生徒としか見ていなかったでしょうけれど、僕はあなたを少なくとも特別視はしていました。あなたに会ってから光がうらやましく感じました。それは僕がまだ甘いからだと思います。
僕は自分で、どうしてあなたを特別に感じているのか、理由をつけるのにだいぶ時間が掛かりました。恋や愛の類である感情ならば、そのまま情に流されてしまうと思いますが、しかし僕はブラック家ですから、そうそう簡単に恋に落ちるわけにはいかないのです。ようするに、僕はそうそう恋をしたりするような柄でないのです。同時に、あなたに対する、そんな砂を吐くほど甘いような感情を、残念ながら僕は持ち合わせてないことに気づき、自嘲しました。僕は焦っていたのです、それこそ、柄にもなくね。
もしあなたがヘリオス神ならば、僕はゼウスとなって、あなたの馬車を撃ち落としましょう。もしあなたが太陽なら、僕はずっとあなたを宮殿から出すことなんてしません。
あなたは無事職に就けましたか。あなたのことですから、就職にも苦労したことだと思います、嫌みなんかじゃなく。もうあなたは成人して、ホグワーツという檻から飛び立つのですね。僕はやっとホグズミートに行ける年だというのに。
僕は一回だって、あなたに追いついたことはなかった。あなたは僕がやっとたどり着いたときには、もう何百マイルも先に居るのですから。今まではこの校内での狭い次元の話でしたが、これからは違う。あなたは僕が知らない世界と、社会の裏側を知ることになるのです。この断絶された世界から去るというのはどういう気持ちですか?寂しいのですか、怖いのですか、それとも楽しみですか?子どもの僕にはわかりません。それが僕を焦らせた要因かもしれません。
あなたが僕の前を走るなら、僕は意地でもあなたをおいかけます。たとえあなたが闇祓いだろうと、魔法省の役人だろうと、国外に行こうと、そして絶対に追いついてみせます。あなたの背中を見るのはもう嫌なのです。だって、まだ明確に、この感情の本質を理解していないのですから。どうしてこんなにもあなたという人間に固執し、劣等感や羨望の念を抱いているのでしょうか。わからない、わからないのです。
僕はあなたを越えるまで、かならずこの感情の答えを見つけてみせます。僕はあなたを忘れませんし、この誓いは絶対のものです。逃がしませんから、あなたも今と変わらぬまま居てほしい。ねえ、先輩、茨の道に甘い水なんて、少しもないんだ。あなたは光の先導者なのだから、自らが資格を奪うことはしなくてもいい。それでも闇の陣営に入るというのなら、僕は間違いなく、あなたの轍を踏むけれど。20100712 さりお
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