名前はやわらかそうだった。というのが、このところ彼女を近くで見ての総評だった。ほどよくついた脂肪に、もちもちの白い肌、チョコレート色の瞳、肉がすこしだけついた指、標準と比べたら若干太いかもしれない足。
ふだん、俺は、自分で言うのもなんだが、モテるので、告白してくるのは勿論、美人のお嬢様ばっかりだ。小さい頃から、いやというほど美しい女性は見てきている。鼻が高くて、彫りが深くて、視線がセクシーで、ブロンドに碧眼、ウェストのくびれ、細く長い脚。ホグワーツにも、むろんそのような女生徒はたくさん居たし、今までもそんな女の子に何回も告られた。それは俺がブラック家な上にハンサムで、クィディッチができて、勉強もそこそこできるからだ。俺の付加価値が好きなのだ。かくいう俺も、彼女らの完璧なプロポーションが気に入ったので、幾度かはガールフレンドにしたこともある。それなりに愛情を注いだこともある。

俺は運命を感じた。
女に対して、いや、人に対して、『柔らかそう』という感想を、皮肉以外で一度も思ったことがなかったからか、名前にはかなり好感をもてた。いつでも笑顔だし、俺は彼女に話しかけたことはないけど、目があったら、すこしだけお辞儀をしてくれるし、あと蛙チョコを食べているところとかもよく見る。彼女はけっして美人ではないのだが、なにか惹かれるものがあった。内面的ななにかが滲み出て、それが俺を奮い立たせているのか?気づいて3日目くらいはそう思ったが、しかし、今まで会った美人な子の中にも、名前みたいに笑顔を絶やさない子も、蛙チョコをいつも持ち歩いている子も、目があったらお辞儀したり手ふったりしてくれた子も、ぜんぶ居た。だからその考えはまずない。
名前は平凡だ。
4日目で、俺は、俺にはない平凡さを持ち合わせている彼女に惹かれたのではないのかと思った。たぶん間違ってない。が、なんだかその答えではしっくりこなかったので、5日目にもまた悩んでいた。
6日目は、つまり今日だが、俺は名前に話しかけてみようかなと思っていた。これではまるで、俺が女々しく彼女に恋してるみたいだったから、なんだかスッキリしなかったのだ。いや、恋、間違ってはないか。
グリフィンドールの談話室を見回した。彼女はたまにここに姿を見せるが、今日は居ないらしい。まあ、そんな都合よく、ハッフルパフの人間がこんなところに現れないだろう。俺は夕食の時間まで待つことにした。
昼が終わった。名前が前からやってきていた。長い廊下の遠くのほうで、友達と楽しそうに会話する彼女を見つけた。俺は、ピーターとかジェームズとかリーマスとかと並んで歩いていたし、相手の友達との会話を遮ってまで、しかもこんなところで話しかけるのは躊躇われたため、やはり夕食の時間まで待つことにした。今は時でない。
授業が終わった。一日が終わったわけではないが、俺は今日の時程で、最後の授業はブランクを入れていたため、夕食までだいぶ休む時間があった。
俺は教科書とかを自室において廊下に出た。なんとなく、名前に会える気がした。彼女の姿を見つけたら、夕食までだいぶあるが、話しかけようと思っていた。

「あれ、シリウス、1人なの?」

後ろから女子の声が聞こえた。俺は振り返って顔を確認する。元カノのサマンサだった。こいつは、たしか4年生のとき、1年間弱くらいを過ごしたひとだ。なかなか居心地がよかったのを覚えている。なんで別れたかは覚えていない。まあ、お互いに愛が薄れたからだろう。そんなものだ。
しかし、それよりなにより、俺が驚いたのは、サマンサの隣に居たのが、なんと名前だったのだ。こういうとき人の勘は当たるものだ。

「ああ、ハーイ、サム」
「珍しいわね。ポッターとかは?」
「俺だって、ひとりの時間くらいあるよ」
「それもそうね」
「それより、隣の子は、ミス・名字かな?」
「あ、え…?そうだけど」
「あれ、シリウス、この子のこと知ってるの?」
「まあ、ちょっとな。夕食まで時間ある?」
「あるよ。次ブランクだから」
「少し話そうぜ、」
サムは気を使ってか、近くにいた友達といっしょに、寮の方へ帰ったみたいだった。名前は終始わたわたしていた。印象どおりの子だった。
廊下を歩きながら、とりあえず外にでる。そんなに寒い季節じゃないから、けっこう気持ちよかった。適当に座る場所を見つけて、二人で原っぱに腰をおろした。
名前は近くで見れば見るほど柔らかそうにみえた。あと、遠くで観察するより、実際に喋ってみると、可愛く感じられた。

「なんでわたしのこと知ってたの?」
「教えてほしい?」
「え、まあ、気になるかなあ」
「最近と言うには少し前から、名前のこと見てたから」

そういうと、名前は小首を傾げて目線をそらした。よくわからなかったらしい。まあ当たり前か。いきなりストーカー宣言して、怪訝な顔されなくてよかった。
しかし名前の話は面白かった。話上手盛り上げ役の子なんだなと感じた。でも、途中で、俺は、彼女の指とか髪とか唇とか脚とかに意識を奪われたので、オチは大部分聞いていなかった。
俺は、この感情をなんていったらいいかわからなかった。恋とか甘酸っぱいものじゃない気がした。もっと、単純な欲求なような、性欲に似たそれな気もしたし、恋よりもっと深いもののような感覚もあった。
とりあえず、名前はうまそうだなあ、と思った。今、人のことを初めてうまそうだと感じた。性的な意味でか、本当に食糧の意味でかは、俺にもよくわからなかった。両方な気もした。それがひどく曖昧なので、俺はいらいらいらいらして、名前の顔を無表情で覗きこんだ。名前は不意をつかれたように、また首をかしげた。俺はそんな名前の後頭部に手を回し、引き寄せた。そのまま貪るようにキスをした。唇だかよくわからないところにも、俺は初めてセックスをするチェリーボーイみたいに、必死のキスをした。やっぱり名前はうまそうで、そして、この感情は、単純明快に恋だったんだと気づいた。その中には、生まれて初めて支配欲も孕んでいたのだった。


「俺、お前が好きなんだ」
100128
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