そろそろマフラーなど防寒具を着衣しはじめる人も多くなった頃、ホグワーツの中庭は枯れ葉が風で舞い上がり、日が落ちれば、はあと息を吐くと白くなり、色濃く晩秋を感じさせた。
わたしはシリウスと付き合っている。もう彼のそばにきて、半年は経つと思う。むろん彼のことは愛している。彼もわたしを愛している。キスもセックスもする。ふつうの恋人同士だ。寮もいっしょなので、容易に逢い引きすることが可能だ。
そんなわたしはというと、めずらしくも、うるさい校内の静かな木の下で本を読んでいた。雑誌でもなく、ましてや教科書であるわけもないが、ただ装丁に惹かれた小説文の半分当たりを過ぎたくらいのころ、綺麗に巻かれた髪がふわりと揺れ、常時うる目で、キラキラした女の子らしい女の子と密着して歩くシリウス・ブラックを発見した。今回の女の子は30点といったところだ、いままで彼が選んできた『浮気相手』の中では極めて質が低い。シリウスが彼女をどうみているのかはしらないが、よくよく見れば彼女の髪は傷んでキシキシしているし(きっとブリーチのし過ぎか日焼けだ。いずれにしろケアを怠っている)、ファンデーションは厚塗りしすぎて浮いてしまっているし、スカートも中途半端なまるでオタクみたいな丈だ。唯一の救いは脚がキレイで長く、ウェストもしっかりとくびれていることだ。いや、唯一っていうか宝の持ち腐れすぎる。
わたしは怒っていた。
だって、わたしは本妻であるにもかかわらず、シリウスはそんなわたしを置いて他の女といちゃいちゃいちゃいちゃ。わたしのほうはいらいらいらいら。許せなかった。そんな惨めな思いをさせたこと、そして、彼がわたしひとりでは飽きたらず、側妾を幾人も手中におさめていること!わたしはプライドが高かったから、浮気は今まで許したことがなかった。というか、浮気をされたことがなかった。
シリウスは、わたしが浮気を黙認するような女だと思っている。ただの推測でしかないが、わたしはなめられている。ばかみたいに大口開けて、脳天気に笑う、品のない女だと思われている。間違ってはないが、わたしだって、いろいろ考える節はある。
今日でちょうど3人目、わたしは本を荒々しく閉じ、シリウスらを横目で見たあと、寮に帰った。談話室はそこそこ暖かかった。
そのまま自室に帰って、本をベッドに置くと、とうとうじっとしていられなくなり、また談話室へ降りた。人もまばらだった。

「ジェームズ、ちょっと」
「あぁ、ハーイ名前、どうしたの?」

ジェームズが珍しくひとりで読書をしていた。ピーターとリーマスは不在のようだった。

「忍びの地図、貸してほしい」
「…パッドフットの野郎、君に話したんだ?」
「ごめんなさい」
「いや、いいよ、君は悪くないし。貸すけど、しかしどうしてまた?」
「シリウスの居る場所を知りたいから」
「名前、最近よくイラついてるね。目が悪魔のようだよ」
「当たり前でしょう。浮気は最低の行為と見なすわ」
「別れるのかい?」
「どうかな。彼の態度による」
「はは、鬼だね。でも名前、この浮気、三回目だろ」
「そうよ。三回も我慢したの」
「アイツにとっちゃ、大分耐えたほうだと思うよ?」
「そんなの関係ないもん」
「そっか…じゃ、後で渡すよ」
「うん。ありがとう」

夕食後。やけににやにやしたジェームズから地図を受け取り、シリウスの名前を探した。ひとりかと思っていたのだが、どうやら空き教室かどこかに、女と二人で居るらしい。わたしはとうとう頭の糸が切れた。地図を内ポケットへ丁寧にしまうと、目的地へ早歩きで向かった。
人通りも少なくなったこの時間、わたしは閉まった扉に手をかけ、一気に開いた。シリウスたちは、確かにそこに居た。彼も彼女の方も目が点になり、馬鹿みたいに近づいてくるわたしを追っていた。狐につままれたような表情の彼らが馬鹿みたいだった。

「人のモノに手出すって、どんな神経してんの?」
「あ…なたが、ちゃんとしてないからでしょ!シリウスはモノじゃないわよ!」
「たかだか浮気相手に言われる筋合いはないわよ」

わたしが言い放つと、彼女はローブをまさぐりはじめた。杖を探しているのだ。呪いをかけられたらたまらないので、とりあえず武装解除をしておいた。彼女は無防備な状態、わたしは額に杖をつきつけた。彼女は目を見開いた。焦りの色が見えた。

「次に杖向けたら殺すわよ」
「なによ…やれるものならやってみなさい!」
「シリウスにやらせるけど」

終始ぽかーんと口を開けていたシリウスは、やっと現実にかえったようで、ため息のようなものをひとつつき、「エイミー、帰れ」と一言。彼女は悔しそうにわたしを睨んで、荒々しくドアを開閉した。教室内は、わたしとシリウスの二人だけになった。「お前、そんなキャラだっけ?」
「何で浮気なんてしたの」
「…」
「聞いてるんだから答えなさい」
「だっ…て、お前だって、他の寮のやつかっこいいとか、言ってんじゃねーかよ!」
「話したことないやつばっかりだよ」
「…」

ばつが悪そうにうつむくシリウスはとても絵になっていた。しかしわたしはそれでも怒りがおさまらなかったし、さらに反論してきたことで、イラッときたため、無言をつらぬいた。

「おれ、は、お前だけしか、かわいいって思わないし」
「キスは」
「え?」
「したの?キスは?セックスは?」

シリウスはだんまりだった。わたしはそれを肯定と受け取った。判断するのに時間はかからなかった。怒りに震えたわたしの右手はいつのまにかシリウスの頬をたたいていて、気づけばシリウスは、わたしの顔を凝視していた。悪いことをしたとは思わない。全部シリウスがわるい。
わたしは踵をかえし、さっさと寮に帰ろうとすれば、彼は「待て」というので(まだなにかあるの?)、立ち止まれば、さらに彼からは二の句が告げられた。

「俺、おまえのことだけ、愛してるんだよ!」

怒りをとおりこして、わたしは呆れにもにた虚無感を覚えた。なんなんだこの男は。浮気相手とセックスまでいって、堂々と校内デートして、挙げ句の果てに許しを請うとは、愚の骨頂だ。いつもの強気な態度の欠片も見受けられない。たしかに、まだわたしもこいつも愛しあっているが、しかしその発言には驚いた。だからわたしは言ってやったのだ。そうしたら、わたしは依然背を向けていたが、シリウスが息を呑む音が聞こえた。もう二度と彼とは会えないかもしれない、と思うと、とても心が重かった。だって、わたしはまだ、シリウスのことをあいしていたのだから。


「お前に愛を語る資格などない」
100414
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