海馬がため息をつき、作業に戻った。キーボードを打って、ディスプレイをみつめる姿も優雅で、見とれてしまう。いい目の保養だ。
判子を押したりパソコンで文書を作成したり、社長の彼はいろいろと忙しそうにみえるが、そこらの一高校の生徒会長の私というと、今度の集会のスピーチの原稿、軽い書類の判子押し(きっと海馬のものとは比べ物にならないだろう)、そして本来ただの役員がする、パンフレットのホチキス止めの作業をしていた。しかも原稿用紙は白紙。なぜか関係のない彼にギロリと睨まれたので、やむなく内容を考えることに専念する。


「何故貴様が生徒会長なんだ?心底不思議だ」
「うるさい」
「非ィ科学的だ」
「うるさいよもう」
「低能な奴め、貴様も凡骨か」

一文字目を書き始めると、それを見た海馬が、「あぁ」とか「はぁ」とか「フン」とか、そういう微妙なため息をついた。失礼なやつだ。眉間に皺をよせると、いつものように、「はぁん」と馬鹿にしたような鼻の笑い方だったので、再度「うるさい」とだけ。そうしたら、彼がわたしをにらんでくるので、仕方なく原稿を書く作業に戻った。
カリカリ、ペンを走らせる音だけ聞こえる生徒会室。会長室も副会長室も空いているのに、わたしたちはこの空間で作業をする。なんだか、馬鹿馬鹿しい。
別に、彼の近くで原稿を書きたいわけではない。彼は確かに惚れ惚れするほどの美形だけれども、わたしは彼に靡かれたことは一度もなかった(でも確かに、すこしだけ、かっこいいなと思った)。むしろ触れ合ったことすら皆無に等しい。ある意味学園の有名人なんて人と、ごくごくプレーンな(いや、地味すぎる)生徒じゃ、関わる点もない。
ただ、この高校に入学して、いわゆる「高校デビュー」をしたわたしは、生徒会役員になることを選んだ。そこで初めて、彼との接点が生まれた。
だからといって、初めて間近に見た彼の端正な顔を見て惚れたわけでもない。

ただ、この男が、疎ましいのだ。
疎ましいと共に尊敬の念、憎しみ、すべてが渦巻いている。美形で秀才なだけじゃない、何よりカリスマ性が、彼にはあった。
人をひきつけるのは、その美貌だけではなく、彼のリーダーとしての実力、それがわたしには憎らしいほどに羨ましかった。


「ねえ、」
「何だ」
「人に羨望の的にされるって、辛いの?」
「…辛い、だと?」
「疲れるでしょう」
「何を言っているんだ、俺は貴様らのような者に尊敬されるに値する存在だろう?」
「……」


くすり。妖艶に笑ってみせる彼はやはり余裕にみちあふれ、気品さえもただよっていた。なのでわたしも笑い返すと、それぞれの仕事へと戻った。


「…尊敬してるよ」


その言葉は沈黙の中に響き、やがて沈んだ。


「…尊敬、だけか」
「え、」
「…………俺がここまで、ただのクラスメイトである貴様に対し饒舌なのは何故だか分からないのか」


そう言った海馬くんは、ニヒルな笑みを唇に浮かべ、頬杖をついた(ああ)(その姿さえも、美しい)。
海馬くんの言葉の意味を漸く理解したところで、私は果たしてそのとき、ときめいたのだろうか、わからなかった。ただ海馬くんはじっと私の顔を見つめ、私が喋りだすのを待っている。わからない。彼の腹の内が読めない。ただ私の口から出る言葉は場にそぐわないもので、けれど今の気持ちを表現するには十分すぎる言葉だったと思う。海馬くんは訳が分からないといったような顔で私の顔を凝視していた。その目には今私の姿が映し出されている。ねえ海馬くん、今君は、どんなことを考えているの?



優しく吐きだす




す き
100420
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