わたしは普通に浮気をする。他の学校のヤンキーとかバスケ部の人とか果ては同じクラスのイケメンとか。男をとっかえひっかえしてる阿婆擦れである。いつかレイプとかされても文句いえないくらい。理由はなにかと聞かれてもわたしは絶対に答えない。これでも交友範囲は広いから、目立って疎まれるようなこともない。成績も悪いわけじゃないから先生はわたしを優等生だと思ってる。ケバいメイクをしても注意してくるのは、風紀委員の真田だけである。
不純異性交遊の絶えぬわたしだが、ずっと縁を切らない男がひとりだけ居た。雅治だ。テニス部の、仁王雅治。こいつはコート上では詐欺師だなんだと言われているが、わたしに言わせればただの鈍感くんだ。物足りない。刺激や何やらが物足りない。しかも、わたしが浮気しても何も言ってこない。彼氏じゃないの?ってくらい何も言ってこない。しかも、別れよう、の一言すらない、素振りもみせない。そういうところがわたしを苛つかせる。言えばいいじゃん。お前みたいな女とは付き合ってられん。とか。目の前でにこにこ笑顔を浮かべている雅治を見ていたら殴りたくなった。なんなのこいつ、ていうか怒るのわたしじゃないでしょ、普通は浮気されたあんたのほうでしょ。

「むかつく、笑わないで」
「ひどいぜよ」
「なんでここに居んの」
「昼、一緒食おー、て」
「むかつく」
「なんで怒るんじゃ」
「だってわたし浮気してるんだよ」
「いまさらの話じゃのう」

のんきな声音でそう言う雅治にわたしはさらにイライラが募った。むかつく。なんでそんな余裕なわけ?あんたプライドないの?いろいろ言いたいことはあったけれど、こういうとき、いつだって雅治はにこにこしているから拍子抜けしてしまう。そして何も言えずに、昼休みが終わるチャイムが鳴って、あとの授業に集中できなくなってしまうのだった。

「名前ちゃんが好きなんじゃ」
「何なの、いきなり」
「言いたいこと、あるんじゃろ。顔に書いてあるぜよ」
「…むかつく、」
「何でもいいから言って」
「雅治は、つまんない」
「うん」
「浮気しても怒ってこないし、テニスやってるときみたいに飄々としてないし、わたしに甘いし、つまんない」
「うん」
「余裕な態度がむかつく、扱いにくい、」
「うん」
「雅治がわかんないよ」

わたしがうざったく思っていたのは雅治でなく、後ろに隠れた未知のものにたいする不安だった。雅治は、ふつうじゃないから、わたしはどうやって接したらいいかわからない。でもどうしようもなく好きだから、結局こうやってカレカノごっこを続けているんだと思う。こいつが嫉妬してくれれば、何かわかると思った。雅治みたいな、詐欺師と呼ばれるやつも、結局はひとりの男なのだと割り切ることができて、捨てることができたのに。そんな雅治は、くく、と柔らかくわらって、わたしの頭をぐしゃぐしゃと掻き回した。

「俺は好きな子のことを騙したりせんし、名前が思うほど格好のいい男じゃないぜよ」
「知ってる」
「不器用じゃのう、名前は」
「うるさい、なあ」
「なあ、俺だけ見とって」
「…うん」
「もう我慢できないぜよ。他の男に触らせなさんな」
「うん」



雅治はくしゃりと破顔して、そのままわたしの肩に顔をうずめた。彼の心臓の鼓動がかすかに聞こえる。筋肉の軋む音が耳に残る。雅治はつまらない男だ。コート上ではあんなにかっこいいのに。これならまだ丸井のほうが魅力的である。わたしの行き場のない手は、そのまま彼の膝の上に置かれた。感じる体温に、温もりが眠さをよんで、身じろぎをする。ふあ、と欠伸をひとつ伸ばせば、雅治は私の肩から離れ、にこりと笑みを浮かべながら、ごろんとタイルに寝転がる。そして両腕を大きく広げて、「寝てええぜよ」と一言つぶやいた。それに惹かれるみたいにごろんと横になると、髪が乱れることは気にしないで、目を閉じた。そして、雅治がわたしの頭を撫ぜて、「愛してるぜよ」と柔らかい声音で、独り言のように言ったので、「わたしも」と返事をし、それからすうと深い深い眠りについた。それは人と付き合ってから、初めての安らぎだった。
100626/さり夫
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