佐伯とわたしは付き合っていたけど。比較する対象が居ないからけどという言葉を発するのはおかしいか。わたしは佐伯がすきだった。このうえなく。佐伯がどれだけわたしをすきかは知らないけど。わたしは佐伯じゃないし。でもたぶんすきあってたとおもう。周りのカップルと同じくらいに。そもそもそれが比べる対象じゃないかもしれないけど。でもまあ世間一般から見れば平々凡々なカップルだろう。
佐伯はよくモテた。先輩にも後輩にも気にいられていた。高校生から逆ナンされてたりもした。特に文化祭のときなんかはひどかった。わたしは嫉妬した。最初は相手にもしてなかったけど。佐伯はやんわりとしか断らないから。わたしが痺れを切らすことも多かった。佐伯の前だけじゃなくて他人のまえでも欲望丸出しだった。自分でも理解していた。冷静になった瞬間。足先からぞわぞわときて。佐伯がいつ自分を嫌いになるのかいつわたしの前から居なくなるのかこの性格はいつになったらなおるのか。佐伯くらいのパーフェクトボーイならばわたしよりずっとずっといい女の子が居るはずだ。家庭的で美人で悪口言わないスポーツ万能秀才。佐伯の女の子バージョンみたいな子。
なにより不安にさせたことは佐伯の態度だった。佐伯はわたしに厳しい。よく叱咤されるし。「可愛い」なんて言われたことない。「ぶさいく」とかそのへんは言われたことあるけど。ボンクラのわたしと彼が付き合ってることがまずおかしいのだろうけどへこむ。そして佐伯はわたしのどこが好きなのかと自問自答する。女避けのため?B専?それくらいしか思いつかなかったしどれもピンとこなかった。
ソファで足を組んで本を読む佐伯の横でケータイをいじる。佐伯は横目でこちらを見たあとにやりと笑った。「可愛くない。」「うるさい。」「君も本とか読めよ。」「興味ないから。」「そう。じゃあ僕帰ろうかな。」「帰れば。」「君の顔ひどいよ。」「元からだもの。」「違うよ。そういうことじゃなくて。帰ってほしくなさそうな表情してる。」「してないよ。はやく帰れば。」「意地っ張り。君はほんとうに可愛くないね。」「佐伯は」


佐伯はかっこいいけど。そうは言えなかった。佐伯は美しかった。けれど内面はみにくく歪んでいる。それもわたしを対象とすると彼の世界はぐにゃりと歪む。でもわたしはそんな彼が好きだった。心底好きだった。その笑顔もテニスも顔もみにくい部分でさえも。


「君はよく時間が止まったみたいに動かなくなるね。」「言いかけたの。言葉を。」「鈍臭い。可愛くないよ。」「佐伯は」「うん?」「わたしが可愛くなったら別れるの。」「どうかな。君が可愛くなることが想像できない。」


さわやかな笑顔。目がちかちかした。その笑顔はわたしだけのものだけれど。どこか不安だった。この関係の主導権を100%握っているのは彼ということは別れるも依存されるも彼しだいということ。いやだった。佐伯と一緒に居れなくなるのは。けれどいやだった。佐伯に可愛いと思われないのは。




「わからないよ。」「なにが?」「可愛い方がいいじゃない。好きになるなら可愛い方がいいじゃない。」「好き。僕が。君のことを?」「付き合っているってそういうことでしょ。いやだ離れたくない居なくならないで。わたし佐伯がすきなの。ほんとは帰ってほしくないずっと居て。他の子と話しちゃいやだ。でもわたし佐伯に可愛いって思われたい。別れたくないよ。」「別れるだなんて言っていないよ。」「だってそんな口振りだったもの。わたし絶対に佐伯を離さない。」

双眸からはぼろぼろと涙があふれていた。佐伯のすがたがゆがむ。ぐにゃり。すくりと彼が立ち上がるのがわかる。蛍光灯のせいで逆光になりよく表情がわからない。そのままわたしの目線まで屈んでくるものだからそれにあわせてわたしも彼を見上げた。上目遣い。彼はさわやかに笑っていた。王子様のようだった。甘いしびれが体の芯に走る。





「君は、世界一最高な彼女だよ。」







そのままかぶりつくみたいにわたしの唇を食べられた。ちゅくちゅく口内を犯されればもうわたしは彼の術中の中に嵌っている。熱くなる心臓とうるさい脈動。いやらしい水音。わたしを官能的な気分にさせる。佐伯は世界一最低な彼氏だ。
100603
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