わたしはずっと学生時代のころからシリウスのことが好きだった。彼のことを考えない日はなかったし、人並みに彼氏も居たけれども、心のどこかには彼が居た。それはたとえわたしがスリザリンの寮生であっても、卒業してからも、そしてまた彼がアズカバン送りになったと知っても変わらなかった。あまりにも愛が深すぎた。話したことだって数回しかないのに。だからわたしは、自分の意志で不死鳥の騎士団の一員になろうと考えたときに訪れたブラック家に居た彼の姿に心底驚いたのだ。

「愛してる」
そう男は言った。女にはそれでどれほど救われたかわからない。彼の真っ直ぐなまなざしが女を見つめ、捉えて離さなかった。必要とされる、そして彼の優しさがこんなにも嬉しいことなのだと、彼女は知らなかった。そして、彼が自分を想うなど、妄想にしかすぎないことだと悟っていた。所詮空想にしかすぎない、なぜならばシリウスは異端の子であったし、名前のほうはといえばマグル生まれでごくごく普通の能力をもつ魔女だったからだ。
もういつ自我が失われるか、いや、存在が消されるかわからない現状、またそんな魔法界という世界が薄っぺらすぎた。しかしシリウスはそんな毎日泣きそうな表情の名前をみているに関わらず、ことばを放ったのだった。

「本当、なの?」
うつむいて、声を搾り出しながら言うと、シリウスは、あ、と声をだしてから、
「名前が、おまえのことが、すきなんだ」

と、柄にも無く顔を紅潮させた。名前が朗らかに笑うと、男は、彼女に近付き、頭を胸に寄せる。お互いの背中に手を回し、しばし静止して動かない。彼の息遣いが近くに感じられ、名前はこの上ない幸せに満足感に浸る。互いの温もり、震えたその手、匂い、すべてが愛しく想える。

「名前」

そう彼が言ったので、名前は自身の唇で、彼の紡ぐ言葉をやめさせると、望を抑えられず、私は彼の着物に手を掛けた。シャツの裾からスルリ、手を差し入れる。名前は末端冷え性なので、指先が肌を滑るたび、腹筋が動いているのがわかった。

「シリウスを私のものにしたいの、」


骨張った鎖骨の間にキスをひとつ落とし、彼の唇を指でなぞる。そのまま唇を重ねれば、沈黙があたりを支配した。


「馬鹿、もうお前のもんだよ」


いキス
ですが

これでも

必死なのです

091017 さりを
×